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八章

4、出発

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 シャールーズが、王都へ向かう乗合馬車に揺られている内に、霧雨は止んだ。
 馬車の後部に向かい合う二つの席があり、そこには弓矢や剣を携えた男たちが座っている。

「なんか物騒だな」
「王都は今、治安が悪化しているからな。商売するにも護衛が必要なんだよ。護衛を雇うにも金がかかるが、ここをケチって売り上げを持ってかれちまう方が困るしな」

 同乗している商人らしき男が、シャールーズに耳打ちした。
 ふいに護衛の男たちが後方に目を向けた。背中の矢筒から矢を取る。
 馬車内に緊張が走った。

(おいおい。いきなり盗賊が出たとかいうなよな)

 シャールーズは息を呑み、来た道を見遣る。
 盛大に土煙をあげながら、何かが突進してくる。

「猪か? 確かこの道は石舗装が施してあるはずだぞ」
「いや、人だ。手を振っているぞ」

 シャールーズの言葉に応じたのは、護衛だ。声が落ち着いているから、どうやら賊ではなさそうだ。
 目をすがめて邁進する男を見て、言葉を失った。
 カイだ。カイが猛烈な速度で、馬車を追っている。

「ちょっと止まってくれ。知り合いだ」

 大声で御者に向かって叫ぶ。王家の馬車のように、ワゴンが閉鎖された空間ではないので、シャールーズの声を聞いた御者はすぐに馬車を止めてくれた。

「悪ぃな」

 ひらりと地面に飛び降りて、熊のような大男の到着を待つ。
 地響きがしそうな走り方。きっと周辺の家では、棚の中の食器がカタカタと揺れていることだろう。

「よぉ。なんか用か」
「よ……用、あるから……追ってきた」

 ようやく追いついたカイは、立ち止まった瞬間に盛大に汗が噴きだした。ボタボタと道に落ちる汗の雫。今にも水たまりができそうだ。
 行動の一つ一つがでかい男だ。

「俺、連れていけ」
「構わねぇけどよ。剣闘士のことか」
「そうだ。俺、行かなければならない」

 馬車にカイを乗せると、急に客車内が狭くなった。そして湿度がぐんと上がった。

「なんか、蒸し暑くないかね」

 商人が、ぱたぱたと手で顔をあおいでいる。
 南の島で生まれ育ったシャールーズは、湿度をあまり気にしないが。さすがにその湿気の根源が汗だと思うと……。まぁ、あまり考えない方が精神衛生上よさそうだ。

 突然、馬車が停まった。

「どうしたんだね。駅でもなかろうに」
「皆さん、客車から降りてください」

 震える声で御者が伝えてくる。商人も彼の護衛も、他の客も皆、すぐに馬車から降りた。御者もだ。
 何事か分からずに、シャールーズとカイは顔を見合わせる。
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