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八章 囚われの王子様
47 再会③
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(目を、逸らされた……?)
そうなのである。デュークはいつだって、レーヴの目を見て接してくれていた。思いの丈が込められた好意に満ち溢れた視線は、時に居たたまれなくて、でも安心感を与えてくれたのに。なのに今は、少しすれ違う。
レーヴは、少し悲しくなった。もしかしたら何か誤解をさせてしまっただろうか。それとも、何の前触れもなく消息を絶ったことで嫌われてしまったのか。
よくよく考えてみたら、彼は馬だがあのデュークである。不躾に触りすぎたのかもしれない。
どれが原因なのか、分からない。それでもなんとか彼と目を合わせて話をしたくて、レーヴは言葉を言い連ねた。
「疑っていたわけじゃないよ?でも、ごめんね。せっかく獣人になってくれたのに、私、どうしてもまた馬のあなたにも会いたかったんだ」
合いそうで合わない視線。勘違いなんかじゃないと、レーヴは確信した。
けれど、なぜ、どうしてと心の中は疑問符でいっぱいだ。思い当たることがいっぱいあり過ぎて、どれを謝ればいいのか分からない。
自身を過小評価するきらいがあるレーヴは、恋をするに値する人間だと未だ自信がない。恋をするのに資格も何もないのだが、悲しいかな、彼女はそう思っていた。
それでも、デュークへの想いを自覚してからは、そんなことを脇に置いて告白しようとしていたのだ。だというのに、デュークがそんな態度では告白する覚悟が揺らぐ。
「えっと、あの、デューク?どうして、目を合わせてくれないの?」
しょんぼりとデュークが項垂れる。
どうしてデュークはレーヴの問いに項垂れているのだろう。出会った時はあんなにも意思疎通が出来たのに、今日は全然伝わってこない。
(ううん、違う。私は気付きたくないんだ。もしかしたら、もう、告白しても遅いのかもしれないって)
不慣れなレーヴだって、恋はタイミングが大事だということは知っている。ほんのちょっとのタイミングのズレが、致命傷になり得るのだ。
恋とは、とても繊細なもの。人の気持ちの移ろいやすさは、身近な人たちを見て十分過ぎるほど知っている。
だけど、デュークは獣人だから、違うと思っていた。恋に不慣れなレーヴをいつまでだって待っていてくれると、思い込んでいた。けれど、そう違わないのかもしれない。
(そうだよ。そもそも、どうしてデュークは馬の姿になっているの?それこそ、彼の気持ちが私にないっていう証拠なんじゃない?)
グルグルと考えれば考えるほど、悪いことしか浮かばない。
(怖い。怖い、怖い、怖い!)
ついさっきまで、魔馬のデュークに会えて嬉しいと頰を赤らめていたのに。レーヴの頰は、可哀想なくらい青ざめていく。
(あぁ、なんてこと。私は、こんな時になって気付くなんて)
いつだってレーヴは自覚するのが遅い。今までそうと思っていなかったが、かなりの鈍チンなのかもしれない。
間抜けなことに、今になってレーヴは気付いてしまった。ジョージにナイフを投擲されて怖かった理由。
か弱い乙女ならいざ知らず、軍人として生きる彼女にとって、殺気もナイフも大したことじゃない。ならば、何が怖かったのか。
(私は、デュークを失うのが怖かった)
気付いた所で、どうなるというのか。もうデュークの気持ちはレーヴにないというのに。
もうどうしたら良いのか分からない。混乱するあまり、レーヴは感情の制御が出来なくなった。
(私は子供じゃない。ちゃんとした大人なんだから。だから、泣いちゃいけない。きちんと向き合って、冷静に対処しないと)
そうは思っても、レーヴの理性に反して涙が浮かんでくる。
伸ばした袖で乱暴に目元を擦って、涙をなかったことにしたかった。けれど、どこまでも優しいデュークがレーヴの袖を噛んで引っ張るから、それも出来ない。
ポロポロと涙を流しながら、レーヴはどうすることも出来ずにただデュークを見つめた。水の膜を介して見ていても、彼と視線が交わることはない。それが、悲しい。
間違っているのは分かるけれど、好きにさせておいて、甘やかしておいて酷いと思った。
