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八章

13、力を貸してください

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「おお、無事だったんだな。嬢ちゃん」
「カシア語を喋ってるから、分からんかったぞ」

 剣闘士達は立ち上がると、アフタルを取り囲んだ。サラーマ語で語り、頭を撫で、肩や背中を軽く叩いてくれる。

 たぶん彼らにしては力を抑えているのだろうが、やはり鍛え上げた肉体は違う。
 アフタルは触れられるたびに、体が右によろけ左によろけた。
 慌てて支えてくれたのは、ラウルだ。

「ついこの間は、弱々しく見えたのにな。いっぱしの面構えになったじゃないか」
「あの兄ちゃんはどうしたんだ? 一緒じゃないのか? あの時の忌々しい司会の男は、仕事を辞めたぞ。相当怖かったんだろうな」

 司会というと、シャールーズがアフタルの仇として、ひょうのいるアリーナに突き落とした男だ。
 剣闘士達に親し気に語りかけられるアフタルを見て、驚いたのはカイだった。

「おい、なんでサラーマの王女さまと面識があるんだ? 俺だってアフタル王女の世話になってはいるが。お前ら、気安すぎやしないか?」

 一瞬にして、控えの間を沈黙が支配した。
 剣闘士たちは、互いに顔を見合わせた。

「そういや、聞いたことがある。サラーマの王族は精霊と契約を結ぶと」
「じゃあ、あの兄ちゃんに公衆の面前で襲われていたのは。あれは契約だったのか」

「襲われた」との言葉に、ラウルが眉をひそめた。
 沈鬱そうに、額を指で押さえている。

「だから言ったのです。彼の行動は破廉恥はれんちだと」
「破廉恥? ラウルは難しい言葉を使いますね。でも、そのおかげで剣闘士の皆さんに覚えてもらってますし」
「アフタルさまは、彼を甘やかしすぎです」

 まぁまぁ、とラウルをなだめて、アフタルは剣闘士達に向き直った。

「どうか力を貸してください。カシアに居場所がないと仰るなら、このサラーマにあなた方が安心して住める土地を用意します」
「力を貸すって、俺達はなにをすりゃいいんだ?」

 アフタルはミーリャへ視線を向けた。ミーリャは表情を硬くしたが、はっきりと頷いた。
 決意のこもった顔だった。

「サラーマの王宮は、カシアに嫁いでいたわたくしの伯母、エラによって支配されています。エラと近衛騎士団から王宮を解放し、王太子であるティルダード殿下を救いたいのです」

 声が震えないように、かすれないように、一言一言に力を入れる。

 この提案が受け入れられれば、ミーリャの母親を、アフタル自身の親族を追い落とすことになる。
 軽ければ王家からの追放。もしエラが大罪を犯していたならば……。

 アフタルは、唇を噛みしめた。
 考えたくはない。けれど、あまりにも事が急に動きすぎた。
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