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二章
4、宝石の精霊
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室内は狭く、蝋燭が灯っているだけだ。
窓から吹き込む風に、微かな炎が揺れている。
「あなたはどこから来たんですか?」
シャールーズの腕を枕にしながら、アフタルは尋ねた。
薄暗くてよかった。
こんなに間近にシャールーズの顔があって。もし明るければ、恥ずかしさで眠るどころではないだろう。
「遥かな南の海に、シンハっていう島がある。俺らは、そこで生まれることが多い」
「俺ら?」
「宝石の精霊さ。といってもどんな石にも精霊が宿るわけじゃねぇ。天の女主人に気に入られた宝石だけだ」
天の女主人というものが、どういう存在なのか想像がつかない。
今いる神殿でまつられているのは、女神フォルトゥーナだ。
それぞれに信じる神が違うのは分かるけれど。シャールーズの場合は、人よりももっと神に近い場所にいるのだろう。
「俺はシンハで取引され、この国にやって来た。何の手違いでか、キラド家の所有となり、あの我儘お坊ちゃんに与えられた。まぁあいつは俺のことなんか、見向きもしなかったけどな」
「……分かります」
「あの馬鹿坊やはド派手なのが好きだからな。俺を手放したことがばれたら、親父さんにこっぴどく叱られるぜ。それだけじゃねぇ。破談に関しては激怒だろうな」
「意外とフィラが、ご両親に気に入られるかもしれません」
「んなわけねぇだろ。キラド家は爵位がねぇから、貴族から見下されてんだ。そのせいで、商売でも苦労してる。アフタルとの結婚は、キラド家にとっては願ってもない話だったんだぞ」
たとえロヴナが両親に叱られたところで、婚約破棄を取り消すとは思えないけれど。
「ですが、シンハライトはさすがにロヴナに返した方がいいですよね」
「はぁー?」と、シャールーズは顔をしかめた。
「俺はごめんだね。あんな奴の元に戻されるなら、この世が果てるまで石の中で寝続けてやる。というか俺を手放せると思うなよ」
意外と笑っている時よりも、渋い表情を浮かべている時の方が、シャールーズは美しく見える。
明るいし、実際に陽気な性質だと思う。けれど、どこかシャールーズには陰がある気がする。
もちろん、まだ出会ったばかりで彼のことなどアフタルには何一つ分かっていないけれど。
(でも、シャールーズが精霊として生を享けてから、私には想像もできないほどの時が経っているはずです)
その間、他に主と決めた人はいないのだろうか。
もしいたのならば、どんな風に接していたのだろう。その人のことも、とても大事にしていたのだろう。きっと。
窓から吹き込む風に、微かな炎が揺れている。
「あなたはどこから来たんですか?」
シャールーズの腕を枕にしながら、アフタルは尋ねた。
薄暗くてよかった。
こんなに間近にシャールーズの顔があって。もし明るければ、恥ずかしさで眠るどころではないだろう。
「遥かな南の海に、シンハっていう島がある。俺らは、そこで生まれることが多い」
「俺ら?」
「宝石の精霊さ。といってもどんな石にも精霊が宿るわけじゃねぇ。天の女主人に気に入られた宝石だけだ」
天の女主人というものが、どういう存在なのか想像がつかない。
今いる神殿でまつられているのは、女神フォルトゥーナだ。
それぞれに信じる神が違うのは分かるけれど。シャールーズの場合は、人よりももっと神に近い場所にいるのだろう。
「俺はシンハで取引され、この国にやって来た。何の手違いでか、キラド家の所有となり、あの我儘お坊ちゃんに与えられた。まぁあいつは俺のことなんか、見向きもしなかったけどな」
「……分かります」
「あの馬鹿坊やはド派手なのが好きだからな。俺を手放したことがばれたら、親父さんにこっぴどく叱られるぜ。それだけじゃねぇ。破談に関しては激怒だろうな」
「意外とフィラが、ご両親に気に入られるかもしれません」
「んなわけねぇだろ。キラド家は爵位がねぇから、貴族から見下されてんだ。そのせいで、商売でも苦労してる。アフタルとの結婚は、キラド家にとっては願ってもない話だったんだぞ」
たとえロヴナが両親に叱られたところで、婚約破棄を取り消すとは思えないけれど。
「ですが、シンハライトはさすがにロヴナに返した方がいいですよね」
「はぁー?」と、シャールーズは顔をしかめた。
「俺はごめんだね。あんな奴の元に戻されるなら、この世が果てるまで石の中で寝続けてやる。というか俺を手放せると思うなよ」
意外と笑っている時よりも、渋い表情を浮かべている時の方が、シャールーズは美しく見える。
明るいし、実際に陽気な性質だと思う。けれど、どこかシャールーズには陰がある気がする。
もちろん、まだ出会ったばかりで彼のことなどアフタルには何一つ分かっていないけれど。
(でも、シャールーズが精霊として生を享けてから、私には想像もできないほどの時が経っているはずです)
その間、他に主と決めた人はいないのだろうか。
もしいたのならば、どんな風に接していたのだろう。その人のことも、とても大事にしていたのだろう。きっと。
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