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三章
4、アイスブルー
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廊下を早足で近づいてくる足音に、静けさは消えた。
ドタドタというような大きな音ではないが、扉をノックされたらアフタルが目を覚ましてしまう。
疲れ果てた主の眠りを妨げる不粋な者を、この部屋に侵入させるわけにはいかない。
足音が扉の前で止まるのと同時に、シャールーズは力任せに扉を開いた。
何かがぶつかる鈍い音がした。
「うっ……ううっ……」
廊下で鼻を押さえてうつむいているのは、闘技場で出会ったアイスブルーだった。名前は、まぁどうでもいい。
「何やってんだよ」
「それはこっちのセリフです。どうしてノックを待てないのですか。あなたは粗暴すぎ……むぐっ」
「はいはい、うるさいうるさい」
シャールーズはアイスブルーの口を手でふさいで、そのまま廊下へと押しだした。
泣き虫だったくせに、えらそうな大人になったものだ。
「お前さ、闘技場でアフタルを見捨てろって言っただろ」
「そのようなことは言っていません。私はただティルダード殿下が関わることはないと、申し上げただけです」
「なんでだよ」
「アフタル王女には、あなたがついていると分かったからです。我々は、主を守ることを最優先させます。それがたとえ契約したばかりであっても。違いますか?」
「違わねぇ。ところで、アイスブルー。お前は王子を放っておいていいのかよ。闘技場で爆発があったのは、王子を狙ってのことじゃねぇのか」
「不本意ですが、仰る通りです。あの日は、急に殿下が闘技場に行きたいと仰られて。お忍びで見学に行ったのですが」
アイスブルーは、眉根を寄せた。
「護衛は?」
「むろん、つけていました。殿下に気づかれぬよう、顔を知られていない者を周囲に配置しました」
なら、王子を押しつぶしそうな重量感のあった女も、護衛ということか。
「王女のことに気を取られて、殿下は爆発のことには気づいていらっしゃいません」
「そりゃ問題だな」
「たとえ聡明とはいえ、まだ幼くていらっしゃいますから。殿下は今は勉強をなさっておいでです。即位に向けて、課題が多いのです。ちなみに私はラウル。名前で呼びなさい」
「了解した。アイスブルー」
「あなたという人は、変わらないのですね。シンハにいた頃から、そうでした」
「何年前だっけな。百年か」
「……私とあなたがサラーマ王国の交易船に乗ったのが、九十八年と三月に十八日」
「お前、そんなに細かいことを覚えていて、面倒くさくないのか?」
「記憶力がいいと言ってほしいですね」
アイスブルーは、眉をひそめた。
シャールーズを偉丈夫とするなら、ラウルは美丈夫だ。
冷たそうな銀の髪に凍てついた蒼い瞳。
(こいつ、生まれる島を間違えてんだろ)
温暖な南海の島よりも、北の最果て、氷河が崩落し、氷山が海に浮かぶ島の方がしっくりくる。
ドタドタというような大きな音ではないが、扉をノックされたらアフタルが目を覚ましてしまう。
疲れ果てた主の眠りを妨げる不粋な者を、この部屋に侵入させるわけにはいかない。
足音が扉の前で止まるのと同時に、シャールーズは力任せに扉を開いた。
何かがぶつかる鈍い音がした。
「うっ……ううっ……」
廊下で鼻を押さえてうつむいているのは、闘技場で出会ったアイスブルーだった。名前は、まぁどうでもいい。
「何やってんだよ」
「それはこっちのセリフです。どうしてノックを待てないのですか。あなたは粗暴すぎ……むぐっ」
「はいはい、うるさいうるさい」
シャールーズはアイスブルーの口を手でふさいで、そのまま廊下へと押しだした。
泣き虫だったくせに、えらそうな大人になったものだ。
「お前さ、闘技場でアフタルを見捨てろって言っただろ」
「そのようなことは言っていません。私はただティルダード殿下が関わることはないと、申し上げただけです」
「なんでだよ」
「アフタル王女には、あなたがついていると分かったからです。我々は、主を守ることを最優先させます。それがたとえ契約したばかりであっても。違いますか?」
「違わねぇ。ところで、アイスブルー。お前は王子を放っておいていいのかよ。闘技場で爆発があったのは、王子を狙ってのことじゃねぇのか」
「不本意ですが、仰る通りです。あの日は、急に殿下が闘技場に行きたいと仰られて。お忍びで見学に行ったのですが」
アイスブルーは、眉根を寄せた。
「護衛は?」
「むろん、つけていました。殿下に気づかれぬよう、顔を知られていない者を周囲に配置しました」
なら、王子を押しつぶしそうな重量感のあった女も、護衛ということか。
「王女のことに気を取られて、殿下は爆発のことには気づいていらっしゃいません」
「そりゃ問題だな」
「たとえ聡明とはいえ、まだ幼くていらっしゃいますから。殿下は今は勉強をなさっておいでです。即位に向けて、課題が多いのです。ちなみに私はラウル。名前で呼びなさい」
「了解した。アイスブルー」
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「記憶力がいいと言ってほしいですね」
アイスブルーは、眉をひそめた。
シャールーズを偉丈夫とするなら、ラウルは美丈夫だ。
冷たそうな銀の髪に凍てついた蒼い瞳。
(こいつ、生まれる島を間違えてんだろ)
温暖な南海の島よりも、北の最果て、氷河が崩落し、氷山が海に浮かぶ島の方がしっくりくる。
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