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六章 悪い魔女はお嬢様
27 女近衛騎士、エカチェリーナ
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レーヴが目にしたのは、月明かりに照らされた一人の少女。
カラスの羽のような光沢のある黒髪が、夜風にさらさらと流れていた。長い睫毛に縁取られた目は、意地悪そうに釣り上げられている。小さな鼻に、上品そうな唇。胸は大きく、腰はキュッとしていた。
腕も脚もスラリと長く、女性の理想を詰め込んだような羨ましい体躯。
色気のある女性だ。口元の小さなホクロが気になって仕方がない。レーヴが男だったら、彼女とのキスを連想してしまうかもしれない。
近衛騎士の白い制服を着ると、清廉潔白そうな雰囲気と色気が混じって背徳感を覚えそうだ。
そんな、いかにもどこぞの良家のお嬢様といった風情の美女が、レーヴに指を突き付けて仁王立ちしていた。
レーヴは彼女を知っている。ものすごく、不本意だけれども。
「何をしているの、エカチェリーナ」
彼女の名前はエカチェリーナ・ラウム。
王族の剣術指南役を務める父を持ち、かつては傾国の美女と恐れられ諜報部隊のトップに君臨していた母を持つ、レーヴの訓練学校時代の同級生である。
彼女自身も非常に優秀で、ジョージと同じ近衛騎士隊に所属している。
その美貌と優秀さから王太子の婚約者候補に挙がっていたそうだが、私情でお断りしたのだとかーーとレーヴは風の噂で聞いている。
というのも、レーヴはエカチェリーナと仲が良くない。というか、とっても悪い。エカチェリーナはジョージに恋するあまり、邪魔なレーヴをことごとくいじめ抜いてきた過去がある。
(しかもさ、ラウムって……デュークが言ってた、あのラウムでしょ?元獣人の現人間)
つまり、エカチェリーナは元獣人と人族のハーフということになる。確かに彼女の容姿は素晴らしい。
訓練学校時代より大人びて、色香が増した彼女はどこかデュークに似通った雰囲気を持っている。傾国の美女と言われた母親に似ているのかと思っていたが、実は父親譲りの美貌なのかもしれない。
(以外と近くに関係者がいたもんだ)
どうりで、とレーヴは思った。エカチェリーナの嫉妬はぶっ飛んでいる。獣人のーー恋した相手のために魔獣から獣人になるという性質を鑑みれば、なるほどと思わざるを得ない。
五年前の軍事パレードの日。あの日も彼女は朝からレーヴを散々な目に合わせていた。結果的にレーヴはデュークと出会い、栗毛の牝馬と言われるようになったわけだが。
(軍靴に大尻女って傷をつけたのも、トイレに閉じ込められたのも、パレード用の馬を野に放ったのも、全部エカチェリーナなんだよね。うわー……すっごく不本意だけど、エカチェリーナが私とデュークの恋のキューピッドとかいうやつになるわけ?うげぇぇ)
思い出すだけで嫌な気持ちになる。およそ女性に向けるものとは思えない、汚物でも見るような目でレーヴはエカチェリーナを見た。その唇は「うげぇ」と半開きである。湧き上がる感情を隠そうともしていない。
そんなレーヴにエカチェリーナは青筋を立てながら、忌々しそうに口を開いた。
「端的に申しますわ。レーヴ・グリペン!あなた、ジョージ様と婚約なさい」
カラスの羽のような光沢のある黒髪が、夜風にさらさらと流れていた。長い睫毛に縁取られた目は、意地悪そうに釣り上げられている。小さな鼻に、上品そうな唇。胸は大きく、腰はキュッとしていた。
腕も脚もスラリと長く、女性の理想を詰め込んだような羨ましい体躯。
色気のある女性だ。口元の小さなホクロが気になって仕方がない。レーヴが男だったら、彼女とのキスを連想してしまうかもしれない。
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そんな、いかにもどこぞの良家のお嬢様といった風情の美女が、レーヴに指を突き付けて仁王立ちしていた。
レーヴは彼女を知っている。ものすごく、不本意だけれども。
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というのも、レーヴはエカチェリーナと仲が良くない。というか、とっても悪い。エカチェリーナはジョージに恋するあまり、邪魔なレーヴをことごとくいじめ抜いてきた過去がある。
(しかもさ、ラウムって……デュークが言ってた、あのラウムでしょ?元獣人の現人間)
つまり、エカチェリーナは元獣人と人族のハーフということになる。確かに彼女の容姿は素晴らしい。
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(以外と近くに関係者がいたもんだ)
どうりで、とレーヴは思った。エカチェリーナの嫉妬はぶっ飛んでいる。獣人のーー恋した相手のために魔獣から獣人になるという性質を鑑みれば、なるほどと思わざるを得ない。
五年前の軍事パレードの日。あの日も彼女は朝からレーヴを散々な目に合わせていた。結果的にレーヴはデュークと出会い、栗毛の牝馬と言われるようになったわけだが。
(軍靴に大尻女って傷をつけたのも、トイレに閉じ込められたのも、パレード用の馬を野に放ったのも、全部エカチェリーナなんだよね。うわー……すっごく不本意だけど、エカチェリーナが私とデュークの恋のキューピッドとかいうやつになるわけ?うげぇぇ)
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そんなレーヴにエカチェリーナは青筋を立てながら、忌々しそうに口を開いた。
「端的に申しますわ。レーヴ・グリペン!あなた、ジョージ様と婚約なさい」
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