上 下
29 / 122
一章

29 妖精王の茶会②

しおりを挟む
(……って、それはないか)

 この世界において、妖精王は人と契約しない。
 それは妖精の女王と契約するためだからとか、古の約束があるからだとか諸説あるが、何があっても人と契約する可能性はないらしい。
 だから間違っても、ヴィアベルが妖精王という可能性はないはずだった。

「南のガゼボで不定期に開かれるお茶会は、“妖精王の茶会”と呼ばれているの。招待されることはとても名誉なことで、もしも男女で招待されたら、二人は結ばれるといううわさもあるわ」

「いえ……私は招待されたというか、茶会の手伝いをしただけですよ?」

「妖精王の茶会は、妖精王かその側近たちが認めた人でないと茶会の支度を手伝えないそうよ。つまりあなたは、彼らに認められたからお手伝いできたというわけね」

 そこでペリーウィンクルはようやく、なるほどと納得がいった。
 ヴィアベルは、妖精の中でも力が強い部類だ。
 それは、人の姿にもなれることで証明されている。
 ローズマリーの話から考えるに、つまり、ヴィアベルは妖精王の側近なのだろう。

(まさか、そんな偉い人だったとは。しょっちゅう来るから暇人なんだとばかり思ってたわ)

 ペリーウィンクルが「知らなかったなぁ」とヴィアベルを見直していると、その傍でローズマリーがクスクスと楽しげに笑い声を漏らす。
 何がおかしかったのかと見たペリーウィンクルに、彼女は「それにしても……」と言った。

「ペリー、やるじゃない。妖精王の茶会の手伝いができるなら、今後がやりやすくなるわ」

「え……今後?」

「そうよ。セリ様とシナモン様が無事にくっついた今、わたくしが婚約破棄されるのは、ソレルルートだけ。逆ハーレムルートの可能性はついえたわ。つまり、これからはリコリス様が他のルートへいかないよう、しらみつぶしに悪役令嬢たちの恋を応援しなくてはならなくなったというわけなの」

「……え」

 待て待て待て。一体、どういうことだ。
 信じられないことを言われて、ペリーウィンクルは固まった。
 そんな彼女に、ローズマリーは桜貝のような小さな唇を歪めて人の悪そうな顔で笑う。

「あらあら。気付いていなかったの? ペリー、あなたって……ちょっと抜けているのねぇ。わたくしがセリ様の恋を応援すると言った時から覚悟を決めていたのだと思っていたのだけれど、ただわかっていなかっただけなのね。もう、かわいいのだから」

 つん、とローズマリーの華奢きゃしゃな人差し指が、ペリーウィンクルの鼻をつつく。
 持っていたバラをバサバサと落としながら、ペリーウィンクルは「んえぇぇぇ⁉︎」と箱庭中に聞こえる大声を上げた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

闇黒の悪役令嬢は溺愛される

葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。 今は二度目の人生だ。 十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。 記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。 前世の仲間と、冒険の日々を送ろう! 婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。 だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!? 悪役令嬢、溺愛物語。 ☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

【完結】婚約破棄された私は昔の約束と共に溺愛される

かずきりり
恋愛
学園の卒業パーティ。 傲慢で我儘と噂される私には、婚約者である王太子殿下からドレスが贈られることもなく、エスコートもない… そして会場では冤罪による婚約破棄を突きつけられる。 味方なんて誰も居ない… そんな中、私を助け出してくれたのは、帝国の皇帝陛下だった!? ***** HOTランキング入りありがとうございます ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにしませんか

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢ナターシャの婚約者は自由奔放な公爵ボリスだった。頭はいいけど人格は破綻。でも、両親が決めた婚約だから仕方がなかった。 「ナターシャ!!!お前はいつも不細工だな!!!」 ボリスはナターシャに会うと、いつもそう言っていた。そして、男前なボリスには他にも婚約者がいるとの噂が広まっていき……。 本編終了しました。続きは「気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにします」となります。

処理中です...