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七章
10、正しくない主従の関係
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「これ以降は、いくら私が手紙を送ってもティルダードからの返事が来ないのです」
「鳩だけが戻ってきているということですか?」
アフタルは正妃に問うた。
「ササンが、王宮の様子を知らせる文を寄越してはくれますが。ラウル。こちらへ」
正妃パルトに命じられ、ラウルが前に進む。元々色は白いが、顔色はさらに青白くて儚げだ。
「では、このままだとラウルは」
「蒼氷のダイヤモンドに戻る可能性があります。ですが、それは回避せねばなりません。エラに王の証である宝石を渡すわけにはいきません」
続く正妃の言葉が何であるかを察したのか、シャールーズが腕を組んで顔をしかめた。
「わたくしは、信じられません。ティルダードが、ラウルを見捨てるなんて」
「アフタル、信じる信じないの問題ではないのです。現にラウルは弱ってきています。このままでは人の姿を保てません」
さすがにアフタルも、正妃が何を言いたいのか理解した。
あずまやの中に立つシャールーズを見やったが、彼は無言のままだ。
互いの感情を優先させるな、と言葉にはならない声が聞こえた気がした。
(あなただけと誓ったのに)
アフタルは瞼を閉じ、続く正妃の言葉を待った。
「お願いです、アフタル。ラウルと主従の契約を結んでください」
願いと言われても、これは命令だ。
(大丈夫です。どこかに嫁ぐように言われたわけではありません)
なのに、どうしてこんなにも心がざわざわと騒ぐのだろう。
ああ、とアフタルは納得した。
(シャールーズとの関係が、主従として正しくないからなのですね)
そう、自分たちはまるで恋人同士だ。だからさらにラウルとの契約を結ぶことに、躊躇してしまう。
どうして忘れていられたのだろう。
いずれまた政略結婚の話が持ち上がり、シャールーズの前で、誰かに嫁がなければならないかもしれないのに。
正妃の元を辞してから、アフタルはシャールーズにラウルとの契約について相談した。
「まぁ、いいんじゃないか。別に問題ないだろ」
「気にならないんですか?」
シャールーズは階段を上がり、廊下を先に進んでいく。
彼の背中を、アフタルが小走りになって追いかける。
普段なら、そんなに先に歩いていかないのに。ラウルの話が出てからのシャールーズは、心ここにあらずといった感じで、待ってもくれない。
「緊急事態なんだろ。なら、しょうがねぇな」
シャールーズは背を向けたままで、ひらひらと手を振った。
そしてアフタルの隣の部屋へと入っていく。
「じゃあ、また後でな。用事があったら呼んでくれ」
部屋が別々であることに不満を洩らしていたのに。
シャールーズはあっさりと自室に入り、扉を閉めてしまった。
遠慮のない仲なのだから。自分もシャールーズの部屋に入っていけばいいのに。
アフタルはなぜか扉に当てた手を、ノックすることができなかった。
「鳩だけが戻ってきているということですか?」
アフタルは正妃に問うた。
「ササンが、王宮の様子を知らせる文を寄越してはくれますが。ラウル。こちらへ」
正妃パルトに命じられ、ラウルが前に進む。元々色は白いが、顔色はさらに青白くて儚げだ。
「では、このままだとラウルは」
「蒼氷のダイヤモンドに戻る可能性があります。ですが、それは回避せねばなりません。エラに王の証である宝石を渡すわけにはいきません」
続く正妃の言葉が何であるかを察したのか、シャールーズが腕を組んで顔をしかめた。
「わたくしは、信じられません。ティルダードが、ラウルを見捨てるなんて」
「アフタル、信じる信じないの問題ではないのです。現にラウルは弱ってきています。このままでは人の姿を保てません」
さすがにアフタルも、正妃が何を言いたいのか理解した。
あずまやの中に立つシャールーズを見やったが、彼は無言のままだ。
互いの感情を優先させるな、と言葉にはならない声が聞こえた気がした。
(あなただけと誓ったのに)
アフタルは瞼を閉じ、続く正妃の言葉を待った。
「お願いです、アフタル。ラウルと主従の契約を結んでください」
願いと言われても、これは命令だ。
(大丈夫です。どこかに嫁ぐように言われたわけではありません)
なのに、どうしてこんなにも心がざわざわと騒ぐのだろう。
ああ、とアフタルは納得した。
(シャールーズとの関係が、主従として正しくないからなのですね)
そう、自分たちはまるで恋人同士だ。だからさらにラウルとの契約を結ぶことに、躊躇してしまう。
どうして忘れていられたのだろう。
いずれまた政略結婚の話が持ち上がり、シャールーズの前で、誰かに嫁がなければならないかもしれないのに。
正妃の元を辞してから、アフタルはシャールーズにラウルとの契約について相談した。
「まぁ、いいんじゃないか。別に問題ないだろ」
「気にならないんですか?」
シャールーズは階段を上がり、廊下を先に進んでいく。
彼の背中を、アフタルが小走りになって追いかける。
普段なら、そんなに先に歩いていかないのに。ラウルの話が出てからのシャールーズは、心ここにあらずといった感じで、待ってもくれない。
「緊急事態なんだろ。なら、しょうがねぇな」
シャールーズは背を向けたままで、ひらひらと手を振った。
そしてアフタルの隣の部屋へと入っていく。
「じゃあ、また後でな。用事があったら呼んでくれ」
部屋が別々であることに不満を洩らしていたのに。
シャールーズはあっさりと自室に入り、扉を閉めてしまった。
遠慮のない仲なのだから。自分もシャールーズの部屋に入っていけばいいのに。
アフタルはなぜか扉に当てた手を、ノックすることができなかった。
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