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二章 シュエット・ミリーレデルの過去
24 諦めたはずの初恋①
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情けないことだが、エリオットは四年たった今でも、シュエットのことを忘れられないでいた。
名前を忘れたなんて、本当はうそだ。
店の看板を見なくたって、彼女の名前は頭に浮かんでいた。
(……嫁選びの書は、わかっていたのだろうな)
だから、彼女はここに──シュエット・ミリーレデルのもとにいるのだろう。
(禁書も彼女を選ぶ、か)
なるほどな、と腑に落ちるものがある。
だが同時に、心を見透かされているようで、悔しい。
(今思えば、あれは初恋だったのだろう)
十七歳にして。遅ればせながら。
シュエットが視界に入るようになったのは、彼女がエリオットの周囲をうろちょろするようになったからではない。
エリオットが無意識に、彼女を探していたからだ。
几帳面で、責任感が強くて、我慢強くて、真面目で、家族思い。
自分とはまるで違うシュエットは、エリオットの目にはキラキラと輝いて見えた。
目が離せない。
まさに、そんな感じだったのだろう。
一度目は、諦めて逃げ帰った。
二度目は──、
(今度こそ、うまくいくだろうか)
不安に思ってモリフクロウを見つめると、「わかっているわよ」と言うように、ゆっくりしたまばたきを返される。
そしてエリオットの背中を押すように、
「ホゥ、ホゥ、ホゥ!」
と鳴いた。
どうするの?
モリフクロウが、尋ねるように首をかしげる。
エリオットは目を閉じた。
ゆっくりと深呼吸して、目を開ける。
シュエットの深い青の目が、月明かりに煌めいているのが見えた。
思わず、
(ほしい)
とエリオットは手を伸ばす。
今までずっと、諦めてきた。
両親からの愛も。
周囲からの承認も。
友だちも。
将来の夢も。
『だから、これくらいは良いじゃないか』
そうささやいたのは、自分だったのか、それとも禁書だったのか。
気付けばエリオットの口からは、魔術を発動させる言葉が漏れていた。
「ゆるす」
ただ一言。
エリオットが呟くと、モリフクロウの胸に魔法陣が浮かび上がる。
魔法陣の中央には、王家の紋章。その周りを『愛の約束』という言葉を持つアイリスの花が囲む。
エリオットの目と同じ深紅色をした光を放ちながら、魔法陣はエリオットと、シュエット足元にも浮かび上がった。
「えっ、やだ、なに⁉︎」
ベランダで、シュエットが慌てふためいている。
(ごめんね、シュエット。でも、キミだけは、諦めきれないみたいだ)
泣き笑いのような顔で、エリオットはシュエットを見つめ続ける。
足元の魔法陣から逃れるように、シュエットは足踏みしているが、そんなのは無駄だ。
優秀な彼女ならそれくらいわかりそうなものなのに、いざと言う時は焦るらしい。
エリオットは清々しい気持ちで、それを受け入れていた。
だって、彼女と自分はゼロどころかマイナスからのスタートなのである。
もう落ちるところまで落ちているから、これ以上心配することはなにもない。
モリフクロウに後押ししてもらったおかげなのか、エリオットはやる気に満ちていた。
名前を忘れたなんて、本当はうそだ。
店の看板を見なくたって、彼女の名前は頭に浮かんでいた。
(……嫁選びの書は、わかっていたのだろうな)
だから、彼女はここに──シュエット・ミリーレデルのもとにいるのだろう。
(禁書も彼女を選ぶ、か)
なるほどな、と腑に落ちるものがある。
だが同時に、心を見透かされているようで、悔しい。
(今思えば、あれは初恋だったのだろう)
十七歳にして。遅ればせながら。
シュエットが視界に入るようになったのは、彼女がエリオットの周囲をうろちょろするようになったからではない。
エリオットが無意識に、彼女を探していたからだ。
几帳面で、責任感が強くて、我慢強くて、真面目で、家族思い。
自分とはまるで違うシュエットは、エリオットの目にはキラキラと輝いて見えた。
目が離せない。
まさに、そんな感じだったのだろう。
一度目は、諦めて逃げ帰った。
二度目は──、
(今度こそ、うまくいくだろうか)
不安に思ってモリフクロウを見つめると、「わかっているわよ」と言うように、ゆっくりしたまばたきを返される。
そしてエリオットの背中を押すように、
「ホゥ、ホゥ、ホゥ!」
と鳴いた。
どうするの?
モリフクロウが、尋ねるように首をかしげる。
エリオットは目を閉じた。
ゆっくりと深呼吸して、目を開ける。
シュエットの深い青の目が、月明かりに煌めいているのが見えた。
思わず、
(ほしい)
とエリオットは手を伸ばす。
今までずっと、諦めてきた。
両親からの愛も。
周囲からの承認も。
友だちも。
将来の夢も。
『だから、これくらいは良いじゃないか』
そうささやいたのは、自分だったのか、それとも禁書だったのか。
気付けばエリオットの口からは、魔術を発動させる言葉が漏れていた。
「ゆるす」
ただ一言。
エリオットが呟くと、モリフクロウの胸に魔法陣が浮かび上がる。
魔法陣の中央には、王家の紋章。その周りを『愛の約束』という言葉を持つアイリスの花が囲む。
エリオットの目と同じ深紅色をした光を放ちながら、魔法陣はエリオットと、シュエット足元にも浮かび上がった。
「えっ、やだ、なに⁉︎」
ベランダで、シュエットが慌てふためいている。
(ごめんね、シュエット。でも、キミだけは、諦めきれないみたいだ)
泣き笑いのような顔で、エリオットはシュエットを見つめ続ける。
足元の魔法陣から逃れるように、シュエットは足踏みしているが、そんなのは無駄だ。
優秀な彼女ならそれくらいわかりそうなものなのに、いざと言う時は焦るらしい。
エリオットは清々しい気持ちで、それを受け入れていた。
だって、彼女と自分はゼロどころかマイナスからのスタートなのである。
もう落ちるところまで落ちているから、これ以上心配することはなにもない。
モリフクロウに後押ししてもらったおかげなのか、エリオットはやる気に満ちていた。
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