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四章
5、元締めさん
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欧之丞は、海ほおずきの鳴らし方をおじさんに教えてもらうけど、苦戦しとう。
「吹くんやのうて、口の中で押して鳴らすんや」と言われても、なかなかうまく出来へんみたいや。
すぐに諦めるかなと思ったけど。欧之丞は負けず嫌いやから、立ち止まって練習を繰り返す。
その内、ぷぅと気の抜けた音がした。
「琥太兄。鳴らせたっ。音が出たっ」
「うん。よかったなぁ」
欧之丞が喜ぶんが、ぼくにはほんまに嬉しい。
音は相変わらず「ぷぅ」やけど。本人も満足しとうし、一緒に出てきて良かったなぁ。
ぼくと手をつないで歩きながら、欧之丞は何度もぼくの顔を見上げる。
なんか犬の散歩みたいや。
おるやんな、飼い主の顔を嬉しそうに見上げながら歩く犬。
ふふ、欧之丞は可愛い子犬やな。
「あ、おでん」
「さすがにお腹いっぱいやから、入らへんなぁ」
「見て見て。金魚」
「うん、飼われへんで」
木の大きい桶に小さい金魚が泳いどって、それをお碗にすくうんや。針金で作った枠に和紙が貼ってある。
欧之丞、絶対こういうの好きにきまっとうやん。
「きんぎょ……」
「うん、金魚やなぁ」
うるうるとした瞳で見上げられても、金魚すくいはさせたられへん。
こういうところの金魚は弱いし、池には鯉がおるし。
それにうちはしょっちゅう猫が入ってくるんやもん。
「あれ? 三條の坊ちゃんじゃないですか」
突然、誰かに声を掛けられてぼくはぎょっとした。
見上げると、着流しを着て首には手拭いを掛けた大男がぼくらの前におった。
覚えとう。確かこういう夜店の元締めをやっとう人や。
うちにも何度か来たことがある。
「珍しいですね。そちらは確か高瀬の坊ちゃんですよね。子どもだけで来たんですか?」
「う、うん。近いから」
ぼくは視線を外さんように頑張った。もし目が泳いでしもたら、怪しまれるもん。
欧之丞の手をきゅっと握りしめとったら、突然欧之丞が一歩前に出た。
「楽しいよ、縁日。俺、海ほおずき買ってもらった」
明るい表情で告げられて、元締めは目を丸くした。
ちょっと待ちぃや。この人、けっこう怖いで。
ほんまはうちの組がこの祭りの元締めをするはずなんやろうけど。多分、父さんはこの人に任せとんや。
欧之丞は、父さんや波多野の優しい部分しか見てないから、分からへんやろけど。こういう人らってほんまは恐ろしいんやで。
ぼくは慌てて欧之丞の口を塞いだ。
指の間から、間抜けた「ぷひー」という音が洩れてくる。
「こら、遊ぶなって」
「えー、でも」
抵抗する欧之丞の首を抱え込んで、ぼくは元締めに頭を下げた。
ど、どうしよ。怒らせたら。
いくらぼくが父さんの息子やいうても、許してもらわれへんのとちゃうやろか。
欧之丞の罪は、ぼくの罪や。だって欧之丞を連れだしたんは、ぼくなんやもん。
「済みません。見苦しいところを見せてしまいました」
「ええけど。ええんやけど……三條の琥太郎くんやったかな。君、変わったな」
「え?」
元締めさんはなんか肩を震わせて、笑いを噛み殺しとった。
「いやー、三條の組長さんのとこに寄らせてもらった時は、えらいお行儀のええ利発な子やと思とったんやけど。なんていうか、大人みたいな子ども?」
褒められてんのか、けなされてんのか分からんような言葉やった。
「けど、こうして見たら年相応の子どもやな。弟分をかばって偉いやんか」
「……どうも、ありがとうございます」
いま一つ腑に落ちんけど。ぼくは礼を言うた。ぼくが拗ねたりしたら、きっと父さんの顔を潰してしまうやろから。
「吹くんやのうて、口の中で押して鳴らすんや」と言われても、なかなかうまく出来へんみたいや。
すぐに諦めるかなと思ったけど。欧之丞は負けず嫌いやから、立ち止まって練習を繰り返す。
その内、ぷぅと気の抜けた音がした。
「琥太兄。鳴らせたっ。音が出たっ」
「うん。よかったなぁ」
欧之丞が喜ぶんが、ぼくにはほんまに嬉しい。
音は相変わらず「ぷぅ」やけど。本人も満足しとうし、一緒に出てきて良かったなぁ。
ぼくと手をつないで歩きながら、欧之丞は何度もぼくの顔を見上げる。
なんか犬の散歩みたいや。
おるやんな、飼い主の顔を嬉しそうに見上げながら歩く犬。
ふふ、欧之丞は可愛い子犬やな。
「あ、おでん」
「さすがにお腹いっぱいやから、入らへんなぁ」
「見て見て。金魚」
「うん、飼われへんで」
木の大きい桶に小さい金魚が泳いどって、それをお碗にすくうんや。針金で作った枠に和紙が貼ってある。
欧之丞、絶対こういうの好きにきまっとうやん。
「きんぎょ……」
「うん、金魚やなぁ」
うるうるとした瞳で見上げられても、金魚すくいはさせたられへん。
こういうところの金魚は弱いし、池には鯉がおるし。
それにうちはしょっちゅう猫が入ってくるんやもん。
「あれ? 三條の坊ちゃんじゃないですか」
突然、誰かに声を掛けられてぼくはぎょっとした。
見上げると、着流しを着て首には手拭いを掛けた大男がぼくらの前におった。
覚えとう。確かこういう夜店の元締めをやっとう人や。
うちにも何度か来たことがある。
「珍しいですね。そちらは確か高瀬の坊ちゃんですよね。子どもだけで来たんですか?」
「う、うん。近いから」
ぼくは視線を外さんように頑張った。もし目が泳いでしもたら、怪しまれるもん。
欧之丞の手をきゅっと握りしめとったら、突然欧之丞が一歩前に出た。
「楽しいよ、縁日。俺、海ほおずき買ってもらった」
明るい表情で告げられて、元締めは目を丸くした。
ちょっと待ちぃや。この人、けっこう怖いで。
ほんまはうちの組がこの祭りの元締めをするはずなんやろうけど。多分、父さんはこの人に任せとんや。
欧之丞は、父さんや波多野の優しい部分しか見てないから、分からへんやろけど。こういう人らってほんまは恐ろしいんやで。
ぼくは慌てて欧之丞の口を塞いだ。
指の間から、間抜けた「ぷひー」という音が洩れてくる。
「こら、遊ぶなって」
「えー、でも」
抵抗する欧之丞の首を抱え込んで、ぼくは元締めに頭を下げた。
ど、どうしよ。怒らせたら。
いくらぼくが父さんの息子やいうても、許してもらわれへんのとちゃうやろか。
欧之丞の罪は、ぼくの罪や。だって欧之丞を連れだしたんは、ぼくなんやもん。
「済みません。見苦しいところを見せてしまいました」
「ええけど。ええんやけど……三條の琥太郎くんやったかな。君、変わったな」
「え?」
元締めさんはなんか肩を震わせて、笑いを噛み殺しとった。
「いやー、三條の組長さんのとこに寄らせてもらった時は、えらいお行儀のええ利発な子やと思とったんやけど。なんていうか、大人みたいな子ども?」
褒められてんのか、けなされてんのか分からんような言葉やった。
「けど、こうして見たら年相応の子どもやな。弟分をかばって偉いやんか」
「……どうも、ありがとうございます」
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