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番外編

3、似ている二人

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「わたくしにも反抗してくださって、いいのですよ」
「は?」

 一瞬、ラウルはアフタルに何を言われたのか分からなかった。

「ラウル。あなたはとても優しくて、穏やかで……だからあなたを見ていると、寂しいんです」
「寂しい? 私がですか」
「ええ。常に遠慮して、いい子でいたのでしょう? まるで自分を見ているみたい。わたくし達は、とても似ているのです」

 我儘を言って、拗ねて、甘えて八つ当たりをして。そんな経験はこれまで……。
 そう考えてはっとした。
 我儘も拗ねるのも、八つ当たりも経験がある。

 シャールーズに対してだけは、気兼ねすることなく嫌味も言いたい放題だった。それも幼い頃だけではなく、今も。

「あの……アフタルさま。酔ってらっしゃいますよね」
「あら、わたくしは酔ってなどいませんわ」

 ミーリャから聞いたことがある。酔っ払いは、必ずと言っていいほど「酔っていない」と主張するのだと。

「では酒を召し上がった後、大公配殿下をひん剥くのは……その」

「仕返しです。シャールーズはわたくしをすぐに翻弄して、にやにやと笑っていますから。彼は服をむりやり脱がされるのが、たいそう嫌いなのです。あ、さすがに上半身しか裸にしませんよ。わたくしの品位に関わりますからね」

 ラウルは思わず笑った。
 なんだ、あなたも彼に甘えて困らせてるんじゃないですか。

「シャールーズには内緒ですよ」
「はい。素敵なご趣味ですね」

 アフタルとラウルは顔を近づけて、うなずきあった。
 
◇◇◇

 パラティアの王宮の車寄せに馬車が停まった。
 降りてきたのはシャールーズと護衛のカイだ。二日間王宮を空けていた。用事を終えてさっさと王宮に戻ってきたのだ。

「大公配殿下は、大公をお一人にするのがよほど不安らしい」と、散々からかわれたが。別にその通りだから、何と言われようがどうでもいい。
 
「おーい。帰ったぞ」

 声をかけたのだから、ノックなど不要とシャールーズはアフタルの部屋の扉を開けた。
 室内に漂う甘ったるい匂いに、思わず顔をしかめる。
 
 なぜか床にアフタルとラウルが座って向き合っていた。
 ソファーでもなく、椅子でもなく、敷物の上でもなく。床に、直にだ。

 なんでアフタルは床に座ってるんだ? どうしてラウルは彼女に椅子を勧めないんだ?
 訳が分からない。

「おい、ラウル。何してるんだ」
「会議です」
「じゃあ、なおさら机と椅子を使えばどうだ?」

 さすがに主従の間に割って入るわけにはいかない。だが、妙に和やかに微笑みあっている二人を見るのは……正直、面白くはない。

(まぁ、いいか。会議とやらが終わったら、アフタルと一緒にこれを植えるとしよう)

 シャールーズは小脇に抱えた包みに目を向けた。それは、サラーマの王宮からわけてもらったジャスミンの株だった。これを植木鉢や庭に植えれば、このパラティアもジャスミンのいい香りに包まれる。

 それぞれの務めが忙しいが、アフタルの香りを嗅げば寂しさも紛れるだろう。

 それに今のサラーマ王であるティルダードからの土産もある。姉のアフタルと、ラウルが喜ぶだろうとゲーム盤を持たせてくれたのだ。

「お帰りなさい、シャールーズ」

 アフタルがふらりと立ち上がった。

 ん? 足取りが怪しくないか? これってもしかして。
 嫌な予感がした。
 
「おい、ラウル。まさか昼から酒なんて飲ませてないだろうな」
「手違いで、菓子に酒が入っていたそうです」
「またあの『あちゃー』野郎か」
「野郎というか、女性ですが」

 ラウルは深々とため息をついた。
 これだから王宮を空けたくないんだ。

「サラーマの香りがします」

 突然、アフタルがシャールーズの胸元に顔をくっつけた。おそらくジャスミンの香りだろう。やっぱり持って帰ってきてよかった。

 シャールーズが満足しているのに、アフタルはまだシャールーズの胸元から離れない。どうしたんだろうと、彼女のあごに指をかけて顔を上げさせる。
 アフタルは唇を引き結んで、眉を下げていた。

「へ? なんで?」
「またわたくしを置いて、サラーマへ行ってしまうんですか?」
「いや、帰って来ただろ」
「二日も会いたいのを我慢したんですよ。辛抱強いと思いませんか」

 うん、完全に酔ってるな。

「はいはい、王宮を空けた俺が悪かったですよ」と口にしかけた途端、服のボタンが飛んでいった。
 ボタンが床を跳ねて、シャールーズは目を丸くした。
 
「うわっ! だから、なんでお前はそうやって人の服をひん剥くんだ」
「わたくしは素敵な趣味を持っているからです」

 シャールーズは目で、ラウルに助けを求めた。
 もちろん、無視されたが。
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