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その後も、勇者の冒険は問題だらけだった。
日本の某RPGゲームをこよなく愛する勇者は、花壇の中に入って立札を読んだり、夜の街で美女に誘われてホイホイついて行った挙げ句に身ぐるみ剥がされたり、死体に話しかけて「返事がない。ただの屍のようだ」とナレーションしてみたり──と枚挙に暇がない。
何度、マシューに助けられたことか。
助けを求める手紙を書くたびに、情けなくてたまらなくなった。
『大変な役目を負わせてしまってすまない。だが、僕が信頼できる者でないと、任せられないのだ』
あなただから、任せられる。
多忙な中、気遣う手紙とともに贈られる菓子に、どれほど感謝したことか。
勇者パーティーらしく神官、魔法使い、戦士を迎えてからは、さらに悪化した。
アリスを出し抜こうと考えた聖女様が暴走した結果、目的地を間違えてレベルに見合わない強いモンスターに倒されたり、ミモザに魅了された魔法使いが戦闘中に混乱して味方を攻撃したり、戦士がカジノにどハマりして一文無しになった挙げ句にアリスのゴールドカードを持ち出そうとしたり。
そしてついには、
「────私は勇者パーティーを追放になったのです」
もともと、アリスは非戦闘員として同行している。
だというのに、理不尽な理由で追い出された。
勇者のことはそれなりに責任を感じているので大切にしてきたが、こうなるともう、アリスにはどうにも出来ない。
突然の解雇通知に当惑し、逃げ出してきてしまったのだと告げたアリスに、マシューは自分のことのように煩悶の表情を浮かべた。
「……そうか。全て報告は受けていたが、それ以上に大変だったのだな。ありがとう。そして、すまない。僕が頼んだばかりに、ヒナギクにはつらい思いをさせた」
険しい顔で、マシューはアリスに謝罪する。
彼に、謝る理由なんてないのに。
アリスに勇者のおともを依頼したのはマシューだ。だが、今回の追放はミモザがしたことであり、マシューにはなんの罪もない。
「いえ、そんな……私が不甲斐ないばかりに、殿下には多大なご迷惑をおかけして……」
「迷惑ではなかった。ヒナギクからの手紙を、僕は毎回楽しみにしていたのだ。それがたとえ、助けを求める内容だったとしても、僕は嬉しかった」
秘密を打ち明けるようにひっそりと告げてきたマシューに、アリスの胸がキュンと弾む。
彼女の脳裏に、春のあたたかな日差しと満開の桜が一気に広がった。
想像してみてほしい。
どこをどう見ても麗しい美貌の青年が、アリスからの手紙を待ち遠しく思っていたと、いたたまれない様子で告げてくるのである。
ついさっきまでアリスのことを心配し、凛とした表情を浮かべていた男が、今度は打って変わって可愛らしい一面を見せてきたら。このギャップに、大抵の女性はクラリとするのではないだろうか。
恋愛初心者のアリスが、身分差を忘れてときめいてしまっても、致し方がないだろう。
「殿下……」
「だが……そうだな……ヒナギクを傷つけた聖女とやらは、許せそうにない」
ときめいた気持ちも一瞬で凍るような恐ろしい声が、形の良い唇から漏れ聞こえた。
アリスは一瞬、聞き間違えかと思った。「え?」と尋ね返した彼女に、マシューは口元だけの笑みを浮かべて言った。
「ヒナギク。僕に任せてほしい」
ゴゴゴゴ。
そんなはずはないのに、何故だか地震の音がする。
さきほどとは違った意味で胸をドキドキさせながら、アリスはマシューを見た。
「な、何をでしょう?」
「さぁ、行こうかアリス」
有無を言わさず手を握られて、立ち上がらされる。
そうして連れて行かれた先は、王都でも有名なお針子を抱える、ポーチュラカ商会だった。
日本の某RPGゲームをこよなく愛する勇者は、花壇の中に入って立札を読んだり、夜の街で美女に誘われてホイホイついて行った挙げ句に身ぐるみ剥がされたり、死体に話しかけて「返事がない。ただの屍のようだ」とナレーションしてみたり──と枚挙に暇がない。
何度、マシューに助けられたことか。
助けを求める手紙を書くたびに、情けなくてたまらなくなった。
『大変な役目を負わせてしまってすまない。だが、僕が信頼できる者でないと、任せられないのだ』
あなただから、任せられる。
多忙な中、気遣う手紙とともに贈られる菓子に、どれほど感謝したことか。
勇者パーティーらしく神官、魔法使い、戦士を迎えてからは、さらに悪化した。
アリスを出し抜こうと考えた聖女様が暴走した結果、目的地を間違えてレベルに見合わない強いモンスターに倒されたり、ミモザに魅了された魔法使いが戦闘中に混乱して味方を攻撃したり、戦士がカジノにどハマりして一文無しになった挙げ句にアリスのゴールドカードを持ち出そうとしたり。
そしてついには、
「────私は勇者パーティーを追放になったのです」
もともと、アリスは非戦闘員として同行している。
だというのに、理不尽な理由で追い出された。
勇者のことはそれなりに責任を感じているので大切にしてきたが、こうなるともう、アリスにはどうにも出来ない。
突然の解雇通知に当惑し、逃げ出してきてしまったのだと告げたアリスに、マシューは自分のことのように煩悶の表情を浮かべた。
「……そうか。全て報告は受けていたが、それ以上に大変だったのだな。ありがとう。そして、すまない。僕が頼んだばかりに、ヒナギクにはつらい思いをさせた」
険しい顔で、マシューはアリスに謝罪する。
彼に、謝る理由なんてないのに。
アリスに勇者のおともを依頼したのはマシューだ。だが、今回の追放はミモザがしたことであり、マシューにはなんの罪もない。
「いえ、そんな……私が不甲斐ないばかりに、殿下には多大なご迷惑をおかけして……」
「迷惑ではなかった。ヒナギクからの手紙を、僕は毎回楽しみにしていたのだ。それがたとえ、助けを求める内容だったとしても、僕は嬉しかった」
秘密を打ち明けるようにひっそりと告げてきたマシューに、アリスの胸がキュンと弾む。
彼女の脳裏に、春のあたたかな日差しと満開の桜が一気に広がった。
想像してみてほしい。
どこをどう見ても麗しい美貌の青年が、アリスからの手紙を待ち遠しく思っていたと、いたたまれない様子で告げてくるのである。
ついさっきまでアリスのことを心配し、凛とした表情を浮かべていた男が、今度は打って変わって可愛らしい一面を見せてきたら。このギャップに、大抵の女性はクラリとするのではないだろうか。
恋愛初心者のアリスが、身分差を忘れてときめいてしまっても、致し方がないだろう。
「殿下……」
「だが……そうだな……ヒナギクを傷つけた聖女とやらは、許せそうにない」
ときめいた気持ちも一瞬で凍るような恐ろしい声が、形の良い唇から漏れ聞こえた。
アリスは一瞬、聞き間違えかと思った。「え?」と尋ね返した彼女に、マシューは口元だけの笑みを浮かべて言った。
「ヒナギク。僕に任せてほしい」
ゴゴゴゴ。
そんなはずはないのに、何故だか地震の音がする。
さきほどとは違った意味で胸をドキドキさせながら、アリスはマシューを見た。
「な、何をでしょう?」
「さぁ、行こうかアリス」
有無を言わさず手を握られて、立ち上がらされる。
そうして連れて行かれた先は、王都でも有名なお針子を抱える、ポーチュラカ商会だった。
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