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四章

43、夏の終わり【2】

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 紫と灰色、それに白という控えめな色の縞銘仙と違い、その下の襦袢は緋色で艶めかしい。
 翠子さんは羞恥に顔を逸らせるから。そのさまが余計に色香を滲ませる。

「翠子さんは色が白いから。赤が似合うな」
「派手なので、本当は苦手なんです」
「どうして? 綺麗だよ」

 本当に美しい。おとなしい着物と愛らしい帯の下に、俺だけが知る翠子さんがいる。
 俺が選んだ色と柄なのだが、やはり苦手と言う言葉は本当らしくて、あまりこの襦袢を彼女が着ることはない。

「どうせ俺しか見ないんだから」
「でも……」
「大丈夫。すぐに脱がせてあげるよ」
「え?」

「そういう意味で言ったのではないのです」と翠子さんは慌てるが、もう遅い。
 梨の爽やかな香りのする甘いくちづけ。

 俺にしてみれば少し甘すぎるのだが。翠子さんのうなじに手を掛けて、深い接吻を繰り返す。

「ん……んんっ」
「ちゃんと唇を開いて」

 俺の膝から逃れようとする彼女の腰に腕をまわし、身動きが取れないようにする。

 何度も何度もキスをして、ようやく翠子さんの体から力が抜けた。
 あなたの体は、俺の形すらも覚えているだろうに。
 どれほど抱いても、あなたは初めてのような反応をする。

 露わになった肩は薄く、そこかしこに俺はくちづけを落としていく。
 まだ午後だからだろうか。
 翠子さんはしきりに閉じてある扉の方を気にかける。

「大丈夫。誰も二階に上がっては来ないよ」
「そ、そういう意味では……」

 まったく。反論をする口は塞いでしまうよ。
 唇を深く重ねながら、翠子さんの緋色の襦袢を脱がせてしまう。するりという滑らかな音と共に、襦袢は床に落ちて行った。

「ん……ぁあ、んん……っ」

 どこもかしこも滑らかな肌だ。俺は彼女とすぐにでも繋がりたい気持ちを堪えた。
 だが、その分存分に愛させてもらうよ。

「翠子さん。どこに触れて欲しい?」

 尋ねても、ふるふると首を振る。
 そうなんだ。この人は俺が溺れさせるまでは、決して自ら淫らなことを口にはしない。
 まったく手のかかる子だよ。あなたは。

 膝にまたがらせた翠子さんは、俺の肩に両手をかけている。
 普通に隣に座るよりも目の高さが近くなって、しかも手で顔を隠すことが出来ないから。感じている彼女の表情がよく見えて、ちょうどいい。

「くすぐったい、です」
「うん、痛い方がいいかな」

 弄っていた彼女の胸は、大きくはないもののたいそう柔らかい。
 俺は胸の先端を指でつねった。
 
「……んっ」
「いいよ、声を上げても。翠子さんは痛くされるのが好きだからな」
「ちが……ぁあ……んんっ」

 さっきまでつねっていた胸の先端を、今度は爪で押しこむ。
 ぐりぐりと、きついくらいに。

「ちゃんと掴まっているんだぞ。もし床に落ちたりしたら、銀司が飛んでくるぞ」
「は……い」

 もう片方の胸は、反対に羽毛がかすめる程度の軽い刺激を指で与える。
 痛さと気持ち良さを同時に与えられた翠子さんは、俺の肩に爪を立てた。
 誘うように唇を半ば開いてもいる。

「や……ん、んん……ぁ、ん」

 俺の耳の側に彼女の顔があるから。息が上がっていく様子と、官能的な喘ぎ声が普段よりも明瞭に聞こえる。
 快楽は与えられるのに、決定的なものがない所為だろうか。翠子さんが俺の髪に指をつっこんだ。

「どうしたんだい?」
「……ない、です」
「うん。はっきり言わないと聞こえないなぁ」

 俺の淡々とした応えに、翠子さんは身を悶えさせながら、恨めしそうに睨みつけてきた。
 
「旦那さまは、意地悪です」
「翠子さんは俺に意地悪されるのが、好きだろう?」


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