上 下
27 / 71
六章 悪い魔女はお嬢様

27 女近衛騎士、エカチェリーナ

しおりを挟む
 レーヴが目にしたのは、月明かりに照らされた一人の少女。

 カラスの羽のような光沢のある黒髪が、夜風にさらさらと流れていた。長い睫毛に縁取られた目は、意地悪そうに釣り上げられている。小さな鼻に、上品そうな唇。胸は大きく、腰はキュッとしていた。

 腕も脚もスラリと長く、女性の理想を詰め込んだような羨ましい体躯。

 色気のある女性だ。口元の小さなホクロが気になって仕方がない。レーヴが男だったら、彼女とのキスを連想してしまうかもしれない。

 近衛騎士の白い制服を着ると、清廉潔白そうな雰囲気と色気が混じって背徳感を覚えそうだ。

 そんな、いかにもどこぞの良家のお嬢様といった風情の美女が、レーヴに指を突き付けて仁王立ちしていた。

 レーヴは彼女を知っている。ものすごく、不本意だけれども。

「何をしているの、エカチェリーナ」

 彼女の名前はエカチェリーナ・ラウム。

 王族の剣術指南役を務める父を持ち、かつては傾国の美女と恐れられ諜報部隊のトップに君臨していた母を持つ、レーヴの訓練学校時代の同級生である。

 彼女自身も非常に優秀で、ジョージと同じ近衛騎士隊に所属している。

 その美貌と優秀さから王太子の婚約者候補に挙がっていたそうだが、私情でお断りしたのだとかーーとレーヴは風の噂で聞いている。

 というのも、レーヴはエカチェリーナと仲が良くない。というか、とっても悪い。エカチェリーナはジョージに恋するあまり、邪魔なレーヴをことごとくいじめ抜いてきた過去がある。

(しかもさ、ラウムって……デュークが言ってた、あのラウムでしょ?元獣人の現人間)

 つまり、エカチェリーナは元獣人と人族のハーフということになる。確かに彼女の容姿は素晴らしい。

 訓練学校時代より大人びて、色香が増した彼女はどこかデュークに似通った雰囲気を持っている。傾国の美女と言われた母親に似ているのかと思っていたが、実は父親譲りの美貌なのかもしれない。

(以外と近くに関係者がいたもんだ)

 どうりで、とレーヴは思った。エカチェリーナの嫉妬はぶっ飛んでいる。獣人のーー恋した相手のために魔獣から獣人になるという性質を鑑みれば、なるほどと思わざるを得ない。

 五年前の軍事パレードの日。あの日も彼女は朝からレーヴを散々な目に合わせていた。結果的にレーヴはデュークと出会い、栗毛の牝馬と言われるようになったわけだが。

(軍靴に大尻女って傷をつけたのも、トイレに閉じ込められたのも、パレード用の馬を野に放ったのも、全部エカチェリーナなんだよね。うわー……すっごく不本意だけど、エカチェリーナが私とデュークの恋のキューピッドとかいうやつになるわけ?うげぇぇ)

 思い出すだけで嫌な気持ちになる。およそ女性に向けるものとは思えない、汚物でも見るような目でレーヴはエカチェリーナを見た。その唇は「うげぇ」と半開きである。湧き上がる感情を隠そうともしていない。

 そんなレーヴにエカチェリーナは青筋を立てながら、忌々しそうに口を開いた。

「端的に申しますわ。レーヴ・グリペン!あなた、ジョージ様と婚約なさい」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

婚約破棄に全力感謝

あーもんど
恋愛
主人公の公爵家長女のルーナ・マルティネスはあるパーティーで婚約者の王太子殿下に婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。でも、ルーナ自身は全く気にしてない様子....いや、むしろ大喜び! 婚約破棄?国外追放?喜んでお受けします。だって、もうこれで国のために“力”を使わなくて済むもの。 実はルーナは世界最強の魔導師で!? ルーナが居なくなったことにより、国は滅びの一途を辿る! 「滅び行く国を遠目から眺めるのは大変面白いですね」 ※色々な人達の目線から話は進んでいきます。 ※HOT&恋愛&人気ランキング一位ありがとうございます(2019 9/18)

