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第六章 田中天狼のシリアスな日常・捜査編
田中天狼のシリアスなドリンクバー
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俺たちは、学校最寄り駅の前にある、『カラオケGanGang』というカラオケチェーン店に来た。
テナントビルの狭いエレベーターに乗り、3階にある受付へ向かう。
「あー、カラオケなんて久しぶり~! 何歌おうかな?」
「あ、ナデシコ! 見てみろよ。今期の主題歌がもう導入されてるっぽいぞ!」
「……私は、DOMよりJAYSOUNDの方がいいわ。本人映像が多いし」
三人は、テンションを上げて、楽しみにしている様だが、俺は一人蚊帳の外だ。
「ねえねえ、シリウスくんはどんな歌を歌うの?」
「――――え?」
――来た。春夏秋冬から尋ねられて、俺はそう思った。コミュ障ぼっちの俺にとっては、一番困る質問だ……。
「え――――と……。ま、い……色々だよ……」
「そうかー、楽しみだな!」
「……いや、そんなに期待されても……」
困る。
ぶっちゃけ、カラオケは嫌いではない。ヒトカラは未経験だが、ウチの家族と一緒にカラオケに行く事は、たまにある。
――え? 『友達と一緒には?』 ……だって?
…………そこは察しろ。
――話が逸れた。
正直、歌う事自体は嫌いではないし。歌唱力も、物凄く上手いとは言わないが、通常の観賞には十分堪えうるレベルではあると思う。
……俺が、今現在心配しているのは、そういう事ではないのだ――。
「田中くんは何にする? コーラとかでいいかしら?」
ドリンクバーのサーバーの前で、撫子先輩が俺に尋ねた。
「あ……スミマセン。出来ればカルピスウォーターでお願いします」
「ええ、分かったわ」
「おいおーい、シリウスくん。カルピスウォーターなんて……分かってないなぁ~」
矢的先輩が会話に割り込んできた。
彼は、手にしたグラスを見せびらかすように掲げる。
「飲み放題のドリンクといえば、氷をギチギチに入れてから注ぐ、メロンソーダに限るだろうよ~」
「……ダレが決めたんですか、そんなの」
撫子先輩から、カルピスウォーターの注がれたグラスを受け取りながら、ジト目で矢的先輩を睨んでやる。
「いやー、カラオケでドリンクって言ったら、烏龍茶でしょ! 喉がスッキリするし!」
俺と矢的先輩のドリンク論争に、春夏秋冬まで参戦してきた……。
「いや、カルピスウォーターが一番だよ。乳酸菌だから、喉に良さそうだし……」
「乳酸菌がいいのは、お腹じゃない?」
「ぎゃははは! 語るに落ちたな、シリウス!」
「ぐ……、そんな事言ったら、メロンソーダって何ですか! 炭酸飲料だし、いっこも喉に良さそうじゃないですか!」
「メロンソーダを舐めるなよ! 美味いじゃん、メロンソーダ! それに、コクコーラ社のメロンソーダは市販されてないんだよ! ドリンクバーみたいな施設でしか飲めない、貴重なドリンクなんだぞ~!」
「「もはやカラオケ関係無いじゃん!」」
「――もう、くだらない事で大きな声出さないで、三人とも」
ヒートアップする俺たちを、やんわりと嗜めたのは、撫子先輩だった。
「だってさ――! シリウスが適当な事言って、絶対王者のメロンソーダを否定しやがるか……て、ナデシコ、何やってんの?」
「え? ドリンクを作っているのだけど」
きょとんとした顔の撫子先輩の手元には、シュワシュワと泡が立つ何ともいえない色合いの、不気味な液体が……。
俺たちは、言い争っていた事も忘れて、撫子先輩の調合した液体を凝視する。
「……なでしこセンパイ……それって、何を混ぜたの?」
恐る恐る尋ねる春夏秋冬に、『何か疑問でも?』といった感じに小首を傾げながら、撫子先輩は答える。
「えっと――、オレンジジュースに、コーラとコーヒーを足しただけだけど……?」
俺たちは、その答えを聞いて、お互いに顔を見合わせ――、無言のまま早足で部屋へ向かった。
「――? どうしたの? 結構美味しいのよ? 一回飲んでみたら――」
……撫子先輩の言葉が、廊下に空しく響いていた。
テナントビルの狭いエレベーターに乗り、3階にある受付へ向かう。
「あー、カラオケなんて久しぶり~! 何歌おうかな?」
「あ、ナデシコ! 見てみろよ。今期の主題歌がもう導入されてるっぽいぞ!」
「……私は、DOMよりJAYSOUNDの方がいいわ。本人映像が多いし」
三人は、テンションを上げて、楽しみにしている様だが、俺は一人蚊帳の外だ。
「ねえねえ、シリウスくんはどんな歌を歌うの?」
「――――え?」
――来た。春夏秋冬から尋ねられて、俺はそう思った。コミュ障ぼっちの俺にとっては、一番困る質問だ……。
「え――――と……。ま、い……色々だよ……」
「そうかー、楽しみだな!」
「……いや、そんなに期待されても……」
困る。
ぶっちゃけ、カラオケは嫌いではない。ヒトカラは未経験だが、ウチの家族と一緒にカラオケに行く事は、たまにある。
――え? 『友達と一緒には?』 ……だって?
