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二章

34、ホテルの夜【2】※文子視点

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 呼ばれるままに、わたしは一歩進んで琥太郎さんの胸に飛び込んだ。
 ここはホテルで旅館じゃないから、お風呂上がりでもわたしは浴衣を着ていない。琥太郎さんも洋装で、シャツの生地越しに引き締まった体が分かる。

「ありがとう。文子さん」
「え?」
「私の我儘に付き合ってくれて。一方的に見合いを決めて、こんなところまで連れてきて、しかも……」

 わたしは小さく首を振って、琥太郎さんにしがみついた。色っぽい抱きつき方も知らないし、きっと彼からしたら子どもっぽく見えるかもしれないのだけど。

 それでも彼はわたしの湿った髪にくちづけてくれた。
 長い指がわたしの頬に触れる。そして唇が重なった。

 好き。わたし、こんなにもこの人のことが好きになっている。

 唇が離れると、琥太郎さんはわたしの背と膝裏に手をさし入れて、私を抱き上げた。
 そのままベッドに運ばれて降ろされる。

 わたしの顔の左右に琥太郎さんが手をつくから、マットレスが沈み込んだ。間近で見る彼の瞳は色が淡く、とても切なそうに思えた。

 さっきの軽い触れるだけのくちづけとは違い、今与えられているくちづけはとても深く。まるで貪られるよう。
 
「ん……んんっ」

 気づかぬ内に琥太郎さんの舌が、わたしの口に入っていて。まるで口の中を舌で愛撫されているようで……それだけでわたしは感じてしまって。
 半ば開いた唇から、唾液が零れていくのをはしたないと思いつつも、どうすることもできずにいた。

「ん……っ、んぁ」
「声は殺さんでもええで。可愛い文子さんの声を聞かせてほしいから」
「そんなこと……ぁ、言わない、で」

 くちづけに気を取られていると、いつの間にか琥太郎さんの手はわたしの胸に触れていた。
 体を洗う時くらいしか、そんなところ触れないし。
 でも、なぜ? わたし、いつの間に服を脱いだの?

 まだ服を着たままの琥太郎さんの膝に、背中を向けて座らされる。
 ベッドには、確かにわたしの服が落ちていて。わたしだけが何もまとっていなくて。

「あ、やぁ。だめ、そんなところ」
「うん。けど、いくら可愛い文子さんの頼みでも、聞いてあげられへんなぁ」

 背後から顎を掴まれて、無理のある角度でキスされる。なのに下腹部に伸ばされた琥太郎さんの手が、指が、わたしの恥ずかしい部分に触れているから。
 思わず足を閉じてしまったの。

「あかんやろ。そんな風に閉じたら、触れられへん」
「だめ、そこ」
「うん、ここがええんやな」

 違うの、そんな風には言ってない。なのに、わたしが否定すればするほど、琥太郎さんは執拗に触れてきて。
 
「や、あぁ……ん、やめてぇ」

 自分の口から出たとは思えないほどの甘い声。なのに琥太郎さんはわたしの耳に口を寄せて「ええ声やなぁ。聞き惚れるなぁ」なんて言うものだから。

 琥太郎さんが与える甘美な刺激と、甘やかすような囁き。
 わたしは自然に足を開いて、彼の指を受け入れていた。

「力入れたらあかんで。息も止めたら、あかん」
「……ふ、ふぁ……あっ。あ……ん」
「うん、朝まで聞いていたいなぁ」

 狭いその中に、琥太郎さんの指が入って来て。それは苦しいのに、片方の手で琥太郎さんはわたしの敏感な場所を弄るから。
 彼の胸にもたれながら、わたしは喘ぎ続けるしかなかった。
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