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七章 所詮は軍人、姫になどなれません

38 王都の母は心配性

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 レーヴが早馬部隊王都支部に着いた時、支部はいつになくバタバタと騒がしい様子だった。郵便局の周辺では中を窺うように、大勢の人がヒソヒソと囁きながら遠巻きに見ている。

 明らかに異様な様子に、レーヴは思わずうっと引き下がりたくなった。けれど、ジョージの犠牲を思えばそうも言っていられない。

 レーヴは裏手にある門から厩舎のある方へ向かった。表門から入る勇気はさすがになかったからだ。

 ここまで乗せてくれたジョスリンに、感謝を伝えるようにその胸を一撫でして空き地に放す。やれやれと人が肩を回すように、ジョスリンは首を振ってゆったりと草地の方へ歩いて行った。

 無理をさせてしまったジョスリンにはあとで大好物の林檎を差し入れよう。レーヴはそう思いながら、早足に郵便局内へと足を進めた。

 局内は外から見た以上に慌ただしい様子だった。とりわけ応接室からは異様なオーラが漏れているような感じがして、レーヴは思わず「ひゃっ」と飛び上がってしまった。

 そんな声を聞きつけたのか、給湯室にいたらしいアーニャが凄い勢いで駆け寄ってきた。勢いのままガシリと肩を掴まれる。あまりの強さに思わず「うぐっ」と声が漏れたが、アーニャはそれどころではないらしい。

「何処に行っていたの!」

 そう言いながら、アーニャはぎゅうっとレーヴの体を抱き締めた。ふくよかな体に抱き締められて、柔らかな洗濯石鹸の匂いが鼻をくすぐる。

 おかげで、レーヴの気持ちがほんの少し落ち着いた。

「ごめんなさい、心配かけちゃって」

 レーヴは、アーニャの背を宥めるように優しく叩いた。ゆっくりと体を離したアーニャは、レーヴの体をまじまじと見つめる。どうやら怪我がないか確認しているらしいと気付いて、レーヴは申し訳なさそうに苦笑いを返した。

「無事で良かったわ。ジョシュアはぎっくり腰で動けないし、あなたは連絡もなしに来なくなるし。それに……」

 アーニャの視線が、応接室に向けられていた。どこか物騒な雰囲気が、扉の隙間から漏れ出ているような気がして、レーヴは身震いする。

「あの……誰か、来ているの?」

「来ているわ。総司令官、補佐よ」

 総司令官か、と思いきや総司令官補佐。とはいえ、レーヴからしたら雲の上の更に上の上にいるような存在だ。こんな場所に来るような人物ではない。

(ジョージの慌てっぷりも納得ね)

 軍のトップを支える人物である。近衛騎士を束ねる隊長よりも、上の立場になるかもしれない。

(でも、そんな人がどうして……?)

「来たばかりで心構えもなにもないでしょうけど、あなたを待っているのよ。随分お待たせしているわ」

 アーニャは五杯目の茶を淹れていたところだったそうだ。腹はチャプチャプにならないのだろうかと失礼なことを思ったが、口に出すほどレーヴとて馬鹿じゃない。

 心配そうにしながらも、アーニャに出来ることは何もない。そんな彼女にどうにか浮かべた笑顔を向けて、レーヴは戦地に赴く軍人の如く敬礼をした。同じく敬礼を返すアーニャに頷き、レーヴは応接室までの短い距離を急ぐ。

 深呼吸を何度かして落ち着きを取り戻すと、レーヴは意を決して中へと踏み込んだ。

 
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