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五章

5、約束を破ってしまった

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 シャールーズは波の音で目が覚めた。
 どうやら古びた小屋の床に横たわっているらしい。

 物置小屋のようで、風が吹きこんでくる。窓が開いているのではなく、壁の木と木の隙間があいてるのだ。

 目許が冷たいと思ったら、なぜか濡れていた。

「どこだよ、ここ」

 体を起こすと、背中に激しい痛みが走った。見れば、上半身裸の状態で包帯がぐるぐる巻きにされている。

「……手当てさせるって約束を、破っちまったな」

 荒っぽく巻かれた包帯に、シャールーズは手を触れた。
 アフタルは心配しているだろう。していないはずがない。

「参ったよな」

 大きなため息をつくと、背中がひどく痛んだ。だが、アフタルの心はもっと傷ついているだろう。

「ちくしょう……」

 壁に手をかけ、なんとか立ち上がりはしたが、一歩踏み出したとたん、目眩がした。

「離宮に行かねぇと。あいつが待ってるんだ」

 大事な人と離れ離れになる辛さは、嫌というほど知っている。あんな気持ちを、アフタルに抱かせたくはない。

「ぜってぇ、たどり着いてやる」

 床に置いてある双子神ディオスクリの長剣を支えにして、再び立ち上がる。目眩どころか、今度は吐き気だ。
 何も食ってないのに、何を吐くのだろうと考えると、可笑しくなった。
 天の女主人は、自分たちのことを人間っぽく創りすぎなんだ。

 かろうじて扉の把手に手をかけた時、外から扉が開かれた。

「熊……かよ」

 入り口にのっそりと立つ姿を見て、シャールーズは呟いた。

「熊、違う。カイだ」
「しゃべれる熊かよ」
「……カイと言っている」

 カイと名乗った大男は、シャールーズのわきに両手をさしいれて持ち上げた。
 肩に担がれ、寝台代わりに毛皮を敷いた場所に戻される。
 男に軽々と担がれる。それはなんというか、屈辱だ。

(ラウルに会ったら、謝っておくか)

「気が付いて、よかった」

 カイはシャールーズに向き合うように、あぐらをかいて座った。

「あんたが助けてくれたんだな。感謝するぜ。ありがとうな」
「魚を捕りに舟から潜ったら、お前、いた」

 ぼそぼそと低い声でカイは話す。やたらと体がでかくて、胸板の厚さや上腕の筋肉も服の上から分かるほどだ。

「あのさ、俺は離宮に行きたいんだが。ここからどっちに向かえばいいんだ?」

 だが、カイは首を傾げるだけだ。

「離宮だよ、王家の。あるんだろ」
「行ったこと、ない」
「そりゃそうかもしれねぇけどさ。見たことくらいはあるだろ?」

 またもカイは首を傾げる。

「参ったな……波の音が聞こえるから、湖の近くなんだろ、ここ。三王国の湖って、そんなにでけぇのかよ」
「三王国。カシアにウェド……それとサラーマ」
「そうそう」

 毛皮の上に腰を下ろしたシャールーズは身を乗りだしたが、背の痛みにうずくまってしまった。
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