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五章
13、未来で会いたい
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「もう時間がない」
天の女主人は、シャールーズの背中を押した。
「そなたらと過ごした時は、本当に楽しかったぞ」
「おばさ……ん」
彼女の肩ごしに、遥かな山の頂上では噴煙に混じって緋色の溶岩が噴出しているのが見える。
なぁ、こんなの大丈夫じゃないよな。
シャールーズは、天の女主人にしがみついた。
でないと手の震えが止まらないから。
「だ、だめだ。やっぱり一緒に逃げるぞ、おばさん」
「我儘を言うものではない」
「でも……」
「私は信仰があれば、いずれ復活できる日もあろう。今生の別れとは限らぬ」
「大人はすぐ嘘を言うんだ!」
大声で叫ぶと、喉が痛んだ。
綺麗ごとなんて聞きたくない。シャールーズは何度も天の女主人の腕を引っぱる。だが彼女は、まったく動こうとしない。
もっと自分が大人だったら。大きかったら。力があったら。
そうしたら彼女を担いで、山を下りることだってできるのに。
やれやれ、と女主人は肩をすくめた。
「お前は聡い子だからな。仕方ない、私も真実を告げよう。そなたの考えるとおり、我が身はここで朽ちるであろう。だが、いずれ約束の地にてそなたと再会できるかもしれぬ」
「かもしれぬって。絶対じゃないだろ」
「そうだな。ただの願望だ」
願望? それって願いのことか。
「私は会いたいのだよ。誰よりも何よりも大切な主を得た、そなたとな」
「主なら、どっかその辺から連れてくるから。だから……」
「表面上のことではない。幸せになったそなたに未来で出会いたいのだよ」
声を荒げるシャールーズに対し、女主人はあくまでも落ち着いている。
「でも朽ちるって言った。死んじゃうってことなんだろ」
「致し方あるまい。島民はすべて避難し、私を信仰する者はこの島に残らぬ。なぜって? それはこの島の大半が溶岩に覆われるからだ。溶岩の熱が冷めれば、いずれ鳥が飛来し、虫が棲むだろう。だが、それらは信仰を持たぬ。私のこの島での役目は終わりだ」
そんな……でも、島を去ったとしても人は生き続けるのに。
「避難した島民が、おばさんを信じるんじゃないのか?」
「島の者は、火山の噴火を止められなかった私から心が離れる。災害をとめることなど、一介の女神でしかない私には無理だというのにな」
「じゃあ、なんで全然知らない約束の地なら、大丈夫なんだよ」
「そこに希望があるからさ」
約束の地。
その言葉は、シャールーズの心を占めた。
心の変化が分かったのだろう。それまで沈痛な面持ちだった天の女主人が、柔らかに微笑んだ。
「さぁ、お行き。愛しい子」
そっと優しく背中を押される。
天の女主人は、シャールーズの背中を押した。
「そなたらと過ごした時は、本当に楽しかったぞ」
「おばさ……ん」
彼女の肩ごしに、遥かな山の頂上では噴煙に混じって緋色の溶岩が噴出しているのが見える。
なぁ、こんなの大丈夫じゃないよな。
シャールーズは、天の女主人にしがみついた。
でないと手の震えが止まらないから。
「だ、だめだ。やっぱり一緒に逃げるぞ、おばさん」
「我儘を言うものではない」
「でも……」
「私は信仰があれば、いずれ復活できる日もあろう。今生の別れとは限らぬ」
「大人はすぐ嘘を言うんだ!」
大声で叫ぶと、喉が痛んだ。
綺麗ごとなんて聞きたくない。シャールーズは何度も天の女主人の腕を引っぱる。だが彼女は、まったく動こうとしない。
もっと自分が大人だったら。大きかったら。力があったら。
そうしたら彼女を担いで、山を下りることだってできるのに。
やれやれ、と女主人は肩をすくめた。
「お前は聡い子だからな。仕方ない、私も真実を告げよう。そなたの考えるとおり、我が身はここで朽ちるであろう。だが、いずれ約束の地にてそなたと再会できるかもしれぬ」
「かもしれぬって。絶対じゃないだろ」
「そうだな。ただの願望だ」
願望? それって願いのことか。
「私は会いたいのだよ。誰よりも何よりも大切な主を得た、そなたとな」
「主なら、どっかその辺から連れてくるから。だから……」
「表面上のことではない。幸せになったそなたに未来で出会いたいのだよ」
声を荒げるシャールーズに対し、女主人はあくまでも落ち着いている。
「でも朽ちるって言った。死んじゃうってことなんだろ」
「致し方あるまい。島民はすべて避難し、私を信仰する者はこの島に残らぬ。なぜって? それはこの島の大半が溶岩に覆われるからだ。溶岩の熱が冷めれば、いずれ鳥が飛来し、虫が棲むだろう。だが、それらは信仰を持たぬ。私のこの島での役目は終わりだ」
そんな……でも、島を去ったとしても人は生き続けるのに。
「避難した島民が、おばさんを信じるんじゃないのか?」
「島の者は、火山の噴火を止められなかった私から心が離れる。災害をとめることなど、一介の女神でしかない私には無理だというのにな」
「じゃあ、なんで全然知らない約束の地なら、大丈夫なんだよ」
「そこに希望があるからさ」
約束の地。
その言葉は、シャールーズの心を占めた。
心の変化が分かったのだろう。それまで沈痛な面持ちだった天の女主人が、柔らかに微笑んだ。
「さぁ、お行き。愛しい子」
そっと優しく背中を押される。
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