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三章
6、お菓子ではありません
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「まぁまぁ。子どもの頃の記憶、それも一度きりのことなんてねぇ、覚えていられませんよ。いろいろと混乱してらしたでしょうし」
座敷の机に、お清さんがお盆を置きました。急須とガラスの湯呑み、それにお菓子が載っています。
「でも、記憶になくても気持ちは覚えているのなら、いいじゃありませんか」
それはわたくしに言った言葉なのでしょうか。それとも旦那さまにでしょうか。
お清さんが用意してくれたのは、葡萄を寒天で包んだ水菓子でした。
透明な寒天の中に、若草色の葡萄が一粒見えて、とても涼しげです。しかも皿には蜜が敷いてあります。
「あの、ブーツを脱いでもいいですか? さすがにこのままでは座布団に座れませんし、お行儀も悪いです」
「うーん。せっかく俺が履かせたんだ。少し縁側を歩いてみなさい」
「え? お菓子があるのに、ですか」
「案ずるな。菓子は逃げない」
そんなぁ。
わたくしは、早く葡萄のお菓子を食べたくて、急いで縁側を歩きました。
もちろん、そんな簡単に終わらせてくれるはずがありません。
「もっとゆっくり」と指示を出しはじめます。
「これって、必要ですか?」
「必要だろ。学校の行き帰りに翠子さんをじっと見つめて歩くなど、不可能だろう?」
確かに、登校中に足下を見られながら歩くのは嫌ですし。そんな高瀬先生も見たくありません。
ようやく旦那さまが、終わっていいという許可をくださいました。
ああ、これで念願の葡萄を口にできる。
そう思ったとき、旦那さまに手招きされました。
「じゃあ、靴を脱がそう。おいで」
さすがに自分で脱げますけど。そう思いましたが、きっと反論しても無駄でしょう。
わたくしは縁側から座敷の畳へと上がりました。
部屋に置かれた、ゆったりとした肘掛け椅子に腰を下ろすように言われ、ブーツを履いたままで足を揃えて座ります。
さっき結んだばかりの紐を、旦那さまは解いていきます。両足のブーツから足が抜かれて、ほっとしました。
けれど、旦那さまはわたくしの足袋も脱がせました。
「あの。足袋は脱がなくても」
「そうだな。履いていても問題はない」
そう仰いながらも、もう片方の足袋も脱がせられます。いえ、それだけではなく、袴の帯までも外されました。
「葡萄を食べてもいいと、仰いました……」
「うん、食べていいよ。俺は翠子さんを頂くから」
「わ、わたくしはお菓子ではありません」
「知ってるさ。でも、言っただろう? 俺は甘い菓子は苦手だが、翠子さんの甘さは好きだと」
無茶を仰らないでください。
けれど、先生は手を伸ばして机に置かれたお皿を取りました。
涼感あふれる葡萄を手でつまみ、それをわたくしの口に放り込みました。
「あ……ふぅ」
ひと口で食べるのは大きいです。寒天からしみ出る甘い汁と蜜が、わたくしの口の端からこぼれます。
美味しいのですが、着物まで脱がされた状態でちゃんと味わえるはずがありません。
「本当に甘いな」
わたくしのあごまで伝った蜜を、先生の舌が舐めとりました。
「ほら、ちゃんと噛まないと。葡萄を飲み込んだら、のどに詰まるよ」
「は……い」
命じられるままに口の中のものを噛むと、寒天は脆く崩れ、葡萄の皮の軽い抵抗を感じた後、一気に果肉と果汁が口腔に広がりました。
けれど、着物を脱がされながらなので、味わうことなんてできません。
「そんなに口から滴らせて。淫靡だね」
「違います。これは果汁で」
「うん。果汁とシロップだろうね。でも、翠子さんは何と勘違いしているんだい?」
