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四章 王子様の告白
16 不貞腐れる美形獣人
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レーヴを抱きかかえたまま馬車のある地域まであっという間に戻ってきたというのに、デュークは荒い息さえ吐くことはなかった。涼しい顔をしたまま、馬車を調達し、今はレーヴと馬車内で向かい合って座っている。
馬車に入るなり隣に座ろうとしていたデュークだったが、レーヴに制され渋々向かい側に座ることとなった。離れていた期間の分を取り戻そうとするかのように過剰にスキンシップをしようとしてくるので、レーヴは気が気ではない。
彼女には聞きたいことが山ほどあるのである。イチャイチャなんてしていたら、聞きたいことなんて一つも聞けなくなってしまう自信があった。
(情けないけど、手を繋いだだけで黙りかねないっ)
未練がましくつま先を突いてくるデュークのつま先から離れるように足を組んだレーヴは、わざと威嚇するようにまるで尋問官のような鋭い目つきでーーデュークからしたら慈愛に満ちた優しい目つきで彼を見つめ、こう言った。
「それで?どうして、こんなことになっているの?」
「だって、マリーがいけない」
シャープな頰をぷぅっと膨らませるデュークに、レーヴはまるで拗ねた子どものようだと思った。だからだろうか、レーヴの問いも子供への問いかけのように優しい。
「どうして、マリーがいけないの?」
「せっかく君に会いたくて獣人になったのに、会いに行かせてくれなかった」
「マリーに止められていたの?」
「うん。押してダメなら引いてみろって言っていた。どんな意味なんだろう?レーヴを押したことなんてなかったはずだけど。押してみたら分かるのかな」
「……どうだろうね」
レーヴは想像した。
デュークの手がレーヴの手を握り、グイッと引き寄せられる。バランスを崩した彼女へ足払いをして、そのままバーンと引き倒しーー
(って、色気がない!もっと、こう、乙女チックなやつ!)
うっかり訓練学校で習った押し倒し方で想像してしまい、レーヴは慌てて打ち消した。そうしてレーヴはあらん限りの想像力を総動員して、乙女チックな押し倒しを思い描く。
(そもそも、立った状態だから無理があるんだよ)
並んで座る、レーヴとデューク。二人の距離が徐々に近づいて、間に置かれた手と手が触れ合って、絡み合う。少しずつ体重をかけるようにデュークの上半身がレーヴの方へ傾いてーー
(ギャァァァァ、無理、無理ぃぃぃぃ)
デュークに押し倒される自分を想像して、レーヴは顔を赤らめた。
「レーヴ、顔が赤いけど大丈夫?」
(大丈夫じゃない。恥ずかしくて死にそう)
とはいえ、妄想して恥ずかしくなって死にそうになってますなんて正直に言えば破廉恥だと思われてしまうかもしれない。
「な、なんでもない」
「そう?」
赤い顔を隠すように、レーヴは俯いた。だから、レーヴは気付かない。デュークが今、正に魔王のような意地の悪そうな顔をしているなんて。
「今度やってみても良い?」
「今度……?」
無邪気そうに聞いてくるデュークが、本当は分かっているくせに無知なふりをしているなんて気付きもしない。くるくると表情を変えるレーヴを見て、かわいいなぁなんてしみじみしていることもまた然り。
(想像だけで叫び声を上げそうなのに、本当にされたら失神するんじゃないの?)
とにかくそれだけは回避しようとしたレーヴの脳裏に、天啓のようにある出来事が思い起こされた。
「あ!そういえば、職場の上官がデュークに会いたいって言っているんだけど、どうする?断っても大丈夫だけど」
「ふふ。レーヴは可愛いなぁ」
デュークにはレーヴのことなんてお見通しだ。一生懸命に話題を逸らそうとしているが、あからさま過ぎて滑稽なほどである。とはいえ、その愚かさが可愛く思えてしまうのが魔獣の性。素直じゃない彼女が可愛くて仕方がないデュークは、抱き締めたくなる衝動をなんとか耐えた。
「私は、可愛くない」
どこが可愛くないというのか。怒ったような顔をしているが、それだって恥ずかしいのを隠しているだけだろう。抱き締めて頰にキスをして、「レーヴは可愛い」「レーヴが好きだ」と言ったらどんな顔するのだろうとデュークは思案する。
「そういえば、僕はまだ言っていなかった」
「なにを?」
デュークは完全に言ったつもりになっていたが、彼女に「好きだ」と言ったことがないことを思い出した。レーヴの態度を見るに、デュークの気持ちは存分に伝わっているだろうが、人族の女性は言葉にするのが大事だとマリーから聞かされている。
「きっと、そこから伝えるべきなんだろうな」
「デューク?」
「この前、言っていた約束、どうしようか?」
デュークの脈絡のない問いにレーヴは不思議そうにきょとんとした後、思い出したのか小さく「あぁ」と吐息のような声を漏らして返答した。
「運命の子の話?」
「そう。聞きたい?」
「うん。聞きたい」
「今、話しても良いかな」
「分かった」
そう言って、レーヴは組んでいた足を解くと、背をしゃんと伸ばして座り直した。こういう、きちんとしたところも好きだなとデュークは改めて思う。
