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四章
4、芯の強さ
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「このような事態にならぬよう、お父さまの死は伏せておいたのですが。なぜ今、急にエラ伯母さまが摂政になるなどと……」
アフタルは額に指を当てて、考えた。
これまでのおっとりとした雰囲気は失せ、緑の瞳に鋭さが宿る。
エラは享楽的な性格だ。政略結婚でカシアに嫁ぎはしたものの、政治にも外交にも興味はなかったはず。
「伯母さまだけの考えではない可能性があります」
「誰かにそそのかされているということか」
「はい。伯母さまが帰国なさったのは去年のこと。夫を失った妻、父を失った娘は男性のように髪を短く切るのがカシアの習わしです。宗教を信じないあの国では、妻にとっての神は夫、夫にとっての信者は妻と言い換えることができます」
アフタルは、これまで眠らせていた知識を引き出した。
「カシアでは、髪の短い女性は女と認められないのです。父を失った娘の場合、また髪を伸ばすことが認められますが。妻にその権利はありません」
「相手が死んでも添い遂げろってことか。自分で選んだ相手ならともかく、政略結婚でもそれを強要されるんだろ。迷惑な話だな」
「夫を偲び、二夫にまみえないことは、美談になりますから。ただエラ伯母さまに、そんな風習が耐えられるはずもありません。だから早々にサラーマに帰国したのではないでしょうか。現に伯母さまは、日々社交に出かけておいででしたから」
アフタルはため息をついた。
どこの国に、あるいは誰に嫁いでも良いようにと、子どもの頃から学んできた知識をこれまで活かす場などなかった。
長じてからはなおさら、夫となる男性に従順であるよう。夫を支えつつも、その自尊心を立てるよう、控えめに振る舞うことばかり求められてきた。
その従順さが、婚約者のロヴナの目にはつまらない女と映ったのだから、皮肉なものだ。
「エラ伯母さまの目的は、この国、サラーマを私物化することかもしれません。ですが、彼女が手に入れたサラーマは、その後誰のものとなるのでしょうか」
「アフタルさま。私の石は、サラーマ王の証となります。エラさま……いえ、エラは蒼氷のダイヤモンドを使用人に命じて捜させています」
「繋がりましたね」
ラウルの言葉に、アフタルはうなずいた。
エラが蒼氷のダイヤモンドを手に入れた時、傀儡の王となるティルダードは廃される。
その時、誰が玉座に着くのか。
本質を見きわめ、それを阻止するためにも自分たちは逃げ延びなければならない。
幸いにもラウルが宝石の精であることは、エラにはばれていないようだ。
この王宮にラウルを置いていくわけにはいかない。
「参りましょう。離宮へ」
「いえ、私はここに残ります」
「ラウル。それはなりません」
アフタルは語気を強めた。
アフタルは額に指を当てて、考えた。
これまでのおっとりとした雰囲気は失せ、緑の瞳に鋭さが宿る。
エラは享楽的な性格だ。政略結婚でカシアに嫁ぎはしたものの、政治にも外交にも興味はなかったはず。
「伯母さまだけの考えではない可能性があります」
「誰かにそそのかされているということか」
「はい。伯母さまが帰国なさったのは去年のこと。夫を失った妻、父を失った娘は男性のように髪を短く切るのがカシアの習わしです。宗教を信じないあの国では、妻にとっての神は夫、夫にとっての信者は妻と言い換えることができます」
アフタルは、これまで眠らせていた知識を引き出した。
「カシアでは、髪の短い女性は女と認められないのです。父を失った娘の場合、また髪を伸ばすことが認められますが。妻にその権利はありません」
「相手が死んでも添い遂げろってことか。自分で選んだ相手ならともかく、政略結婚でもそれを強要されるんだろ。迷惑な話だな」
「夫を偲び、二夫にまみえないことは、美談になりますから。ただエラ伯母さまに、そんな風習が耐えられるはずもありません。だから早々にサラーマに帰国したのではないでしょうか。現に伯母さまは、日々社交に出かけておいででしたから」
アフタルはため息をついた。
どこの国に、あるいは誰に嫁いでも良いようにと、子どもの頃から学んできた知識をこれまで活かす場などなかった。
長じてからはなおさら、夫となる男性に従順であるよう。夫を支えつつも、その自尊心を立てるよう、控えめに振る舞うことばかり求められてきた。
その従順さが、婚約者のロヴナの目にはつまらない女と映ったのだから、皮肉なものだ。
「エラ伯母さまの目的は、この国、サラーマを私物化することかもしれません。ですが、彼女が手に入れたサラーマは、その後誰のものとなるのでしょうか」
「アフタルさま。私の石は、サラーマ王の証となります。エラさま……いえ、エラは蒼氷のダイヤモンドを使用人に命じて捜させています」
「繋がりましたね」
ラウルの言葉に、アフタルはうなずいた。
エラが蒼氷のダイヤモンドを手に入れた時、傀儡の王となるティルダードは廃される。
その時、誰が玉座に着くのか。
本質を見きわめ、それを阻止するためにも自分たちは逃げ延びなければならない。
幸いにもラウルが宝石の精であることは、エラにはばれていないようだ。
この王宮にラウルを置いていくわけにはいかない。
「参りましょう。離宮へ」
「いえ、私はここに残ります」
「ラウル。それはなりません」
アフタルは語気を強めた。
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