上 下
114 / 257
三章

47、恥ずかしすぎて【2】

しおりを挟む
 困ったことに絲さんは、両手で顔を覆ってしまった。
 素肌をさらして、俺の腕の中で膝を曲げて頼りなく座っている。

 うーん。ちょっと無茶言い過ぎたかなぁ。俺は絲さんの体も心も全部知りたいが、あんまり暴くのもあかんやろしなぁ。加減が難しい。

 押しすぎても嫌われるしなぁ。
 さっき「大好き」と言ってもらえたのに、あれをなかったことにされるのもつらい。

 ほんまに困ったなぁと思いながら、絲さんの華奢な肩を抱き、滑らかな背中を優しく撫でる。
 乾燥した俺のてのひらと違い、絲さんの肌はしっとりとしている。
 きめが細かいんやろな。

 肉のほとんどついてない肩にくちづけてやると、絲さんが俺の頭にしがみついてきた。

「あ、あの……少しだけ……触れるだけ、なら」
「え?」

 俺が顔を上げると、ちょうど間近に絲さんの顔があった。頬を赤く染めて、恥じらうように伏し目がちだ。
 長い睫毛が小刻みに震えている。

「お風呂に入ってからなら……」
「よっしゃー」

 俺は絲さんを抱き上げて、行儀悪く廊下に面した襖を足で開ける。
 すぱーん、と派手な音を襖が立てる。

「波多野。風呂、沸いとうか?」
「はい。沸かさせてます」

 どっからか波多野の声が聞こえる。準備のええ奴や。けど「頭(かしら)。あんまり無茶せんといてくださいよ」とも聞こえた。

「ま、待ってください、蒼一郎さん。今すぐとは言ってないです」
「善は急げやろ。絲さんの気が変わったらあかんからな」

 俺の腕の中で絲さんがもがくけど、さすがに全裸なのが恥ずかしいのか、周囲をえらい気にしとった。

「そうやな。あんまり暴れたら、若い奴らが来るで。波多野なんか『絲お嬢さん、大丈夫ですか?』って飛んでくるんとちゃうかな」

 彼女の耳元で囁いてやったら、ようやく暴れるのをやめた。

◇◇◇

 どうしてこんなことに。

 わたしはお風呂に強制連行されて、先にお湯に浸かっています。

 ああ、なぜ承諾してしまったのでしょう。蒼一郎さんが、寂しげな目をするのがいけないんです。
 だってヤクザの組長ですよ。人を翻弄して、意のままに操るなんて得意じゃないですか。

 いやっ。恥ずかしいの。
 わたしは手で顔を覆うと、お湯が一緒に顔にかかりました。
 浴室の戸の向こうでは、蒼一郎さんが着物を脱ぐ気配がします。

 体を重ねるだけでも、きっと女學院のシスターからは退学や謹慎を命じられるでしょうに。
 ああ、わたし……どうすればいいの?

 お湯に顔をつけると、ぶくぶくと吐いた息が泡となって水面で消えていきます。

「おい、絲さん。大丈夫か?」

 戸が開く音と共に、蒼一郎さんの声が広い浴室に反響しました。
 わたしは膝を抱えた状態で、お湯から顔を上げました。

「恥ずかしいんです。い、痛くしないで」
「お、おう。痛いようにはせぇへん」

 わたしの髪や頬やあごからしたたる雫を、蒼一郎さんの大きな手が拭き取ってくれます。

「恥ずかしいのは、俺にはどうもしてあげられへんけど」

 そこは却下なのですね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件

百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。 そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。 いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。) それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる! いいんだけど触りすぎ。 お母様も呆れからの憎しみも・・・ 溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。 デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。 アリサはの気持ちは・・・。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【続】18禁の乙女ゲームから現実へ~常に義兄弟にエッチな事されてる私。

KUMA
恋愛
※続けて書こうと思ったのですが、ゲームと分けた方が面白いと思って続編です。※ 前回までの話 18禁の乙女エロゲームの悪役令嬢のローズマリアは知らないうち新しいルート義兄弟からの監禁調教ルートへ突入途中王子の監禁調教もあったが義兄弟の頭脳勝ちで…ローズマリアは快楽淫乱ENDにと思った。 だが事故に遭ってずっと眠っていて、それは転生ではなく夢世界だった。 ある意味良かったのか悪かったのか分からないが… 万李唖は本当の自分の体に、戻れたがローズマリアの淫乱な体の感覚が忘れられずにBLゲーム最中1人でエッチな事を… それが元で同居中の義兄弟からエッチな事をされついに…… 新婚旅行中の姉夫婦は後1週間も帰って来ない… おまけに学校は夏休みで…ほぼ毎日攻められ万李唖は現実でも義兄弟から……

【完結】一夜の関係を結んだ相手の正体はスパダリヤクザでした~甘い執着で離してくれません!~

中山紡希
恋愛
ある出来事をキッカケに出会った容姿端麗な男の魅力に抗えず、一夜の関係を結んだ萌音。 翌朝目を覚ますと「俺の嫁になれ」と言い寄られる。 けれど、その上半身には昨晩は気付かなかった刺青が彫られていて……。 「久我組の若頭だ」 一夜の関係を結んだ相手は……ヤクザでした。 ※R18 ※性的描写ありますのでご注意ください

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

苺の誘惑 ~御曹司副社長の甘い計略~

泉南佳那
恋愛
来栖エリカ26歳✖️芹澤宗太27歳 売れないタレントのエリカのもとに 破格のギャラの依頼が…… ちょっと怪しげな黒の高級国産車に乗せられて ついた先は、巷で話題のニュースポット サニーヒルズビレッジ! そこでエリカを待ちうけていたのは 極上イケメン御曹司の副社長。 彼からの依頼はなんと『偽装恋人』! そして、これから2カ月あまり サニーヒルズレジデンスの彼の家で ルームシェアをしてほしいというものだった! 一緒に暮らすうちに、エリカは本気で彼に恋をしてしまい とうとう苦しい胸の内を告げることに…… *** ラグジュアリーな再開発都市を舞台に繰り広げられる 御曹司と売れないタレントの恋 はたして、その結末は⁉︎

処理中です...