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十章
4、汚泥の中
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シャールーズの言葉に、アフタルは小さくうなずいた。
眩しい太陽に照らされても、その顔色は青白く。見ているだけで、心が苦しくなる。
「退けよ。俺は急いでるんだ」
「奇遇ね。私も急いでるの」
エラはまるで飛びつくようにシャールーズに向かってきた。
けれど伸ばした手が掴んだのは、アフタルの結んだ髪だった。
「さぁ、もっときれいな花を咲かせましょうね」
「……くっ……」
痛みに、アフタルが呻き声を洩らす。
「ほら、皆が見てくれているのよ。泥の中でも清浄な花を咲かせる蓮が、サラーマの象徴。アフタル、あなたは私という汚泥の中、清らかなままでいられるかしらね」
「てめぇ、いい加減にしやがれ」
シャールーズはエラの手を払いのけると、思いきり彼女を蹴とばした。
どさり、とエラが地面に倒れた。
アフタルからしたたり落ちた水で、地面は濡れている。
「ふふ、悪い子ね」
髪や顔に泥をつけたエラが、上体を起こす。
そんな彼女を助け起こすかどうか、騎士達は顔を見合わせている。
「アフタルとシャールーズ。二人とも私には必要ないわ。もう殺しておしまいなさい」
騎士は動かない。ただ一人、アズレットが剣を構えた。
風を受ける銀の髪。そのまま突進してくる。
シャールーズはアフタルを庇い、うずくまった。
「いやです。もう、あなたを傷つけたくありません」
アフタルはシャールーズの腕から抜け出した。
「馬鹿。何してるんだ」
「伯母さまが憎いのは、わたくしだけのはず」
細い背中が、シャールーズの眼前にある。
駄目だ、自分を犠牲にしては。お前は護られるべき王女なのに。
シャールーズはアフタルの手首を掴んで、その体を引いた。
「ぎゃあああっ!」
目の前で起こっていることが、一瞬、信じられなかった。
アズレットの剣が貫いたのは、アフタルの体ではなく、エラだった。
「なにを……私を裏切ったの?」
「裏切るも何も。アフタル王女が謀反を起こすからと、近衛騎士団長たる私はあなたに仕えていたが。これは、どうやらただの私怨のようだ」
「謀反を起こしたじゃないの。剣闘士を引き入れたじゃないの」
げほっと咳きこむと、エラは口から血を吐いた。
「確かに。だが、この国の腐敗を招いたのは、カシアから出戻ったあなただ」
「……アズレット」
「楽しかったですか? 王たる器もないくせに、人形を操り、国を動かすのは。ですが、あなたのままごとに付き合わされるのは、もう御免だ」
エラの背中に突き立てた剣を、アズレットはさらに力まかせに押し込んだ。
腹部から、剣の切っ先が見えている。
ごとりと、無機質な音を立ててエラは倒れた。
見開かれたままの瞳は、もう何も映してはいない。
「エラさま、ご安心を。今更アフタル王女に仕えようなど、虫のいいことは申しません。私はただ、王宮を穢した輩を排除するだけ」
アズレットは、血に濡れた剣を見据えた。
眩しい太陽に照らされても、その顔色は青白く。見ているだけで、心が苦しくなる。
「退けよ。俺は急いでるんだ」
「奇遇ね。私も急いでるの」
エラはまるで飛びつくようにシャールーズに向かってきた。
けれど伸ばした手が掴んだのは、アフタルの結んだ髪だった。
「さぁ、もっときれいな花を咲かせましょうね」
「……くっ……」
痛みに、アフタルが呻き声を洩らす。
「ほら、皆が見てくれているのよ。泥の中でも清浄な花を咲かせる蓮が、サラーマの象徴。アフタル、あなたは私という汚泥の中、清らかなままでいられるかしらね」
「てめぇ、いい加減にしやがれ」
シャールーズはエラの手を払いのけると、思いきり彼女を蹴とばした。
どさり、とエラが地面に倒れた。
アフタルからしたたり落ちた水で、地面は濡れている。
「ふふ、悪い子ね」
髪や顔に泥をつけたエラが、上体を起こす。
そんな彼女を助け起こすかどうか、騎士達は顔を見合わせている。
「アフタルとシャールーズ。二人とも私には必要ないわ。もう殺しておしまいなさい」
騎士は動かない。ただ一人、アズレットが剣を構えた。
風を受ける銀の髪。そのまま突進してくる。
シャールーズはアフタルを庇い、うずくまった。
「いやです。もう、あなたを傷つけたくありません」
アフタルはシャールーズの腕から抜け出した。
「馬鹿。何してるんだ」
「伯母さまが憎いのは、わたくしだけのはず」
細い背中が、シャールーズの眼前にある。
駄目だ、自分を犠牲にしては。お前は護られるべき王女なのに。
シャールーズはアフタルの手首を掴んで、その体を引いた。
「ぎゃあああっ!」
目の前で起こっていることが、一瞬、信じられなかった。
アズレットの剣が貫いたのは、アフタルの体ではなく、エラだった。
「なにを……私を裏切ったの?」
「裏切るも何も。アフタル王女が謀反を起こすからと、近衛騎士団長たる私はあなたに仕えていたが。これは、どうやらただの私怨のようだ」
「謀反を起こしたじゃないの。剣闘士を引き入れたじゃないの」
げほっと咳きこむと、エラは口から血を吐いた。
「確かに。だが、この国の腐敗を招いたのは、カシアから出戻ったあなただ」
「……アズレット」
「楽しかったですか? 王たる器もないくせに、人形を操り、国を動かすのは。ですが、あなたのままごとに付き合わされるのは、もう御免だ」
エラの背中に突き立てた剣を、アズレットはさらに力まかせに押し込んだ。
腹部から、剣の切っ先が見えている。
ごとりと、無機質な音を立ててエラは倒れた。
見開かれたままの瞳は、もう何も映してはいない。
「エラさま、ご安心を。今更アフタル王女に仕えようなど、虫のいいことは申しません。私はただ、王宮を穢した輩を排除するだけ」
アズレットは、血に濡れた剣を見据えた。
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