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三章 シュエット・ミリーレデルの非日常

28 美貌の男①

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 シュエットはポカリと口を開いたまま、まばたきを繰り返した。

 まるで、目の前に居たのがゴーストか何かだったかのような反応である。

 見間違い? と彼女の顔にはありありと書いてあった。

 柘榴石ガーネットのような真っ赤な目と白い肌は、まるで白ウサギのようなのに、漆黒の髪の両サイドはピョンと外に跳ねていて、伏せた猫の耳のようにも見える。

(だれだ、こいつは)

 シュエットは開けっぱなしにしていた口を慌てて閉じると、取り繕ったように訝しげな顔をして目の前の男を見た。

 不審者を見るような視線で見たせいか、男が怯えたようにたじろぐ。

「朝からすまない。その……大事な話があるから、部屋に入れてもらえると助かる」

「大事な話? 初対面の女の家に入らなければいけないほどのお話とは、どんなものでしょうか?」

「初対面……そうか、そうだな」

 シュエットの冷たい言葉に、男はひどく傷ついたようだった。

 まるでシュエットの方がひどいことをしたみたいだ。突然やって来て、部屋に入れろと言っている方が非常識なのに。

「僕はまだ、名乗ってもいなかったな。申し訳ない。昨日、あなたが僕の名前を呼んだから、知っているつもりになっていた。……僕の名前は、エリオット・ピヴェール。王立ミグラテール学院で先輩だった者だ、と言えばわかるかな?」

 その……赤点大魔王のエリオットだ。

 そう言って、男は困ったように笑った。

『エリオット先輩』

 シュエットはたしかに昨夜、既視感を覚えてその名を口にした。

(エリオット先輩って、こんな人だったの?)

 シュエットは信じられない気持ちでいっぱいだった。

(だってまさか、目を隠していただけでこの美貌が隠れるなんて、誰が思う?)

 そうなのである。

 シュエットの目の前には、目を疑うような美貌の男が一人。

 かわいいとチヤホヤされる妹も、美人だともてはやされる妹も敵わないくらいの美しい顔が、そこにあった。

 温厚そうな目鼻立ちに、癖のある黒髪。切れ長の深紅の目は、思わず見入ってしまいそうなくらい美しい。困ったように眉が下がっていても、彼の美麗さはちっとも損なわれていなかった。

(これで金髪碧眼だったら、パーフェクトに絵本の王子様なんだけど)

 黒髪に赤い目。

 この国ではちょっと珍しい組み合わせだ。

 ここまで整っていると、まるで絵本に出てくる堕天使を彷彿ほうふつとさせる。

 美しく、清らかで、それなのに邪悪。

 見つめられたら、ついうっかり唯々諾々と従ってしまいそうだ。

 チラリと視線を上げたらフイッとそっぽを向かれてしまったから、それはなさそうだけれど。
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