【完結】婚約者を寝取られた公爵令嬢は今更謝っても遅い、と背を向ける

高瀬船
恋愛
公爵令嬢、エレフィナ・ハフディアーノは目の前で自分の婚約者であり、この国の第二王子であるコンラット・フォン・イビルシスと、伯爵令嬢であるラビナ・ビビットが熱く口付け合っているその場面を見てしまった。 幼少時に婚約を結んだこの国の第二王子と公爵令嬢のエレフィナは昔から反りが合わない。 愛も情もないその関係に辟易としていたが、国のために彼に嫁ごう、国のため彼を支えて行こうと思っていたが、学園に入ってから3年目。 ラビナ・ビビットに全てを奪われる。 ※初回から婚約者が他の令嬢と体の関係を持っています、ご注意下さい。 コメントにてご指摘ありがとうございます!あらすじの「婚約」が「婚姻」になっておりました…!編集し直させて頂いております。 誤字脱字報告もありがとうございます!

愛する人と結婚して幸せになると思っていた

よしたけ たけこ
恋愛
ある日イヴはダニエルと婚約した。 イヴはダニエルをすきになり、ダニエルと結婚して幸せになれるものだと思っていた。 しかしある日、イヴは真実を知った。 *初めてかいた小説です。完全に自己満足で、自分好みの話をかいてみました。 *とりあえず主人公視点の物語を掲載します。11話で完結です。 *のちのち、別視点の物語が書ければ掲載しようかなと思っています。 ☆NEW☆ ダニエル視点の物語を11/6より掲載します。 それに伴い、タグ追加しています。 全15話です。 途中、第四話の冒頭に注意書きが入ります。お気を付けください。

おかえりなさいと言いたくて……

矢野りと
恋愛
神託によって勇者に選ばれたのは私の夫だった。妻として誇らしかった、でもそれ以上に苦しかった。勇者と言う立場は常に死と隣り合わせだから。 『ルト、おめでとう。……でも無理しないで、絶対に帰ってきて』 『ああ、約束するよ。愛している、ミワエナ』 再会を誓いあった後、私は涙を流しながら彼の背を見送った。 そして一年後。立派に務めを果たした勇者一行は明日帰還するという。 王都は勇者一行の帰還を喜ぶ声と、真実の愛で結ばれた勇者と聖女への祝福の声で満ちていた。 ――いつの間にか私との婚姻はなかったことになっていた。  明日、彼は私のところに帰ってくるかしら……。 私は彼を一人で待っている。『おかえりなさい』とただそれだけ言いたくて……。 ※作者的にはバッドエンドではありません。 ※お話が合わないと感じましたら、ブラウザバックでお願いします。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(_ _) ※書籍化作品『一番になれなかった身代わり王女が見つけた幸せ』(旧題『一番になれなかった私が見つけた幸せ』)の前日譚でもありますが、そちらを読んでいなくとも大丈夫です。

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

【完結】この運命を受け入れましょうか

なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」  自らの夫であるルーク陛下の言葉。  それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。   「承知しました。受け入れましょう」  ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。  彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。  みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。  だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。  そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。  あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。  これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。  前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。  ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。     ◇◇◇◇◇  設定は甘め。  不安のない、さっくり読める物語を目指してます。  良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

愛され妻と嫌われ夫 〜「君を愛することはない」をサクッとお断りした件について〜

榊どら
恋愛
 長年片思いしていた幼馴染のレイモンドに大失恋したアデレード・バルモア。  自暴自棄になった末、自分が不幸な結婚をすればレイモンドが罪悪感を抱くかもしれない、と非常に歪んだ認識のもと、女嫌いで有名なペイトン・フォワードと白い結婚をする。  しかし、初顔合わせにて「君を愛することはない」と言われてしまい、イラッときたアデレードは「嫌です。私は愛されて大切にされたい」と返した。  あまりにナチュラルに自分の宣言を否定されたペイトンが「え?」と呆けている間に、アデレードは「この結婚は政略結婚で私達は対等な関係なのだから、私だけが我慢するのはおかしい」と説き伏せ「私は貴方を愛さないので、貴方は私を愛することでお互い妥協することにしましょう」と提案する。ペイトンは、断ればよいのに何故かこの申し出を承諾してしまう。  かくして、愛され妻と嫌われ夫契約が締結された。  出鼻を挫かれたことでアデレードが気になって気になって仕方ないペイトンと、ペイトンに全く興味がないアデレード。温度差の激しい二人だったが、その関係は少しずつ変化していく。  そんな中アデレードを散々蔑ろにして傷つけたレイモンドが復縁を要請してきて……!? *小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...