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第七話 別れを告げて

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  白亜の石畳のうねる先のタウンハウスに公爵家の紋入り馬車は到着した。普通なら出迎えがあるはずだが人影などないのです、王家に嫌われた悪役令嬢を手助けして味方だと思われて可愛い自分と身内に咎が及ぶのを避けるためオディールわたくしは召使からも、侍従からも絶賛放置最低限の仕事でここ五年を過ごしている。傷むキズを無理矢理引き起こして馬車から落ちるように下車しても、見て報告する目はあるが誰もが息を詰めて『見て』おりますだけ。

「相変わらずですわね、この空気」

 わたくしは、潰れた蛙のような恰好からなんとか絡む裾をさばいて立ち上がります。

『俺氏助力、ほいVerringerung 』

  掛け声とともに苦痛がふゎっと軽減される、傷を殴りつけるように苛んでた痛みがずきずきと主張する程度になりましたわ。

  『うんお譲ちゃんは頑張っているエライ(‘ω’)』

 脳内の声に励まされほわりとなり、わたくしは唇を緩めます。久方ぶりのほめ言葉は染みわたり心を温かくしてくれましたわ。

「ありがとう」

 わたくしは、壁に手を突きながら自室へと向かいます。空耳に言われたように遠回りして金庫室と執務室、厨房をを経由してですわ。表示していた透明な板がぱたぱたと文字を替えます。

【ハルバリア白金貨幣を2枚入手】
【ハルバリア黄金貨幣を10枚入手】
【ハルバリア銀貨幣を358枚入手】
【ハルバリア青銅貨幣を856枚入手】
【ハルバリア銅貨幣を2589枚入手】
【ハルバリア石貨幣を5687枚入手】

 執事室の前ですね。空耳俺氏は元気な模様。

【大事な物:ロットバルト公爵家の決済印と継承印を入手しました】

「ぶっ」

『嫌がらせと足止めだぉ(‘Д’)騎士をうごかすにしろ、捜索にしろ書類とカネがないとどうにもならんですお』

「全部?」

わたくしは、小声で尋ねます。

『半分ですお、出入りの商人とかの支払いがないと流石に連中可哀想ですしな。俺氏やさしー』

  棒読みの台詞にわたくしはくすくす笑います。商人のツケを踏み倒したとなれば公爵家の評判は下がります、手元の現金が半分ひっ迫している財政には手痛いこととなりましょう。騎士や使用人の給料は出ないでしょう。先の対応はいつもの事とは言えいささか思うところがあるのでわたくしは微笑して流しました。

『結構領政とか王政とか手伝ってたでしょ?ちろっとみた帳簿女文字だった。お給料でてた?』

「いいえ、小娘が賢しいとのお父様のお言葉でしたわ」

『イってヨシ!お給料代わりに気兼ねなく♪明日の為に(‘Д’)』
「ですわね」

 厨房にリネン室を経由します。

【食器1セットを入手しました】
【携帯魔道コンロを入手しました】
【塩1壺食用油1壺……基本調味料セットとランタンを入手しました】
【食材――

  画面が一杯になりそうなので表示を切りました。痛みが強すぎて表示を見ながら部屋までたどり着くのは大変なのですわ。わたくしはよろめくように自室に転がり入ると、魔道灯の明りをつけ鍵を掛けました。普通の貴族令嬢なら専属侍女が控えておりまりますが、王族指定の悪役令嬢のわたくしにつきたい者などおりませんし、経費節減でございますわ。お父様は2ダースほどお付きがおりますけど?

   わたくしは、なんとかドレスを脱ぎました、着つけは嫌そうな顔をしたお父様の侍女がやってくれましたけど来る気配もございませんわね。脱ぐだけなのでなんとかなりましたわ。鏡には鼻血と青あざを頬に貼り付け、口から血を流した髪の毛がぐしゃぐしゃな、疲れはてた様子の黒髪黒目の令嬢が映っておりましたわ。

「見事なまでにボロボロですわね」

『べっぴんさんじゃんお嬢ちゃん黒髪黒目とか俺氏好感度高いですよ』

「フフフありがとう、でもね――」

=「『ハルバリアでは嫌われている』」=

仕方ないことですわね。好みですもの
『しゃーなし、萌えは自由っ』

 わたくしは、アンダードレスをも脱ぎ去りほっと息をつくと、ベッドにこしかけて最低限の身繕いと手当を済ませました。絞った布で血を拭い、裂けた傷に血止めの軟膏を打ち身には消炎軟膏をそっと塗ります。ヒビの入った骨は落ち着いてからです。このようなモノが自室にあるのは王家の躾と称した体罰があったからです。月のモノ用の痛み止めを最大量水差しの水で飲み干します。少しは痛みがマシになるでしょう。他の部屋のモノはいったん回収しますがこれは視覚的インパクトを狙ってのことです。他の部屋から回収した公爵家由来の品物の大半はどこかににでもにでも『うっかり落として』おきましょう。ただたんなる嫌がらせですわ、『うっかり移動させておく』おいた品物を全部盗んだとかでゴタゴタしたくありませんもの。伯爵家タウンハウスからギラギラしたシャンデリアや紀卑猥なポーズの裸婦像がきえました。ザル管理ですから混乱するはずです。金銭に対しては王家が接収した(お母さまの形見の物品のリストと最下級役人の自給をわたくしの拘束時間に換算したモノと、平民の平均的な婚約破棄の慰謝料の資料を部屋の隅に丸めてそえて、こちら側が余裕で相殺できるのでおいておきましょう。

『えっぐ、というか王様の資質あるよね』

 クローゼットから乗馬服を取り出しますと着替え乗馬用編み上げブーツを履きます身支度完了ですわ。そして、部屋中の品を全部アイテムボックスに収納いたし、特に母上が母国より持参した残り宝飾品はしっかりと回収いたします。亡き母上の子はわたくしだけ……父がどう主張しようと王家が超法的解釈をしようとも、宝飾品はわたくしが受け継ぐ権利がございます。めぼしいものは接収されたとはいえ他国の王家の姫の持ち物ですもの、売れば明日からの生計に役立ちましょう。『使えるものは無駄なく使って豊かな国』がモットーの王家でも明らかに母の生国の王家の紋入り宝飾品は、血という根拠の前では正当性を失います。まぁいくつかは王家の代わりの執政作業の業務中、身にあわない贅沢品を献上せよといいがかかりで没収されましたけど(この国では珍しい珊瑚や真珠の装飾品ですわ)。
回収の仕上げに糸より細い銀の婚約指輪を左手の薬指から抜き取ると、窓ガラスやカーテンまで無くなったがらんどうの部屋の真ん中に置きます。明りを消すと昇り始めた月が空虚な部屋を照らしさむざしく風が鳴りました。

「さようならですわ」

 呆れたことに、王家から頂いたのは先ほど王太子に取り上げられた魔道具のネックレスとこの銀の婚約指輪のみ、指輪は宝石一つついておりません。王家の意向として財政には限りがあり〆るところは財政を締めて、無駄なお金を掛けないでございますから、経費を無駄筆頭、使いつくす資源であるらしいわたくしはドレスどころかハンカチ一枚、花の一輪、私的なお手紙すらも頂いたことはございません。乾いた笑いしか浮かばないとはこのことでございましょう。

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