レーヴに習って自身も姿勢を正すと、すぅっと一つ深呼吸をする。そうしてデュークは話し始めた。魔獣の初恋の話だ。
馬車に入るなり隣に座ろうとしていたデュークだったが、レーヴに制され渋々向かい側に座ることとなった。離れていた期間の分を取り戻そうとするかのように過剰にスキンシップをしようとしてくるので、レーヴは気が気ではない。
彼女には聞きたいことが山ほどあるのである。イチャイチャなんてしていたら、聞きたいことなんて一つも聞けなくなってしまう自信があった。
(情けないけど、手を繋いだだけで黙りかねないっ)
未練がましくつま先を突いてくるデュークのつま先から離れるように足を組んだレーヴは、わざと威嚇するようにまるで尋問官のような鋭い目つきでーーデュークからしたら慈愛に満ちた優しい目つきで彼を見つめ、こう言った。
「それで?どうして、こんなことになっているの?」
「だって、マリーがいけない」
シャープな頰をぷぅっと膨らませるデュークに、レーヴはまるで拗ねた子どものようだと思った。だからだろうか、レーヴの問いも子供への問いかけのように優しい。
「どうして、マリーがいけないの?」
「せっかく君に会いたくて獣人になったのに、会いに行かせてくれなかった」
「マリーに止められていたの?」
「うん。押してダメなら引いてみろって言っていた。どんな意味なんだろう?レーヴを押したことなんてなかったはずだけど。押してみたら分かるのかな」
「……どうだろうね」
レーヴは想像した。
デュークの手がレーヴの手を握り、グイッと引き寄せられる。バランスを崩した彼女へ足払いをして、そのままバーンと引き倒しーー
(って、色気がない!もっと、こう、乙女チックなやつ!)
うっかり訓練学校で習った押し倒し方で想像してしまい、レーヴは慌てて打ち消した。そうしてレーヴはあらん限りの想像力を総動員して、乙女チックな押し倒しを思い描く。
(そもそも、立った状態だから無理があるんだよ)
並んで座る、レーヴとデューク。二人の距離が徐々に近づいて、間に置かれた手と手が触れ合って、絡み合う。少しずつ体重をかけるようにデュークの上半身がレーヴの方へ傾いてーー
(ギャァァァァ、無理、無理ぃぃぃぃ)
デュークに押し倒される自分を想像して、レーヴは顔を赤らめた。
「レーヴ、顔が赤いけど大丈夫?」
(大丈夫じゃない。恥ずかしくて死にそう)
とはいえ、妄想して恥ずかしくなって死にそうになってますなんて正直に言えば破廉恥だと思われてしまうかもしれない。
「な、なんでもない」
「そう?」
赤い顔を隠すように、レーヴは俯いた。だから、レーヴは気付かない。デュークが今、正に魔王のような意地の悪そうな顔をしているなんて。
「今度やってみても良い?」
「今度……?」
無邪気そうに聞いてくるデュークが、本当は分かっているくせに無知なふりをしているなんて気付きもしない。くるくると表情を変えるレーヴを見て、かわいいなぁなんてしみじみしていることもまた然り。
(想像だけで叫び声を上げそうなのに、本当にされたら失神するんじゃないの?)
とにかくそれだけは回避しようとしたレーヴの脳裏に、天啓のようにある出来事が思い起こされた。
「あ!そういえば、職場の上官がデュークに会いたいって言っているんだけど、どうする?断っても大丈夫だけど」
「ふふ。レーヴは可愛いなぁ」
デュークにはレーヴのことなんてお見通しだ。一生懸命に話題を逸らそうとしているが、あからさま過ぎて滑稽なほどである。とはいえ、その愚かさが可愛く思えてしまうのが魔獣の性。素直じゃない彼女が可愛くて仕方がないデュークは、抱き締めたくなる衝動をなんとか耐えた。
「私は、可愛くない」
どこが可愛くないというのか。怒ったような顔をしているが、それだって恥ずかしいのを隠しているだけだろう。抱き締めて頰にキスをして、「レーヴは可愛い」「レーヴが好きだ」と言ったらどんな顔するのだろうとデュークは思案する。
「そういえば、僕はまだ言っていなかった」
「なにを?」
デュークは完全に言ったつもりになっていたが、彼女に「好きだ」と言ったことがないことを思い出した。レーヴの態度を見るに、デュークの気持ちは存分に伝わっているだろうが、人族の女性は言葉にするのが大事だとマリーから聞かされている。
「きっと、そこから伝えるべきなんだろうな」
「デューク?」
「この前、言っていた約束、どうしようか?」
デュークの脈絡のない問いにレーヴは不思議そうにきょとんとした後、思い出したのか小さく「あぁ」と吐息のような声を漏らして返答した。
「運命の子の話?」
「そう。聞きたい?」
「うん。聞きたい」
「今、話しても良いかな」
「分かった」
そう言って、レーヴは組んでいた足を解くと、背をしゃんと伸ばして座り直した。こういう、きちんとしたところも好きだなとデュークは改めて思う。
レーヴに習って自身も姿勢を正すと、すぅっと一つ深呼吸をする。そうしてデュークは話し始めた。魔獣の初恋の話だ。
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