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第1章

14・騎士様と鍛錬場①

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 食事を終えたあと、私は早めに食堂を退散することにした。
 あのまま食堂にいたら、エミールくんがジェラルドに叱られ続けるのが目に見えていたからだ。それはさすがに申し訳ない。
 エミールくんと仲良くなるのはまた次の機会にしよう、と私は心に決めた。

「よければ、ついでに神殿の中をご案内いたします」

「わ、ありがとう」

 昨日は結局、あまり神殿内について知ることが出来なかったからジェラルドの申し出は助かる。
 いつ元の世界に戻れるのがはっきりと分からない以上、自分が当面暮らす場所について知っておいて損は無いだろう。

 そういえば、具体的にいつ元の世界に戻れるのを聞きそびれていたと思いだす。次に神様に会ったら問い詰めておかねばならない。

 つらつらと考えながらジェラルドの後ろについて神殿内を歩いていると、ふと気になるものを見つけた。

 窓の外、少し離れたところに別の建物が見える。
 
「ねぇ、ジェラルド。あの建物ってなに?」

 建物を指しながらジェラルドに尋ねると、ジェラルドは「ああ」と頷いた。
 
「あれは、俺たち神殿騎士の鍛錬場です」

「へぇー……」

 鍛錬場まで併設してあるのか。それはすごい。
 やはり騎士を名乗るだけあって、強く鍛えねばならないのだろう。

「この神殿や町を守るため、神殿騎士は日々ここで鍛錬をしております。少し、中をご覧になられますか?」

「え、いいの? 見てみたい!」

 好奇心には逆らえない。
 私が目を輝かせたのを見て、ジェラルドは目元を緩めた。


 ◇◇◇◇◇◇


 裏口から神殿を出て、中庭に面した渡り廊下を渡った先に鍛錬場はあった。
 二階の高さまである石造りの建物が、ぐるりと四角く囲うように配置されている。
 中はどうなっているんだろう?

「ここは、神殿騎士団の詰め所にもなっているんですよ」
 
 ジェラルドはそう言いながら、簡素な木の扉を開けてくれる。
 石造りの建物で囲われた中は、中庭のような開けた空間になっていた。
 その中央では、神殿騎士と思われる格好をした男性二人が、模擬試合のようなものを行っているようだった。
 片方は長剣を扱い、もう片方は短刀と投げナイフを扱って戦っている。
 
「騎士って言っても、使う武器って長剣だけじゃないんだね?」
 
 騎士といえば、何となくジェラルドが腰に下げているような長剣のイメージがあった。ナイフを使っている人を見て意外に思う。

「基本は長剣ですけど、中にはこだわりを持って自分の好む武器を使う騎士もいるんです」

 なるほど。その辺は割と自由なんだ。

「そういえばジェラルドって、かなり偉い人?」

 入口付近で試合を見学しながら、私はずっと気になっていたことをジェラルドに聞いてみた。
 エミールくんのジェラルドに対する態度といい、『神子様』を守るような重要っぽい役割を与えられていることといい、ジェラルドはただの騎士には思えない。

「そうですね……。偉いというほどではありませんが、騎士団内では力があるほうですよ。これでも一応、神殿騎士団の団長を務めております」

「……だ、団長!?」

 ジェラルドがさらりと放った言葉に、私はぎょっと目を見開いた。
 強そうだとは思っていたが、団長ということは神殿騎士団内でトップということじゃん! そんなすごい人を、呑気に私の神殿見学に付き合わせていたの!?

「な、なんか、すごい人をこんな子どもに付き合わせてごめんなさい……」

 申し訳なさが募って、私はしゅんと頭を垂れた。
 それに対して、ジェラルドはきょとんとしている。

「なぜ、神子様が謝るのですか? 俺はすごくありませんよ。すごいのは俺より神子様です」

「えっ、なんで私……?」

 なぜ、はこちらのセリフだ。
 私なんて、ただの女子高生だ。成績だってさして良くないし、見た目は普通。この異世界で『神子様』なんて呼ばれても、特別な力なんてないのだから。
 だがジェラルドは、困惑して首をひねる私の様子などお構い無しで言葉を続けた。

「神子様は、異世界から突然召喚されたとニコラス様より伺っております。それなのに、悲観するでもなく、前向きにこの世界のことを受け入れようとなさっている」

 待って、ジェラルドにはそんな良いように捉えられていたの!?
 私はただ、私の世界と全然違うものに興味津々だっただけなんですけど!?

「ルーチェ様が選ばれた神子とはいえ、最初はどのような方が来るのかと不安でしたが……。あなたのような方なら、俺の全てをかけて守りたいと思える。……アオイ様」

「え、え、ちょっと美化しすぎでしょ……?」

 ジェラルドの真摯な眼差しが私に注がれる。
 どうしよう。一気に頬へ熱が集まって顔が熱い。耳まで真っ赤になっている自信がある。
 私はジェラルドの顔を直視出来なくて視線を逸らした。

 その時ひゅっと、一際大きく風を切る音が響いた。

「え……」
 

 
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