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八章
8、変わってしまった
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「分かってるんだよ? 名前も顔も、知ってるもの。さっきそいつの話をしたもの」
ティルダードの言葉から、嫌味な慇懃無礼さが抜けた。焦っている証拠だ。
「そいつは、シャールーズさんと同じ……で、ぼくの……で、腹が立つから解除して。もうどうでもいいから」
「ふーん。契約を解除したから、そいつの名前が出てこねぇんじゃないのか?」
なるほど。ラウルのことを忘れたか。いや、正確には覚えているが、口に出せない状態なのだろう。
シャールーズは腰に手を当てて、ティルダードを見据えた。
「大事な奴を、簡単に切り捨てるもんじゃねぇな。やむにやまれぬ事情があるって、本当は分かってんだろ?」
契約を解除されても、ラウルはティルダードの名を口にしていた。ならば、何かしら他の力が働いているのかもしれない。
だが、それは悟られない方がよさそうだ。精霊をないがしろにした為と思わせておいた方がいい。
そう、サラーマの人間にとって精霊の力は加護だが。カシアで長く暮らしていたエラにとっては、精霊の力は呪術だろうから。
(原因は分からねぇが、こっちにとっては好都合だな)
ティルダードは癇癪を起こしたらしく、玉座の肘置きの部分をバシバシと叩いている。
「おいおい、貴重な王の椅子が壊れちまうぞ。大事にしろって教えられてないのか?」
「うるさい。ぼくに指図するな!」
甲高い声が、謁見の間に響く。
あの素直な少年は、どこへ消えてしまったのだろう。姉を国を守るために頑張っていたのが、この子の本当の姿だろうに。
「伯母さま! エラ伯母さまっ!」
ティルダードは金切り声を上げた。
謁見の間の扉が開き、カツカツと音を立てながら足早にエラがやって来た。
「あらまぁ、どうしたの。ティル」
「こいつが、ぼくに命令するんだ。何とかしてよ」
エラは孔雀の羽根をだらりと顔の前に垂らしながら、うなずいた。
「そうね、ひどい男ね。招待したのは私だから、この私が責任を取るわね。それで許してくれるかしら、ティル」
「責任ってどんなの?」
玉座から飛び降りたティルダードは、エラの腰にしがみついた。まるで母親にするかのように。
「もちろん、あなたの望むようにしますよ。ね、ティル。わたくしは、いつでもあなたの味方。ずっと一緒にいるでしょう?」
「……うん」
ティルダードは、エラに抱きついたまま瞼を閉じた。
以前は、ラウルに甘えていた。常にまとわりつき、くっついて。
それが今は、エラに代わったのだ。
(実の母親である正妃に甘えない分、他の誰かを欲しているのか)
互いに遠慮のある母子の関係を、エラは利用している。
(肉体的には誰もティルダードを傷つけない。精神的にも、傷めつけられているわけではないかもしれない。だが、子どもの寂しさにするりと入りこんで、信頼を得る。これがエラのやり方か)
王都で見た、娯楽や快楽に酔いしれる民衆も、エラのことを悪くは言わないだろう。
おそらく毎日が楽しいのだから。
ティルダードの言葉から、嫌味な慇懃無礼さが抜けた。焦っている証拠だ。
「そいつは、シャールーズさんと同じ……で、ぼくの……で、腹が立つから解除して。もうどうでもいいから」
「ふーん。契約を解除したから、そいつの名前が出てこねぇんじゃないのか?」
なるほど。ラウルのことを忘れたか。いや、正確には覚えているが、口に出せない状態なのだろう。
シャールーズは腰に手を当てて、ティルダードを見据えた。
「大事な奴を、簡単に切り捨てるもんじゃねぇな。やむにやまれぬ事情があるって、本当は分かってんだろ?」
契約を解除されても、ラウルはティルダードの名を口にしていた。ならば、何かしら他の力が働いているのかもしれない。
だが、それは悟られない方がよさそうだ。精霊をないがしろにした為と思わせておいた方がいい。
そう、サラーマの人間にとって精霊の力は加護だが。カシアで長く暮らしていたエラにとっては、精霊の力は呪術だろうから。
(原因は分からねぇが、こっちにとっては好都合だな)
ティルダードは癇癪を起こしたらしく、玉座の肘置きの部分をバシバシと叩いている。
「おいおい、貴重な王の椅子が壊れちまうぞ。大事にしろって教えられてないのか?」
「うるさい。ぼくに指図するな!」
甲高い声が、謁見の間に響く。
あの素直な少年は、どこへ消えてしまったのだろう。姉を国を守るために頑張っていたのが、この子の本当の姿だろうに。
「伯母さま! エラ伯母さまっ!」
ティルダードは金切り声を上げた。
謁見の間の扉が開き、カツカツと音を立てながら足早にエラがやって来た。
「あらまぁ、どうしたの。ティル」
「こいつが、ぼくに命令するんだ。何とかしてよ」
エラは孔雀の羽根をだらりと顔の前に垂らしながら、うなずいた。
「そうね、ひどい男ね。招待したのは私だから、この私が責任を取るわね。それで許してくれるかしら、ティル」
「責任ってどんなの?」
玉座から飛び降りたティルダードは、エラの腰にしがみついた。まるで母親にするかのように。
「もちろん、あなたの望むようにしますよ。ね、ティル。わたくしは、いつでもあなたの味方。ずっと一緒にいるでしょう?」
「……うん」
ティルダードは、エラに抱きついたまま瞼を閉じた。
以前は、ラウルに甘えていた。常にまとわりつき、くっついて。
それが今は、エラに代わったのだ。
(実の母親である正妃に甘えない分、他の誰かを欲しているのか)
互いに遠慮のある母子の関係を、エラは利用している。
(肉体的には誰もティルダードを傷つけない。精神的にも、傷めつけられているわけではないかもしれない。だが、子どもの寂しさにするりと入りこんで、信頼を得る。これがエラのやり方か)
王都で見た、娯楽や快楽に酔いしれる民衆も、エラのことを悪くは言わないだろう。
おそらく毎日が楽しいのだから。
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