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「あれ、もう始めちゃってる?」

甘くむせ返るような雰囲気の室内に、突然クリスとカミル以外の声が響いた。
カミルの背後──ベッドに押し付けられているクリスからは見えないが、部屋の入り口からこちらに向かって声の主であるミラークが近付いてくる気配がする。
「チッ…」
「あ、いま舌打ちした?舌打ちしたよね?もう。一緒に喰べようねって何度も約束したのに。抜け駆けなんてパパ聞いてないぞぉ?」
「相変わらず気色悪ぃな。約束なんかしてねぇし、折角のご馳走を誰がアンタなんかと一緒に喰うかよ」
「こら!そんなにお口が悪いと先生に嫌われちゃうよ?先生はか弱くて大人しい子が好きなんだからね」
「ハッ、アンタは最初から対象外だもんな。ジジイは大人しく引っ込んどけって」
「酷ーい!僕はまだピチピチの20代ですー!」

気の抜けた喋り方のミラークと聞いたこともないほど口の悪いカミルの会話を、クリスは何ひとつ理解する事ができなかった。
まだこれを現実と思うことができず、二人のやりとりを呆然と見つめることしかできない。
「先生、お加減はいかがです?」
息子との言い合いもそこそこに、枕元に近づいて来たミラークはクリスの顔を真上から覗き込んだ。
彼の美しく長い髪が白いベッドに落ちて散らばる。
(…美人はどの角度から見ても美人なんだな)
頬に一瞬掛かったミラークの髪の感触も他人事のように感じながら、クリスは暢気にそんな事を考えた。

──数秒して、漸く現状を理解したクリスの顔からサッと血の気が引く。

息子カミルに手を出しているところを、父親ミラークに見られた。

実際のところいいようにされていたのはクリスの方なのだが、ベッドの上で『大人』と『子供』がいやらしい事をしているのだから、手を出した出されたはこの際最早どうでもいい。
クリスは謝罪やら言い訳やら思いつく限りの言葉を頭に浮かべたが、悲しいかな何一つ口から出てくる事はなかった。
言葉を発したが最後、クリスの人生が終わる。医者としても、命的な意味でも。クリスはそんな気がしてならなかった。
もう一度言うが過ぎた美は毒なのだ。
「可愛いうちの子に手を出すなんていい度胸ですね先生」
そうにっこりと微笑まれて殺されるのだと想像し、クリスは絶望に口を閉ざすしか無かった。

一方のミラークと言えば。
小動物のようにひとり震えるクリスの様子を静かに見下ろし、そしてニンマリと目を細めた。

「─…ッ、ぁ…!?」

彼の碧い瞳がじわじわと紅く染まる。

はっきりとそれを見てしまった瞬間、雷にでも打たれたかのような強い快感が全身に走り、クリスはびくんと大袈裟なほどに身体を震わせた。
あまりの衝撃に無意識に身体が内側に入り込み、膝を擦り合わせるような動きをしてしまう。
「……ああ、先生。すっかり美味しそうになってしまって…いけませんね」
「…っ!ひ…ッ、ぁ、ぅん、んん…ッ」
くい、とミラークに顎を取られそのまま深い口付けをされる。
カミルよりも大きく分厚いミラークの舌がクリスの無防備な舌に絡みつき、たっぷりと味わうように丹念に舌を嬲られる。
ミラークのキスはカミルのような激しさこそないものの、まるでクリスに気持ちのいい場所を教え込んでいるような、そんなしつこいものだった。
いっそカミルのように蹂躙してくれればいいものを、とクリスは思う。
ミラークは何度も角度を変えながらクリスの反応を逐一愉しんでいた。
荒々しさがない分クリスもしっかりと彼の舌の動きや熱さを感じとってしまい逆に恥ずかしい。
クリスが嫌がるように首を振れば、どこまで奥に入り込むのかというくらい口いっぱいに舌が侵入してきた。
「ン、ッ!?んっ…!ぁ、ッん…んんぅ…ふ、ぅッ」
クリスはその苦しさに思わず顎を上げて頭を逸らすが、ミラークの舌は構わず喉奥に向かってこようとしていた。
そんな舌の動きにクリスは鼻から子供のような泣き声を漏らし震える。
もう許して──そう訴えるように睫毛を震わせながら瞼を持ち上げれば、ミラークと間近で視線が絡んだ。
紅い、血のような瞳がそこにある。
戸惑うクリスの反応が堪らないとばかりにミラークの目がきゅうと細まった。

「──ッは…!あ、はあッ、ぁ、はっ…はあッ…!」

漸く満足したのか、ミラークの舌がずろりと外へ這い出て行く。
その拍子にクリスの口端からはしたない量の唾液が溢れ、枕を盛大に濡らしてしまった。
ミラークの舌が奥まで口を塞いできたのでカミルの時のようには唾液を飲み込むことができなかったのだ。
はぁはぁと大きく息を吸い込むクリスに、ミラークはかぱりと口を開けた。
カミルと同じ鋭い牙のような歯が見える。
だがそれよりも、二人分の涎が滴る口内がいやらしくて、クリスはそちらに意識が向いてしまった。
上顎も舌の上も尖った歯の先も唇も、ぬらぬらと艶かしく濡れている。
まるで見せつけてくるかのようなミラークの行動に、とんでもない辱めを受けている気分になった。
目の前の男の口の中がそうなっているという事は、つまりはクリスもそんな酷い有り様になっているという事である。
開きっぱなしのミラークの口から溜まった唾液が垂れ、クリスの唇にぼたりと落ちた。
それを食い入るように見つめるミラークの頬が、興奮と愉悦で上気する。

