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四章

44、夏の終わり【3】

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「ほら、どうして欲しいのか口に出してごらん」

 旦那さまは再び尋ねていらっしゃいます。
 でも、答えることなんてできません。わたくしが首を振ると、素肌をさらした肩にかかる三つ編みが揺れました。

 だって「物足りない」なんて。そんな、はしたないことを口にするなんて、無理ですもの。

 わたくしは唇を引き結んで、旦那さまを見つめました。
 分かっていらっしゃるはずなのに、すぐにとぼけて素知らぬふりをなさるんです。

 痛みと微かな快感を同時に胸に与えられて、じくじくと体が疼いています。
 ああ、早く旦那さまに抱かれたい。

 そう考えて、わたくしは自分の考えに驚きました。

 なんて恥ずかしいことを考えたの?
 なのに、正気に戻ったのも束の間。すぐに旦那さまに触れられて、そしてわたくしは高みに押し上げられるのです。

「ん……、ちがう、の。おやめになって」
「ちゃんと説明出来たら、やめてあげるよ」

 旦那さまは心底意地が悪いので、わたくしを揶揄うように、また胸を弄るんです。
 痛いの? それともこの痛みが心地よいの?

「……翠子を、ちゃんと抱いてください」

 とうとう口にした言葉はあまりにも恥ずかしくて。なのに手で顔を覆ったりすると、床に転がり落ちてしまうから。
 わたくしは羞恥に瞼を閉じました。
 
 ああ、この沈黙が耐え切れません。
 恐る恐る瞼を開くと。旦那さまがわたくしを凝視なさっていたんです。

 いやっ。旦那さまの黒い瞳に映るわたくしの表情は、とても淫らで。耐え切れずに再び目をきつく閉じました。

「よく言えたね」
「翠子、ちゃんと言えました?」
「ああ。偉いよ」

 わたくしは旦那さまの膝から下ろされて、ベッドに横たえられました。
 急くように旦那さまが、ご自分のシャツのボタンを外していらっしゃいます。

 ああ、旦那さまの肌に触れられるのだわ。素肌を重ねることができるのだわと思うと、わたくしは腕を伸ばして旦那さまのシャツのボタンを外して差し上げました。

 上着を脱いだ旦那さまは、とても愛おしそうにわたくしの頬に手を触れました。
 そして体中にキスの雨を降らせたの。

「ん……んっ、んん」
「足を開いてごらん」
「……はい」

 命じられるままに、わたくしは両膝を立てます。
 旦那さまの接吻は痛いほどで、鎖骨の辺りにも、お腹にも、あちこちをきつく吸われました。
 
 見えなくても分かります。
 きっと赤い花びらを散らしたようなくちづけの痕が、はっきりと残っていることが。

 胸の尖りに歯を立てられながら、わたくしは秘所に痺れるような愉悦を覚えたのです。

「あ……ぁ、だめ、ぇ」
「駄目じゃないだろ。ほら……」
「仰らないで」

 聞こえるんです。わたくしの体が悦ぶ水音が。淫らで恥ずかしい音が、聞こえてくるんですもの。
 旦那さまの指にもっと触れられたくて、腰が浮くのが分かるんです。

 いや、恥ずかしい。なんて淫猥なの。
 なのに、彼の指先が与える快感を体が追いかけるんです。

「……っあ、ああ……ん、ぁ……うぅ」
「ああ、綺麗だよ。翠子さん。ちゃんと言葉にしてごらん」
「気持ち……いい、の」

 自分の足のつまさきが、敷布をたぐり寄せます。
 旦那さまは、わたくしが何処が弱いかをよくご存じなので。責められて絶頂に達しそうになると、そこで手を止めるんです。

 ああ、もう少しで達しそうなのに。
 体内でくすぶる熱を解放してほしいのに。焦らしてばかりで、意地悪をなさるの。

「あ……ぁ、やめない、で」
「いかせてあげたいとは思うんだが。あまりにもあなたが愛らしくてね。もっと見ていたいんだ」
「そんな殺生なことを、仰らないで」

「うん、生殺しだね」と呟きながら、旦那さまは再びわたくしを愛撫なさいます。
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