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三章
14、困ったなぁ【1】※蒼一郎視点
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うーん。俺は琥太郎の問いにうまく応えることが出来へんかった。
絲さんは別に髪を洗うんが下手ということはない。どっちかというと時間がかかるから、湯冷めしてしまうというんが正解や。
とくに冬場はあかん。洗い場なんか寒いのに、絲さんは呑気にそして丁寧に髪を洗っとる。
しかも琥太郎が生まれてからは、当然息子を優先するもんやから、体は冷えっぱなしやし、風邪もよう引くようになった。
せやから琥太郎の風呂は、俺に任せときって言うたのに。
「でも、蒼一郎さんと一緒では、怖がってむずかりますから」なんて、絲さんとも思われへん冷たい言葉を言うて。
分かっとんねん。背中に彫ってある夜叉を琥太郎が怖がってるのは。けどな、別に父子なんやから、赤ん坊の頃から俺と一緒に風呂に入ってもええやんか。
琥太郎、父さんのこと嫌いなん? もっと欧之丞みたいに「わー、父さん大好きー」って抱きついてくれてもええんやで?
もし照れくさいんやったら、父さんが寝とう時に抱きついてもええで。
父さんは、ちゃんと寝たふりをしといたげるから。
「……父さん、なんでぼくのほっぺたを、むにむにするん?」
「え? うわっ、ごめん」
気づいたら、俺は琥太郎のぷよっとした頬をこねくりまわしとった。
あー、よかった。つねらんで。
愚痴代わりに、手がむにむにと動いてしもたわ。
「なぁ、なんで大人やのに母さんの髪を洗たげるん?」
「うーん。君はまだそこにおったか」
「答えてくれるまで粘るもん」
その探求心はええけどな。そろそろ目ぇに泡が入るんとちゃうやろか。
一応口許の泡は、自分の手で拭っとるようやけど。目に入ったら痛いで?
「はいはい、一回流そな」
桶に汲んだ湯を、俺は琥太郎の頭からざばーっと掛けた。
「絲さんとはなぁ、彼女がまだ小さい頃に出会ってん」
「ぼくぐらい?」
「いや、それぐらいに出会とったら、きっと自分の娘みたいに可愛がったやろな」
せやねん。俺は自覚がある。絲さんとは年が離れとうから、もしもっと小さい頃から出会とったら、盛大に甘やかしてたはずや。
絲さんの爺さんが、俺と彼女の婚約を認めてくれたんは、彼女がもう女學生になった頃やからなぁ。
「まぁ要するに絲さんのことが好きすぎて、放っておかれへんねん。だからすぐに構いたなるし。なんでもしてやりたなるんや」
「うん」
「甘やかしたらあかんと思うんやけどなぁ。つい……けど、絲さんが俺が甘やかしたら断ることも多いから、それで問題ないんかもしれへんなぁ」
「……父さん、子育て下手なん?」
ほんまに純粋に琥太郎が問いかけてきた。
おいおい、子どもに子育てが下手って言われるとか。どないやねん。
けど、俺の知ってる限り父親が子どもの世話をしとう奴はおらへん。
普通は家族のことは放ったらかして、それやのにえらそうにしとうもんな。
仕事とか、他所に女を囲うとか。
他人は勝手にしたらええけど。俺はそういうのが苦手やし。それに父親と子どもの仲が悪いのを、よう見とうからなぁ。
なんというか、子どもが親に心を開かへんらしい。あれは、つらいよなぁ。
「子育てが上手とか下手とかやのうて、そもそもよその父親は子育てなんかせぇへんで」
「え? うそやん」
真顔で琥太郎が返してきた。
琥太郎くん、君は幸せに育っとうなぁ。
絲さんは別に髪を洗うんが下手ということはない。どっちかというと時間がかかるから、湯冷めしてしまうというんが正解や。
とくに冬場はあかん。洗い場なんか寒いのに、絲さんは呑気にそして丁寧に髪を洗っとる。
しかも琥太郎が生まれてからは、当然息子を優先するもんやから、体は冷えっぱなしやし、風邪もよう引くようになった。
せやから琥太郎の風呂は、俺に任せときって言うたのに。
「でも、蒼一郎さんと一緒では、怖がってむずかりますから」なんて、絲さんとも思われへん冷たい言葉を言うて。
分かっとんねん。背中に彫ってある夜叉を琥太郎が怖がってるのは。けどな、別に父子なんやから、赤ん坊の頃から俺と一緒に風呂に入ってもええやんか。
琥太郎、父さんのこと嫌いなん? もっと欧之丞みたいに「わー、父さん大好きー」って抱きついてくれてもええんやで?
もし照れくさいんやったら、父さんが寝とう時に抱きついてもええで。
父さんは、ちゃんと寝たふりをしといたげるから。
「……父さん、なんでぼくのほっぺたを、むにむにするん?」
「え? うわっ、ごめん」
気づいたら、俺は琥太郎のぷよっとした頬をこねくりまわしとった。
あー、よかった。つねらんで。
愚痴代わりに、手がむにむにと動いてしもたわ。
「なぁ、なんで大人やのに母さんの髪を洗たげるん?」
「うーん。君はまだそこにおったか」
「答えてくれるまで粘るもん」
その探求心はええけどな。そろそろ目ぇに泡が入るんとちゃうやろか。
一応口許の泡は、自分の手で拭っとるようやけど。目に入ったら痛いで?
「はいはい、一回流そな」
桶に汲んだ湯を、俺は琥太郎の頭からざばーっと掛けた。
「絲さんとはなぁ、彼女がまだ小さい頃に出会ってん」
「ぼくぐらい?」
「いや、それぐらいに出会とったら、きっと自分の娘みたいに可愛がったやろな」
せやねん。俺は自覚がある。絲さんとは年が離れとうから、もしもっと小さい頃から出会とったら、盛大に甘やかしてたはずや。
絲さんの爺さんが、俺と彼女の婚約を認めてくれたんは、彼女がもう女學生になった頃やからなぁ。
「まぁ要するに絲さんのことが好きすぎて、放っておかれへんねん。だからすぐに構いたなるし。なんでもしてやりたなるんや」
「うん」
「甘やかしたらあかんと思うんやけどなぁ。つい……けど、絲さんが俺が甘やかしたら断ることも多いから、それで問題ないんかもしれへんなぁ」
「……父さん、子育て下手なん?」
ほんまに純粋に琥太郎が問いかけてきた。
おいおい、子どもに子育てが下手って言われるとか。どないやねん。
けど、俺の知ってる限り父親が子どもの世話をしとう奴はおらへん。
普通は家族のことは放ったらかして、それやのにえらそうにしとうもんな。
仕事とか、他所に女を囲うとか。
他人は勝手にしたらええけど。俺はそういうのが苦手やし。それに父親と子どもの仲が悪いのを、よう見とうからなぁ。
なんというか、子どもが親に心を開かへんらしい。あれは、つらいよなぁ。
「子育てが上手とか下手とかやのうて、そもそもよその父親は子育てなんかせぇへんで」
「え? うそやん」
真顔で琥太郎が返してきた。
琥太郎くん、君は幸せに育っとうなぁ。
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