もう好きじゃないくせに、こんな時でも優しくしてくるデュークが憎らしくも思えて、レーヴは腕を振り払う。それがますますデュークの誤解を深めるとも知らずに。
そうなのである。デュークはいつだって、レーヴの目を見て接してくれていた。思いの丈が込められた好意に満ち溢れた視線は、時に居たたまれなくて、でも安心感を与えてくれたのに。なのに今は、少しすれ違う。
レーヴは、少し悲しくなった。もしかしたら何か誤解をさせてしまっただろうか。それとも、何の前触れもなく消息を絶ったことで嫌われてしまったのか。
よくよく考えてみたら、彼は馬だがあのデュークである。不躾に触りすぎたのかもしれない。
どれが原因なのか、分からない。それでもなんとか彼と目を合わせて話をしたくて、レーヴは言葉を言い連ねた。
「疑っていたわけじゃないよ?でも、ごめんね。せっかく獣人になってくれたのに、私、どうしてもまた馬のあなたにも会いたかったんだ」
合いそうで合わない視線。勘違いなんかじゃないと、レーヴは確信した。
けれど、なぜ、どうしてと心の中は疑問符でいっぱいだ。思い当たることがいっぱいあり過ぎて、どれを謝ればいいのか分からない。
自身を過小評価するきらいがあるレーヴは、恋をするに値する人間だと未だ自信がない。恋をするのに資格も何もないのだが、悲しいかな、彼女はそう思っていた。
それでも、デュークへの想いを自覚してからは、そんなことを脇に置いて告白しようとしていたのだ。だというのに、デュークがそんな態度では告白する覚悟が揺らぐ。
「えっと、あの、デューク?どうして、目を合わせてくれないの?」
しょんぼりとデュークが項垂れる。
どうしてデュークはレーヴの問いに項垂れているのだろう。出会った時はあんなにも意思疎通が出来たのに、今日は全然伝わってこない。
(ううん、違う。私は気付きたくないんだ。もしかしたら、もう、告白しても遅いのかもしれないって)
不慣れなレーヴだって、恋はタイミングが大事だということは知っている。ほんのちょっとのタイミングのズレが、致命傷になり得るのだ。
恋とは、とても繊細なもの。人の気持ちの移ろいやすさは、身近な人たちを見て十分過ぎるほど知っている。
だけど、デュークは獣人だから、違うと思っていた。恋に不慣れなレーヴをいつまでだって待っていてくれると、思い込んでいた。けれど、そう違わないのかもしれない。
(そうだよ。そもそも、どうしてデュークは馬の姿になっているの?それこそ、彼の気持ちが私にないっていう証拠なんじゃない?)
グルグルと考えれば考えるほど、悪いことしか浮かばない。
(怖い。怖い、怖い、怖い!)
ついさっきまで、魔馬のデュークに会えて嬉しいと頰を赤らめていたのに。レーヴの頰は、可哀想なくらい青ざめていく。
(あぁ、なんてこと。私は、こんな時になって気付くなんて)
いつだってレーヴは自覚するのが遅い。今までそうと思っていなかったが、かなりの鈍チンなのかもしれない。
間抜けなことに、今になってレーヴは気付いてしまった。ジョージにナイフを投擲されて怖かった理由。
か弱い乙女ならいざ知らず、軍人として生きる彼女にとって、殺気もナイフも大したことじゃない。ならば、何が怖かったのか。
(私は、デュークを失うのが怖かった)
気付いた所で、どうなるというのか。もうデュークの気持ちはレーヴにないというのに。
もうどうしたら良いのか分からない。混乱するあまり、レーヴは感情の制御が出来なくなった。
(私は子供じゃない。ちゃんとした大人なんだから。だから、泣いちゃいけない。きちんと向き合って、冷静に対処しないと)
そうは思っても、レーヴの理性に反して涙が浮かんでくる。
伸ばした袖で乱暴に目元を擦って、涙をなかったことにしたかった。けれど、どこまでも優しいデュークがレーヴの袖を噛んで引っ張るから、それも出来ない。
ポロポロと涙を流しながら、レーヴはどうすることも出来ずにただデュークを見つめた。水の膜を介して見ていても、彼と視線が交わることはない。それが、悲しい。
間違っているのは分かるけれど、好きにさせておいて、甘やかしておいて酷いと思った。
もう好きじゃないくせに、こんな時でも優しくしてくるデュークが憎らしくも思えて、レーヴは腕を振り払う。それがますますデュークの誤解を深めるとも知らずに。
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