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最終章
50・宰相の妻は晴れ舞台に立つ③
しおりを挟む「結婚おめでとう」
「エルウィン様……! 来てくださってありがとうございます!」
国王への即位式を控えている第二王子様だ。とても忙しいはずなのに、わざわざ顔を見せてくれてくれたようだ。ありがたい。
こちらにやってきたエルウィン様は、私を見てうんうんと頷いた。
「そのドレス、よく似合っているね。かわいいよ」
「あ、はは。ありがとうございます」
エルウィン様がさらりと褒めてくれる。
お世辞だろうと分かっていても、褒めてもらえるのは嬉しいものだ。
「ちょっと、僕の妻を口説かないで頂けますか。殿下」
「いいじゃないか、事実なんだから。嫉妬深い男は嫌われるよ?」
エルウィン様は言葉に反応したリシャルト様にそう笑って返す。リシャルト様はぐっと言葉に詰まっているようだった。
「いやー、それにしてもこの一ヶ月は本当に大変だったねぇ。ほんと、うちの兄上と父上が君たちには迷惑をかけたよ……」
そう言うエルウィン様は、苦々しい表情だ。
さすがの私も苦笑するしかない。
「そうですね……」
この一ヶ月の出来事を思い返すと、良いこともあれば辛いこともあったけど。しかしまぁ、終わりよければすべてよし、というやつだ。
それもこれも、きっと裏でいろいろやってくれていたリシャルト様とエルウィン様のおかげだろう。
「でも、こちらこそですよ。いろいろとありがとうございました」
「いやいや。キキョウさえよかったら、今後も仲良くしてほしいな」
「それはもちろんです」
エルウィン様の申し出は、素直に嬉しいものだった。
ワタシ、トモダチスクナイカラ。
ぜ、前世ではそれなりにいたんだよ?
今世が少し特殊な生き方だっただけだ。
「ところで……。さっきからずっと柱の影で君の様子を伺っている子は友だちかい?」
「え?」
エルウィン様の突然の言葉に、指で示された方へ視線をやる。
すると、広間の白い柱の物陰に、薄緑のパーティードレスに身を包んだボブカットの女性――ニコラがいた。
「え、ニコラ? どうしてそんな端っこにいるんですか?」
私が視線を向けていることに気づくと、ニコラは肩をびくりとはね上げる。
「せ、聖女様ぁ……っ」
なんで泣きそうな顔をしているんだろう。
私のそばにやってきたニコラはふるふると震えていた。
「ど、どうしたんですか? なんで震えているんですか?」
「き、貴族様ばかりで緊張して……。せっかく呼んでくださったのにすみません~っ」
そういえば、ニコラは下町出身だったっけ。アルバート様やエマ様には結構普通に喋っていた気がするけれど、さすがに周りがほとんど高位の貴族ばかりという状況には慣れていないらしかった。
「いえ、来てくれてありがとうございます」
ニコラは共に職場で頑張ってきた戦友であり、今世で私の一番の親友だ。来てくれたことが本当に嬉しい。
リシャルト様は、私たちの様子を微笑ましそうに見守ってくれていた。
「聖女様、リシャルト様。ご結婚おめでとうございます。ところで、こちらの男性は……?」
ニコラはエルウィン様の方をちらと見た。
エルウィン様のお顔は新聞などに載って出回っているはずだが、どうやらニコラは自分の目の前にいる男性が次期国王様だとは気づいていないらしい。
「ああ、俺かい? 俺はエルウィン・ヴィスヘルム・セレスシェーナ。次期――」
「次期国王さまぁっ!?」
ニコラはエルウィン様の名前を聞いた途端、新緑のような緑の瞳を大きく見開いて、ずさささっと後ずさった。
驚きすぎだ。
「……この子、面白いね」
エルウィン様が、とても興味深そうに笑っている。
「ちょっと借りていい? 話してみたいな」
エルウィン様はそう言うと、ニコラの方へと近づいて行った。ニコラは突然エルウィン様に興味をもたれたからか、慌てふためいている。
なんだか意外な組み合わせだ……。
私とリシャルト様は、顔を見合せて笑った。
賑やかに、そして穏やかに、お披露目パーティーの時間が流れていく……。
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