上 下
7 / 12

7

しおりを挟む

「……っん」

 がた、ごと、と体が揺れる。
 振動と馬のいななきに目が覚めると、私は馬車の中にいた。

 即効性の睡眠薬だと聞いていたが、持続性は低いのだろうか。
 丸一日寝ていたのでなければ、それほど時間が経っていないと思われた。馬車の窓を流れる景色はまだ夜だ。

 起き上がろうとして……、私は自分が動けないことに気がついた。両手両足を縛られてしまっている。幸いと言っていいのか口は封じられていないようだが、薬のせいなのか上手く言葉が発せられなかった。

 ――どうしよう。もしかして誘拐されてる?

 もしかしなくてもそうだろう。
 さすがにこれはまずい、と頭の中で警鐘が鳴る。
 どうにか打開策はないかと考えを巡らせていると、御者台の方から男たちの話し声が聞こえてきた。

「……にしてもユーリーのヤツめ、こんな町外れにいるなんざ思わなかったよ。組織を壊滅させておいて呑気に過ごしやがって……」

 ――組織? 壊滅……?

 一体男たちはなんの話をしているのだろう。
 ユーリーに関わりそうな話だということだけは察してしまい、私は思わず聞き耳を立ててしまった。

「――そういえばこの女、見覚えありません?」

「ああ、あるともさ。多分、五年前にうちの組織が誘拐した貴族の一人じゃねぇか? なんで町外れにいたかは知らねぇが……」

「まぁ、この女をダシにして、ユーリーに復讐できればこっちのモンっすね」

 男たちがけたけたと笑っている。
 だけれど、それどころではなかった。
 
 ――五年前……? 誘拐……?

 聞き捨ててはならない言葉が聞こえた気がする。
 なんだか、酷く頭が痛い。心臓がバクバクして、呼吸が苦しくなってきたような……。

「あ? お前なに馬車の上でマッチなんかすろうとしてんだ?」

「だって、俺は運転してないからタバコ吸ってもいいかなって」

 御者台の方では、男たちの会話がまだ続いているようだった。
 ……マッチ? タバコ?
 なんだか嫌な予感がするのは気のせいだろうか。
 
「気をつけろよ?」
 
「分かってますって……あ」

「あ、おいバカ、なんで馬車の上にマッチを落とすんだ! 早く逃げろ!」
 
 ――今、「あ」って言った!? 逃げろ!?

 慌てふためいている男たちに、なんだかやっぱり嫌な予感がするのだが……。

 程なくして馬車が止まった。
 ヒヒィン、と馬が大きく鳴き、どこかへ走り去っていくひづめの音がする。男たちの声も聞こえなくなる。

 ――え、な、なにごと……!?
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者の座は譲って差し上げます、お幸せに

四季
恋愛
婚約者が見知らぬ女性と寄り添い合って歩いているところを目撃してしまった。

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。 そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。 死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

【完結】今更告白されても困ります!

夜船 紡
恋愛
少女は生まれてまもなく王子の婚約者として選ばれた。 いつかはこの国の王妃として生きるはずだった。 しかし、王子はとある伯爵令嬢に一目惚れ。 婚約を白紙に戻したいと申し出る。 少女は「わかりました」と受け入れた。 しかし、家に帰ると父は激怒して彼女を殺してしまったのだ。 そんな中で彼女は願う。 ーーもし、生まれ変われるのならば、柵のない平民に生まれたい。もし叶うのならば、今度は自由に・・・ その願いは聞き届けられ、少女は平民の娘ジェンヌとなった。 しかし、貴族に生まれ変わった王子に見つかり求愛される。 「君を失って、ようやく自分の本当の気持ちがわかった。それで、追いかけてきたんだ」

婚約者の私には何も買ってはくれないのに妹に好きな物を買い与えるのは酷すぎます。婚約破棄になって清々しているので付き纏わないで

珠宮さくら
恋愛
ゼフィリーヌは、婚約者とその妹に辟易していた。どこに出掛けるにも妹が着いて来ては兄に物を強請るのだ。なのにわがままを言って、婚約者に好きな物を買わせていると思われてしまっていて……。 ※全5話。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

婚約破棄により婚約者の薬のルートは途絶えました

マルローネ
恋愛
子爵令嬢であり、薬士でもあったエリアスは有名な侯爵家の当主と婚約することになった。 しかし、当主からの身勝手な浮気により婚約破棄を言われてしまう。 エリアスは突然のことに悲しんだが王家の親戚であるブラック公爵家により助けられた。 また、彼女の薬士としての腕前は想像を絶するものであり…… 婚約破棄をした侯爵家当主はもろにその影響を被るのだった。

婚約者の姉に階段から突き落とされました。婚約破棄させていただきます。

十条沙良
恋愛
聖女の私を嫌いな婚約者の姉に階段から突き落とされました。それでも姉をかばうの?

【完結】婚約破棄で私は自由になる

らんか
恋愛
 いよいよ、明日、私は婚約破棄される。  思えば、生まれてからすぐに前世の記憶があった私は、この日が来るのを待ち続けていた。  早く婚約破棄されて……私は自由になりたい!

処理中です...