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五章

3、おやつの時間

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 おやつにぼくは外側がしゃりっとした琥珀糖を食べた。欧之丞は甘いのが苦手やけど、なんか薄荷のとか変わった味のは食べられるらしい。

「前から思ってたんやけど。薄荷っておいしいん? すーっとするから、味がよう分からへんねんけど」
「すーっとするのがおいしいよ」
「けど今日のは、なんか紫っぽいやん。それ、なに?」

 座卓についてちょこんと座る欧之丞が、対面のぼくに半透明の紫色の棒を差しだした。

「なんかね、しばづけみたいな味がする。それと花がのってるけど、これなに?」
「……穂紫蘇や」
「ほじそ?」

「そう、紫蘇の花。お造りとかについてくるやろ? 小さい花が咲いてるのん。あれが穂紫蘇で、紫蘇の花やねん」

 まぁ、お造りのは青紫蘇でこれは、赤い紫蘇やけど。

「その琥珀糖は赤紫蘇が入ってるんや。せやから柴漬けっぽい味がするんとちゃう?」
「へーぇ。変わってるね」

 変わってると言いながらも、欧之丞は赤紫蘇の琥珀糖が気に入ったみたいや。
 しかも「かわいい花だなぁ」なんて、らしくないことを呟いては小花を眺めている。

「珍しいやん。欧之丞はかっこええのが好きなんやろ? カブトムシやクワガタとか、ギンヤンマとか」
「変?」
「変っていうか。珍しいなぁって思て」

 欧之丞は首を傾げながら、冷たいお茶を飲んだ。
 なんかちょっと寂しい気がしたんは、欧之丞が普段とちゃうように思えたからやろか。

 それとも颱風が近づいとうから、なんでもないとこでも不安な気持ちになるんやろか。

◇◇◇

「琥太郎さん、欧之丞さん。お風呂に入りましょう」

 おやつを食べ終えた頃、母さんがぼくらの部屋に入ってきた。
 なんでやろ。まだ夕方にもなってへんのに。

 ぼくは疑問は口にはせぇへんかったけど、母さんは「颱風が来たら、お風呂に入れなくなるわ。だから今から母さんと一緒に入りましょうね」って言うた。
 
「颱風になったらお風呂、入られへんの?」
「だって怖いじゃない。お風呂場に行く渡り廊下で暴風雨にさらされたりしたら」
「そしたら俺が絲おばさんを守ってあげるー」

 欧之丞がぴょんと跳びはねて、母さんの腕にしがみついた。

「だいじょうぶ。これあげるから、こわくないよ」
「え? なぁに?」

 きょとんと目を開いた母さんの口に、欧之丞はさっきの紫蘇味の琥珀糖をつっこんだ。
 言葉は悪いけど、ほんまにつっこんだんや。母さんは上品に手で口許を隠して琥珀糖を食べた。

「……変わったお味ね」
「おいしいよ」
「赤紫蘇のふりかけみたいね」
「ね、おいしいでしょ」
「ええ、おいしいわ」

 にっこりと微笑みながら母さんの腕をひっぱる欧之丞は、珍しく気に入りの甘いものが見つかったみたいで、えらい嬉しそうやった。
 だって「おいしい」以外の答えを求めてへんのやもん。
 
「こたにいの分もあるよ」
「え? ぼくはちょっと、ええかな」
「もーお、えんりょして」

 いや、遠慮ちゃうし。しょっぱいか甘いか分からんようなのは、得意とちゃうねん。
 西瓜かって、塩かけるの苦手やし。

 塩をかけたら西瓜は甘くなるっていうけど。けど、塩の部分はどうしたってしょっぱいやんか。
 
 いろいろ考えとったから油断した。ぼくの口にもうす紫色の琥珀糖が突っ込まれた。

「な、おいしいだろ?」
「むぐ……、まぁ、そこそこ」

「またぁ、えんりょして。すなおになったらいいのに」と、欧之丞はにかっと笑う。
 甘くてちょっと硬いお砂糖の膜が崩れたのといっしょに、しば漬けみたいなしょっぱい柔らかな寒天が口の中に広がっていく。

 ジブン、おいしいもんがあったら人にすすめるのが好きみたいやな。
 まぁ確かに心配していたほど妙な味やなかった。
 次の機会があったら、また食べてもええかな。
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