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しおりを挟む「……っん」
がた、ごと、と体が揺れる。
振動と馬のいななきに目が覚めると、私は馬車の中にいた。
即効性の睡眠薬だと聞いていたが、持続性は低いのだろうか。
丸一日寝ていたのでなければ、それほど時間が経っていないと思われた。馬車の窓を流れる景色はまだ夜だ。
起き上がろうとして……、私は自分が動けないことに気がついた。両手両足を縛られてしまっている。幸いと言っていいのか口は封じられていないようだが、薬のせいなのか上手く言葉が発せられなかった。
――どうしよう。もしかして誘拐されてる?
もしかしなくてもそうだろう。
さすがにこれはまずい、と頭の中で警鐘が鳴る。
どうにか打開策はないかと考えを巡らせていると、御者台の方から男たちの話し声が聞こえてきた。
「……にしてもユーリーのヤツめ、こんな町外れにいるなんざ思わなかったよ。組織を壊滅させておいて呑気に過ごしやがって……」
――組織? 壊滅……?
一体男たちはなんの話をしているのだろう。
ユーリーに関わりそうな話だということだけは察してしまい、私は思わず聞き耳を立ててしまった。
「――そういえばこの女、見覚えありません?」
「ああ、あるともさ。多分、五年前にうちの組織が誘拐した貴族の一人じゃねぇか? なんで町外れにいたかは知らねぇが……」
「まぁ、この女をダシにして、ユーリーに復讐できればこっちのモンっすね」
男たちがけたけたと笑っている。
だけれど、それどころではなかった。
――五年前……? 誘拐……?
聞き捨ててはならない言葉が聞こえた気がする。
なんだか、酷く頭が痛い。心臓がバクバクして、呼吸が苦しくなってきたような……。
「あ? お前なに馬車の上でマッチなんかすろうとしてんだ?」
「だって、俺は運転してないからタバコ吸ってもいいかなって」
御者台の方では、男たちの会話がまだ続いているようだった。
……マッチ? タバコ?
なんだか嫌な予感がするのは気のせいだろうか。
「気をつけろよ?」
「分かってますって……あ」
「あ、おいバカ、なんで馬車の上にマッチを落とすんだ! 早く逃げろ!」
――今、「あ」って言った!? 逃げろ!?
慌てふためいている男たちに、なんだかやっぱり嫌な予感がするのだが……。
程なくして馬車が止まった。
ヒヒィン、と馬が大きく鳴き、どこかへ走り去っていくひづめの音がする。男たちの声も聞こえなくなる。
――え、な、なにごと……!?
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