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四章

8、四人いるから

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「ねぇ、大丈夫?」

 倒れた馬車の扉を、棒でこじ開けたのはミトラだ。
 いつも姉が携帯している釘つき棒が実用で役に立つのを、初めて見た。
 シャールーズの怪我はたいしたことはなさそうで、アフタルはほっとした。
 
 外に出ると、外れた車輪が道に転がっていた。

「……ここまでですね」
「なんで? 車輪をはめればいいんじゃないの? 曲がってはなさそうよ」

 ミトラが車輪を棒で持ち上げる。かなりの腕力だ。

「いえ、ミトラ姉さま。問題は車軸の方です」
「割れてるっつうか、裂けてるな」

 服についたガラスの破片を手で払いながら、シャールーズが車軸を確認した。
 馬車がひっくり返ったせいで、底の部分が陽射しにさらされている。

「王宮の馬車は、常に整備が行き届いています。これは車軸に細工された可能性があります」
「姫さま。もう少し進めば、町があります。きっと馬車の修理もできるでしょう。わたくしが歩いて参りましょう」

 ラウルと互いに支えあいながら、ゾヤ女官長が申し出た。

「故意に細工されたものです。その修理の業者もきっと不在でしょう」

 そもそも王宮に複数いる御者が一人も見つからないこと自体、おかしな話だ。
 アフタルは親指の爪を噛んだ。

 王女たちが、このまま黙ってティルダードが傀儡になるのを見過ごすはずがないのは、エラも承知のはずだ。
 だが三人の王女を幽閉することはできない。それはエラの方針を、王族が認めていないと明かすようなものだからだ。

「わたくしが誘拐され、闘技場に売られたのも、伯母さまの差し金でしょう。縛られていた杭は地下に落下する仕組みになっていましたが。司会の男の場合は仕組みは作動し、わたくしの場合は作動しなかったのでしょうね」

 王の姉の命令であれば、アフタルの護衛を遠ざけることも、闘技場の王族専用の席に爆薬を仕掛けることも不可能ではない。

 むろん、ティルダードのことは、殺すつもりはなかったろう。
 だが同じ時に同じ場所で、王太子と王女が命を狙われたという事実が必要だったのだ。

 治安の乱れは、王が不在であること。サラーマに秩序を取り戻すためには、摂政が不可欠であることを知らしめるために。

「なるほど、簡単に王宮を脱出できたはずだな」
「ええ。伯母さまは、わたくしたちを事故に遭わせるために、あえて逃がしたのです」

 たとえ王女がいなくとも、向かった先が離宮ならば、休暇を過ごすためだと言い訳できる。
 次代の王が即位する、この大事な時に、王女たちが不在などありえないのだが。

「だが、離宮に向かわねぇわけにはいかないんだろ。他にあてもねぇだろうし」
「ええ。馬は二頭。鞍もあぶみもありませんし。六人が乗ることはできません」
「ま、なんとかなるんじゃねぇか?」

 あまりにも気軽な口調だった。
 アフタルは驚いてシャールーズを見たが、ラウルも二人の姉も納得したようにうなずくだけだ。

「幸いにも、ここには四人揃っておりますから。案ずることはありません」
「そーいうこと。ラウルの言う通りよ」

 ミトラとヤフダが、微笑んだ。
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