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四章

9、水晶の双子神

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 道の四隅にシャールーズとラウル、ヤフダにミトラが立った。

「アフタル、馬を連れてきて」
「ゾヤ女官長、さぁこちらへ。アフタルも、女官長と一緒に中心に来るのですよ」

 四人に囲まれた中央に、アフタルとゾヤ女官長がそれぞれ馬を連れて立つ。

「あの、お姉さま方。何をなさるんですか?」
「ごめんなさいね、アフタル。これまでちゃんと話してあげることができなくて」
「ま、すぐに済むわよ。酔わなきゃいいけど」

 いつもの釘つき棒を、ミトラがシャールーズに向かって放り投げる。
 飛んでくる凶器を、シャールーズは片手で受けとめた。

「危ねぇな」
「平気だってば。そんな簡単に折れやしないわよ」
「釘の部分を握ったら、俺が危ねぇって言ってんだよ」
「あんた、頑丈じゃない。ま、その棒の仮の姿もここまでだけどね」

 ミトラは、にやっと唇の端を上げた。
 両腕を広げ、シャールーズの手の中にある釘つき棒を見据える。ともすれば暗い緑に見えるミトラの瞳が、鮮烈なみどりへと変化した。
 化粧っ気のない唇が、ゆっくりと動く。

「汝は王の剣。木のよろいを脱ぎ捨て、まことの姿を示せ。貴き銘、水晶の双子神ディオスクリ

 ミトラの口上に反応して、釘つき棒が放射状に光を放つ。
 眩しさに、アフタルは顔を腕で庇った。瞼を閉じていてもなお、光が目に届く。

「……お前、無茶しやがって」
「本当ですよ。王の剣になんてことを」

 ため息のような言葉を発したのは、シャールーズとラウルだった。
 さっきまで使い古して釘が曲がっていた、いびつな棒。それが今は柄が透きとおった二本の剣へと変化していた。
 一本は長剣、もう一本は短剣へと。

「あたしが鍛えてあげてたのよ。剣は大事にしまっていても、しょうがないじゃない」
「……決して壁を叩いたりするものでも、ありません。いいですか、あなたの使用方法はどう考えても、おかしすぎます」
「ラウルってば頭が固いわよね。それってダイヤモンドだから?」
「私の石とは関係ないでしょう」
「ティルダードも真面目ちゃんになるんじゃないかって、心配だわ」

 ミトラはため息をついた。

「水晶の双子神ディオスクリは、蒼氷のダイヤモンドと共に、代々の王に受け継がれております。私も王家にお仕えして長いですが、拝見するのは久しぶりです。まだ女官だった頃に目にした記憶はございますが」
「わたくしは、見たことがないです」
「姫さまがお生まれになるより前に、ミトラさまの預かりになりましたから」

 ゾヤ女官長が、アフタルに説明してくれる。

(ちょっと待ってください。今のって、いわば魔法みたいなものですよね)

 サラーマは宝石精霊と契約し、加護を受けた国とされてきたが。アフタルもティルダードも、術を駆使することはできない。
 訝しむアフタルと、ミトラの視線が絡み合った。
 いつも自信に満ち溢れ、勝ち気なミトラなのに。今、初めて彼女が不安そうな表情を浮かべるのを目にした。
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