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二章
31、寝ていても【2】
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「起きていらしたんですか?」
「なんか、甘くてふわっとした……そうやな真珠麿を口に含もうとして、目が覚めた」
本当に寝ていたようで、蒼一郎さんはぼんやりとした表情です。
もしかしたら、わたしは噛まれる寸前だったのかも。
畳に横たわった蒼一郎さんは、わたしを腕の中から解放するつもりはなさそうです。
密着していて、ドキドキするんですけど。そのままお話は続きます。
「なぁ、絲さん。俺はあんたにかけられる迷惑は、苦でもなんでもない。むしろ、甘えてくれてるんやて思うと嬉しいんや」
わたしは、蒼一郎さんの胸に顔をつけた状態になっているので、彼の言葉は体から響いてきます。
「せやから遠慮されると、甘えてもらえへんのやろか、距離を取るくらい他人行儀なんやろかって不安になるんや」
まさか自分の遠慮が……気を遣ったことが、逆に蒼一郎さんを追い詰めていたなんて、考えもしませんでした。
「俺の膝枕で、安心して寝てしもたり。眠りながらでも、俺の手をつないでくる絲さんの気持ちを、俺は信じたい。遠慮とか建前とか、そんなん欲しない」
わたしは頷きました。
喉に何か結晶のようなものが詰まった心地で、言葉にできませんでした。
でも、その結晶は澄んでいて、とても温かなの。
彼の厚意を遠慮という壁で防いだのに。それを物ともせずに、乗り越えてきてくれた力強い優しさ。
それは今まで、与えられたことのない物でした。
「ここに居てもいいですか?」
「何回も言うとうやろ。寄宿舎なんかに入るなって」
「はい」
「絲さんはここに、俺の傍におるんやで」
「……はい」
返事する言葉がかすれて、みっともないです。
なのに、蒼一郎さんはわたしの頬にもひたいにも、唇にも何度も接吻を落とすから。
もう、どうしていいか分からなくなるの。
「家に帰ったら接吻をするって、今朝言うたやろ。減るもんやないから、なんぼでもさせてもらうで」
まるで悪戯を思いついたように、蒼一郎さんは薄く微笑みました。
長襦袢を結ぶ紐を、蒼一郎さんが解きます。
「ああ、絲さんは寝とってええで。どうせ時間もかかるし、しんどいやろし」
「あ、あの接吻って仰いました」
「うん。言うたで」
会話しながらも、今度は肌襦袢が脱がされました。すでにわたしの肩は露わになり、濡れ縁に面した障子が開かれているせいで、涼しい風が肌を撫でていきます。
「ああ、障子開いとんのか。まぁ、ええやろ」
「閉めてください」
「そんな寒ないで」
違うの。誰かが庭を通りがかったら、今のはしたない姿を見られてしまうから。
だって三條邸の庭はとても広くて。どこからでも通り抜けできるような構造なんだもの。
「目ぇ閉じとき。そうしたら眠なるし、誰かが通りがかっても気にならへんやろ」
そういう問題じゃないんです。
わたしは訴えようとしたのに、すでに唇がふさがれていました。
接吻される時は、自然と目を閉じてしまいます。それも唇だけじゃなくて、他の場所にされる時も。
だから、自分でも知らぬ内に蒼一郎さんの言いなりになってしまったの。
首筋にくちづけられます。喉にも、うなじにも。
わたしは蒼一郎さんの少し固い髪に、指をさし入れました。
ああ、お庭から葉が揺れる音が聞こえるわ。あれは風よね。そうだと言って。
誰かが、枝に触れているんじゃないわよね。
「なんか、甘くてふわっとした……そうやな真珠麿を口に含もうとして、目が覚めた」
本当に寝ていたようで、蒼一郎さんはぼんやりとした表情です。
もしかしたら、わたしは噛まれる寸前だったのかも。
畳に横たわった蒼一郎さんは、わたしを腕の中から解放するつもりはなさそうです。
密着していて、ドキドキするんですけど。そのままお話は続きます。
「なぁ、絲さん。俺はあんたにかけられる迷惑は、苦でもなんでもない。むしろ、甘えてくれてるんやて思うと嬉しいんや」
わたしは、蒼一郎さんの胸に顔をつけた状態になっているので、彼の言葉は体から響いてきます。
「せやから遠慮されると、甘えてもらえへんのやろか、距離を取るくらい他人行儀なんやろかって不安になるんや」
まさか自分の遠慮が……気を遣ったことが、逆に蒼一郎さんを追い詰めていたなんて、考えもしませんでした。
「俺の膝枕で、安心して寝てしもたり。眠りながらでも、俺の手をつないでくる絲さんの気持ちを、俺は信じたい。遠慮とか建前とか、そんなん欲しない」
わたしは頷きました。
喉に何か結晶のようなものが詰まった心地で、言葉にできませんでした。
でも、その結晶は澄んでいて、とても温かなの。
彼の厚意を遠慮という壁で防いだのに。それを物ともせずに、乗り越えてきてくれた力強い優しさ。
それは今まで、与えられたことのない物でした。
「ここに居てもいいですか?」
「何回も言うとうやろ。寄宿舎なんかに入るなって」
「はい」
「絲さんはここに、俺の傍におるんやで」
「……はい」
返事する言葉がかすれて、みっともないです。
なのに、蒼一郎さんはわたしの頬にもひたいにも、唇にも何度も接吻を落とすから。
もう、どうしていいか分からなくなるの。
「家に帰ったら接吻をするって、今朝言うたやろ。減るもんやないから、なんぼでもさせてもらうで」
まるで悪戯を思いついたように、蒼一郎さんは薄く微笑みました。
長襦袢を結ぶ紐を、蒼一郎さんが解きます。
「ああ、絲さんは寝とってええで。どうせ時間もかかるし、しんどいやろし」
「あ、あの接吻って仰いました」
「うん。言うたで」
会話しながらも、今度は肌襦袢が脱がされました。すでにわたしの肩は露わになり、濡れ縁に面した障子が開かれているせいで、涼しい風が肌を撫でていきます。
「ああ、障子開いとんのか。まぁ、ええやろ」
「閉めてください」
「そんな寒ないで」
違うの。誰かが庭を通りがかったら、今のはしたない姿を見られてしまうから。
だって三條邸の庭はとても広くて。どこからでも通り抜けできるような構造なんだもの。
「目ぇ閉じとき。そうしたら眠なるし、誰かが通りがかっても気にならへんやろ」
そういう問題じゃないんです。
わたしは訴えようとしたのに、すでに唇がふさがれていました。
接吻される時は、自然と目を閉じてしまいます。それも唇だけじゃなくて、他の場所にされる時も。
だから、自分でも知らぬ内に蒼一郎さんの言いなりになってしまったの。
首筋にくちづけられます。喉にも、うなじにも。
わたしは蒼一郎さんの少し固い髪に、指をさし入れました。
ああ、お庭から葉が揺れる音が聞こえるわ。あれは風よね。そうだと言って。
誰かが、枝に触れているんじゃないわよね。
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