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二章

25、夕映え【1】※文子視点

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 わたしは、琥太郎さんと一緒に夕食を頂いた。
 ホテルだから、洋食だとばかり思っていたんだけど。琥太郎さんが予約を入れていたのは、和食の料亭だった。

 今日は移動が長かったから、こってりとしたソースのかかった洋食じゃなくて、有り難かったかも。
 個室の床の間には、松虫草が活けてあって。厳かな雰囲気の和室なのに、その藤色の花が高原らしくて愛らしさを感じるの。

「なんだか、これがお見合いみたいですね」
「ほんまやな」

 日本酒を召し上がりながら、琥太郎さんが微笑む。わたし、随分とこの人に慣れてきたみたい。

「なんかお見合いを分割しとうみたいやな。仲人とかおらんけど。うーん、欧之丞が結婚しとったら、頼むところやな」
「……翠子さんが仲人というのは、ちょっと……親友ですから」

 というか、どうしてわたしったら、すんなりと結婚前提で話しているの? 今日一日で距離が縮みすぎて、おかしくなってるわ。

 障子が開けてある窓から眺めると、夕映えは朱鷺色で目に染みるほどに美しい。

「どうしたん?」
「いえ、空がきれいだなと思って」

「どれ」と身を乗り出した琥太郎さんは、西の空を眺めて目を細めます。淡い色のその瞳に夕暮れの色が映って、思わず見とれてしまったの。

「ほんまやな。ニッポニアニッポンみたいな羽の色や」
「ニッポニアニッポン?」

 ニッポノホンは、確か蓄音機よね。新商品が売り出されたのかしら。

「えーと、琥太郎さんにはそう見えますか? 金属のホーンの部分は、金色ですけど」

 わたしの言葉に、琥太郎さんはしばし考え込んでいるようだった。しばらくして「ああ」と、手を叩いた。

「文子さん。蓄音機やのうて、朱鷺のことやで。鳥の。『日本鳥類目録』で、朱鷺の学名がニッポニアニッポンって採用されとんや」
「朱鷺……って」

 驚いてしまった。だって同じ夕映えを見て、同じことを考えていたんだもの。
 この辺りはコウノトリは見かけるけれど、朱鷺は飛んでいない。
 なのに、似たような薄紅なら薔薇色でも桃色でも桜色でも、杏色でもたくさんありそうなのに。琥太郎さんなら、色にも詳しそうなのに。

 同じ気持ちを分け合えるなんて。それが、こんなにも嬉しいなんて。

「あー、ごめん。揶揄うつもりやなかったんやけど。せやな、似とうよな。ニッポノホンとニッポニアニッポン」
「……え、ええ」
「泣かんといて。私は、すぐに人を揶揄う悪い癖があるんや。特に欧之丞を茶化すのは面白くて、あ、翠子さんも反応が素直で面白いんやけど……って、こういう所があかんのか」

 琥太郎さんは困ったように頭を掻きながら、必死に言い訳をしたの。ええ、全然言い訳になってないですけどね。

 こんなにも大人で飄々とした人なのに。一介の女学生でしかないわたしの反応に、おろおろするなんて。
 もう……ずるいわ。
 琥太郎さんは卑怯よ。好きにならずにいられないじゃない。
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