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七章

4、蜂蜜酒が問題だ

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「……どうしたんだ? 妙だぞ」

 ベッドで上体を起こしたシャールーズは、目を丸くした。
 自分に向かってくるアフタルが、ほんのわずかだが床から浮いているように思えたからだ。

 それが足取りがしっかりしていないせいだと気付くのに、しばらくかかった。

「何がですか? わたくしは、いたって普通ですよ」
「なんか、ふわふわしてる」
「それはですね、湖から夜に吹く風のことを『夜風』というからです」
「訳分かんねぇ。っていうか、それとアフタルの様子が変なのと何の関係があるんだ?」

 アフタルはグラスを置いて、ベッドに上がった。

「天気予報官は、言葉選びに情緒がないのです。そうですね。『小夜風さよかぜ』とか、いかがでしょう。ただの夜風よりも素敵ですよね」
「……夜が小さくなっただけじゃねぇか」
「もうっ。シャールーズも風情や趣を解さない人なんですか? 困ります、そういうの」

 頬を膨らませたアフタルは、シャールーズにしがみついた。
 何事が起っているのか分からないシャールーズは、目をしばたたいている。
 見上げてくるアフタルは、なぜか膨れっ面だ。

 意味不明だ。訳が分からない。いったいどうなってるんだ。

「えーとですね、アフタルさん? 俺は何か悪いことをしましたかね」
「悪いことだらけです」

 アフタルは手を伸ばすと、シャールーズの両頬をつねった。

「すぐにわたくしに意地悪するし」
「まぁ、可愛いものは虐めたくなるよな。よくない趣味だとは思うけどな」
「可愛いだなんて」

 アフタルは、ぽっと頬を朱に染めた。だがすぐに真顔に戻る。

(なんだ、これ?)

 カシアで、アフタルの新たな面を見た時も、正直驚いたが。
 真面目でおとなしい王女の衣を脱ぎ捨てた時のアフタルは、非常に興味深い。

 よし、これは観察するに限る。

「いえ、論点はそこではありません。わたくしに黙って姿を消すし」
「しょうがねぇよな。怪我もかなりひどかったしな。カイがいなけりゃ、俺は未だに湖の底だ」

「許しません!」
「なにを?」

「勝手に湖の底に沈むなんて。わたくしの許可を得ていません」
「おいおい……」

 シャールーズは困り顔で天井を仰いだ。もしかしたら女官長を呼んできた方がいいだろうか。
 さっきアフタルは何かを飲んでいたが、妙な薬でも入ってたんじゃないだろうな。

 アフタルにのしかかられたままで、シャールーズは動かない。非力な王女の体をのけることなど簡単なのだが……。

(こんなアフタルも珍しいし、面白いから。まぁいいか)

 翻弄されるのも、悪くはない。
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