すでにわたくしは肩や胸を露わにされた状態で、袴や腰巻は床に落とされ、着物や襦袢はかろうじて肘にかかっているものの、大半が椅子の背もたれの方へ押しやられています。
座敷の机に、お清さんがお盆を置きました。急須とガラスの湯呑み、それにお菓子が載っています。
「でも、記憶になくても気持ちは覚えているのなら、いいじゃありませんか」
それはわたくしに言った言葉なのでしょうか。それとも旦那さまにでしょうか。
お清さんが用意してくれたのは、葡萄を寒天で包んだ水菓子でした。
透明な寒天の中に、若草色の葡萄が一粒見えて、とても涼しげです。しかも皿には蜜が敷いてあります。
「あの、ブーツを脱いでもいいですか? さすがにこのままでは座布団に座れませんし、お行儀も悪いです」
「うーん。せっかく俺が履かせたんだ。少し縁側を歩いてみなさい」
「え? お菓子があるのに、ですか」
「案ずるな。菓子は逃げない」
そんなぁ。
わたくしは、早く葡萄のお菓子を食べたくて、急いで縁側を歩きました。
もちろん、そんな簡単に終わらせてくれるはずがありません。
「もっとゆっくり」と指示を出しはじめます。
「これって、必要ですか?」
「必要だろ。学校の行き帰りに翠子さんをじっと見つめて歩くなど、不可能だろう?」
確かに、登校中に足下を見られながら歩くのは嫌ですし。そんな高瀬先生も見たくありません。
ようやく旦那さまが、終わっていいという許可をくださいました。
ああ、これで念願の葡萄を口にできる。
そう思ったとき、旦那さまに手招きされました。
「じゃあ、靴を脱がそう。おいで」
さすがに自分で脱げますけど。そう思いましたが、きっと反論しても無駄でしょう。
わたくしは縁側から座敷の畳へと上がりました。
部屋に置かれた、ゆったりとした肘掛け椅子に腰を下ろすように言われ、ブーツを履いたままで足を揃えて座ります。
さっき結んだばかりの紐を、旦那さまは解いていきます。両足のブーツから足が抜かれて、ほっとしました。
けれど、旦那さまはわたくしの足袋も脱がせました。
「あの。足袋は脱がなくても」
「そうだな。履いていても問題はない」
そう仰いながらも、もう片方の足袋も脱がせられます。いえ、それだけではなく、袴の帯までも外されました。
「葡萄を食べてもいいと、仰いました……」
「うん、食べていいよ。俺は翠子さんを頂くから」
「わ、わたくしはお菓子ではありません」
「知ってるさ。でも、言っただろう? 俺は甘い菓子は苦手だが、翠子さんの甘さは好きだと」
無茶を仰らないでください。
けれど、先生は手を伸ばして机に置かれたお皿を取りました。
涼感あふれる葡萄を手でつまみ、それをわたくしの口に放り込みました。
「あ……ふぅ」
ひと口で食べるのは大きいです。寒天からしみ出る甘い汁と蜜が、わたくしの口の端からこぼれます。
美味しいのですが、着物まで脱がされた状態でちゃんと味わえるはずがありません。
「本当に甘いな」
わたくしのあごまで伝った蜜を、先生の舌が舐めとりました。
「ほら、ちゃんと噛まないと。葡萄を飲み込んだら、のどに詰まるよ」
「は……い」
命じられるままに口の中のものを噛むと、寒天は脆く崩れ、葡萄の皮の軽い抵抗を感じた後、一気に果肉と果汁が口腔に広がりました。
けれど、着物を脱がされながらなので、味わうことなんてできません。
「そんなに口から滴らせて。淫靡だね」
「違います。これは果汁で」
「うん。果汁とシロップだろうね。でも、翠子さんは何と勘違いしているんだい?」
すでにわたくしは肩や胸を露わにされた状態で、袴や腰巻は床に落とされ、着物や襦袢はかろうじて肘にかかっているものの、大半が椅子の背もたれの方へ押しやられています。
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