…………そこは察しろ。
――話が逸れた。
正直、歌う事自体は嫌いではないし。歌唱力も、物凄く上手いとは言わないが、通常の観賞には十分堪えうるレベルではあると思う。
……俺が、今現在心配しているのは、そういう事ではないのだ――。
「田中くんは何にする? コーラとかでいいかしら?」
ドリンクバーのサーバーの前で、撫子先輩が俺に尋ねた。
「あ……スミマセン。出来ればカルピスウォーターでお願いします」
「ええ、分かったわ」
「おいおーい、シリウスくん。カルピスウォーターなんて……分かってないなぁ~」
矢的先輩が会話に割り込んできた。
彼は、手にしたグラスを見せびらかすように掲げる。
「飲み放題のドリンクといえば、氷をギチギチに入れてから注ぐ、メロンソーダに限るだろうよ~」
「……ダレが決めたんですか、そんなの」
撫子先輩から、カルピスウォーターの注がれたグラスを受け取りながら、ジト目で矢的先輩を睨んでやる。
「いやー、カラオケでドリンクって言ったら、烏龍茶でしょ! 喉がスッキリするし!」
俺と矢的先輩のドリンク論争に、春夏秋冬まで参戦してきた……。
「いや、カルピスウォーターが一番だよ。乳酸菌だから、喉に良さそうだし……」
「乳酸菌がいいのは、お腹じゃない?」
「ぎゃははは! 語るに落ちたな、シリウス!」
「ぐ……、そんな事言ったら、メロンソーダって何ですか! 炭酸飲料だし、いっこも喉に良さそうじゃないですか!」
「メロンソーダを舐めるなよ! 美味いじゃん、メロンソーダ! それに、コクコーラ社のメロンソーダは市販されてないんだよ! ドリンクバーみたいな施設でしか飲めない、貴重なドリンクなんだぞ~!」
「「もはやカラオケ関係無いじゃん!」」
「――もう、くだらない事で大きな声出さないで、三人とも」
ヒートアップする俺たちを、やんわりと嗜めたのは、撫子先輩だった。
「だってさ――! シリウスが適当な事言って、絶対王者のメロンソーダを否定しやがるか……て、ナデシコ、何やってんの?」
「え? ドリンクを作っているのだけど」
きょとんとした顔の撫子先輩の手元には、シュワシュワと泡が立つ何ともいえない色合いの、不気味な液体が……。
俺たちは、言い争っていた事も忘れて、撫子先輩の調合した液体を凝視する。
「……なでしこセンパイ……それって、何を混ぜたの?」
恐る恐る尋ねる春夏秋冬に、『何か疑問でも?』といった感じに小首を傾げながら、撫子先輩は答える。
「えっと――、オレンジジュースに、コーラとコーヒーを足しただけだけど……?」
俺たちは、その答えを聞いて、お互いに顔を見合わせ――、無言のまま早足で部屋へ向かった。
「――? どうしたの? 結構美味しいのよ? 一回飲んでみたら――」
……撫子先輩の言葉が、廊下に空しく響いていた。
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