「ああ、先生。凄いです、わかります?今とてもいやらしい匂いがしますよ…」
「…えっ…ッあ、待っ…ひ、っぅ…!」
クリスは瞬時に理解した。
ミラークは自分と同じ類いの趣味の持ち主なのだと。
対象となる相手の見目の好みこそ違うが、この男は相手の恥じらう姿や戸惑う仕草に興奮を覚える。
それを裏付けるようにミラークはクリスの濡れた下唇を舐った。
恥じらってはいけない、嫌がっては相手の思う壺──と、頭ではわかっているのだがクリスの身体は律儀にもびくんと反応してしまう。

「変なことしてんじゃねぇよジジイ。先生泣いてるだろ、可哀想に」

覆い被さるように身を乗り出してじぃーっとクリスの羞恥に塗れた顔を覗き込んでいたカミルが、ミラークに対し呆れた顔で言い放った。
ミラークは「えー」と眉を八の字にしながら困ったように笑うが、恐らく全く困っていなければ行為をやめるつもりもないのだろう。そんな心の内が見て取れる。
「だって先生ってば本当にいい匂いなんだもの。僕、先生が帰った後にいつも残り香で抜いてるんだよね」
「クソいらねぇ報告だな性悪エロジジイ」
「口がわるーい。カミルだって先生の匂いに興奮してたくせにぃ」
「覗き魔エロジジイの方が良かったか?」
「変わんないでしょそれ。ねぇ、酷い言い草だと思いません?先生」
「ん、ああッ…!?」
またも親子の言い合いが始まるのかと思っていれば、突然クリスの胸元に痛みと快感が走る。
見ればミラークの細く長い指が、衣服の上からクリスの胸の頂をキュ、キュと摘んでいた。
「こっちもたくさん可愛がってあげますね。ああ、そんなに怖がらないで」
「先生、この人は放っておいても大丈夫ですから。俺と一緒に続きしましょう」
どこでどうそんな話になったのか。
二人は舌舐めずりしながら器用にクリスの上着とシャツを剥くと、同意も得ずに覗く素肌に容赦なくむしゃぶりついた。

「ひ、…ぁ、うッ!」
ぷくりと立ち上がったクリスの右胸の飾りが、ミラークの肉厚な舌でべろりと押し潰される。
ぢゅっと吸い付いたり舌先で突いたり、女の子にするような愛撫を彼はわざとしているのだろう。
空いた左の胸のそれも親指と中指で挟むようにくりくりと弄られ、いいほど立ち上がった頃にべろんとひと舐めされてしまえば、クリスは甘い声を上げてしまうしかなかった。
一方カミルもクリスの足を左右に割り開きその間に陣取ると、臍や腰に唇を寄せ身体に次々と火を灯らせていく。
カミルの唇が触れるたび、柔らかな銀の髪が肌に落ちてきて擽ったい。
クリスが震える声で小さく名を呼べば、カミルもそれに気付いたようで頬にかかる銀髪を細い指で掬って耳に掛けた。
そしてぺろりと唇を舐め、壮絶な雄の色気を放ちながら悪い笑みとも取れる顔をクリスに向ける。
カミルはクリスのベルトを手際良く外すと、前を寛がせ際どいところにぢゅっと吸い付いた。
びくり、とクリスの腰が浮いて下腹部に熱が溜まる。
「ぁ、…ッ、んあっ……な なん、で…っ?…ぅ、あ…ッ」
クリスは戸惑うように下唇を噛んだ。
扱いてもいないのに、むくりとクリスの中心が擡げ始めたのだ。
「は…先生、最高……」
密着しているのだから当たり前ではあるが、カミルにもそれはしっかり伝わってしまったようだ。
うっとりと呟くカミルの声はどこまでも甘い。瞳を覗けばきっとトロトロに蕩けているのだろう。どれもクリスが望んでいたものではあるが、それを可愛いと思える余裕が今はなかった。
ドクドクと脈打つカミルのそれが、衣類越しとは言え嫌でもわかる。
少年の華奢な身体には少々不釣り合いにも思える大きさと熱さを間近で感じ、クリスは無意識に足先をきゅうと丸めて身悶えた。

「ち、ちが…っ、ぁ、か、身体…ッ、おれ…っ、さっきから、あッ…ぅ、おかしく、て…ッ」

身を包む快感に溺れながらクリスは何とかそう言葉を紡ぐ。
自ら少年の身体を愛でる事はあっても、このように愛でられる──しかも二人がかりで身体中を弄られる事など経験にない。
クリスはそんな未知の恐怖から助けを乞うように、ミラークの腕にひしとしがみ付きカミルの細腰を膝でぎゅっと挟んだ。
胸を弄っていたミラークと下腹部に顔を埋めていたカミルの喉がごきゅり、と鳴る。
「…いえ、何もおかしくないですよ先生」
「そうですね。でも……」

そういうの、ほんと…俺たちだけにして下さいね…?

カミルとミラークの声が綺麗に重なる。
もしも彼らが普通の情緒を持ち合わせている人間だったなら、クリスが本気で暴れた末にこの状況から何とか逃れる事ができたかもしれない。
だがそこにいるのがこの親子であったことがクリスの運の尽きだった。
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