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人外魔境に買われただるまっ子の日常
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「うーん、この町に引き取られて数年経ったけどもうかなり慣れたなあ」
「ああ、私に甲斐性が無いばっかりにまだ義肢をあげられなくて済まないね」
「いえいえ。いつもお世話してもらってますし、何か今やもうすっかりだるまの自分にも慣れましたのでお気遣いなく」
「それなら良かったよ。今の連載が終わったら本になるし、結構人気のシリーズだからある程度印税は入ると思うし、たぶんその内義肢も買えると思うよ」
「それは楽しみです」
「ところでいくら毎日アレな物を食べてるとはいえ、先生たち老けなさすぎじゃないですか?僕が来た頃から全くお二人とも変わってませんよ」
「ああ、ここ所謂サザエさん時空だから」
「そ、そうなんですか」
「うん、とはいえ日々価値観はアップデートされていくし、携帯がスマホになったりPCとか電化製品が進化してはいくがね」
「あー、そういうタイプのサザエさん時空ですか」
「ああ、そういう系だね」
「それと、サザエさん時空でも可哀想だからいずれは義肢は付くから安心してね」
「あー、そうなんですか。良かった」
「うん、嬉しい系のイベントはちゃんと起きるから」
「それは安心しました」
「もうかれこれ80年代からずっとサザエさん時空だね」
「うわー、そんなに前からなんですか」
「まあタイムスリップとか未来から飛んで来る神様がいたりとか平気で起きる町だからね」
「な、なるほど」
「昔一度その未来から来た神様と手合わせさせて貰ったことがあるが、やっぱり一瞬で武装解除させられたね」
「へー、流石に神様ですね」
「ああ、神様としてはさほど高位の方では無いようだが、やっぱり神様だけあって相当強かったね」
「ふーん、色々いるんですね」
「まあ割と気さくな神様だから、君もその内会えると思うよ」
「そうですか。それは楽しみです」
「先生。お客様ですよ。いつもの刑事さんです」
「ああ、通してくれたまえ」
「あー、例の捜査協力してる刑事さんですか」
「うん、もうサザエさん時空始まって以来の付き合いだね」
「どうもご無沙汰してます。とは言っても2か月程度ですが」
「ああ、お変わり無いようで何よりです」
「まあ、サザエさん時空ですからな」
「おー、いかにもなベテラン刑事さんですね」
「ああ、だるま君だね。君も手足アレな以外は元気そうで良かったよ」
「はい、おかげ様で手足アレな以外は健康体です」
「はい、お茶とお菓子をお持ちしました」
「ああ、どうもすみません」
「だるま君もどうぞ。美味しいわよ」
「わーい、ありがとうございます。見たこと無い和菓子ですね」
「ええ、老舗の魔界の和菓子屋さんでね。アレな植物を使ってるから魔力無い人が食べると死ぬけど、もうだるま君なら食べまくってるから平気よ」
「こ、怖い」
「だるま君、もうマンドラゴラも食べれるし絶対平気よ。はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます。…怖いけど。あー、でも確かに美味しい」
「うむ、やはりこのしかばね堂のお菓子は絶品ですなあ」
「な、名前怖い」
「ああ、私もここのお菓子は大好きだよ」
「ええ、私も」
「さて、今回ご相談したい事件なのですが。若い女性のバラバラ死体が先日ゴミ捨て場から見つかりまして。もちろん隠蔽されていたのですが、野犬や野良猫が漁って発覚しましてな」
「ひ、ひええ」
「ふむ。身元は分かったのでしょうか?」
「それが裸で所持品や身体的特徴も無く、過去何年かに渡って不明者情報も探しましたが該当する人がいないのです。おそらく20歳前後かと思われます。少し緑がかった黒髪の綺麗な女性でした」
「ああ、それはお気の毒に」
「それで、ゴミがどこから出たのかも調査中ですが彼女の遺体しか入っておらず難航しています。当然そのゴミ回収の地域には聞き込みを続けていますが」
「ふーむ。遠方から捨てられた可能性もありますが、周辺の住民で怪しい人はいないのでしょうか?」
「ええ、怪しい物が数名居まして。まずは色々とアレな物を発明して何度か爆発とか暴走して騒ぎになっている自称天才発明家、次に魔界のアレな生物をさらに魔改造してアレなペットとして売りつけている闇ブリーダー、後は過去に相当な事件をやらかして仮釈放中の危ない男、後は一見大人しそうですが何やら闇の深そうなプログラマーの男性ですな」
「し、周辺住民怖すぎ」
「あと他に例の未来から来た神様もお住まいですが、彼は基本善良なので無関係でしょう。悪人には容赦しませんが」
「ええ、彼等のお陰でこの町の治安が保たれている部分もありますからね」
「はい、上の立場の人達もこの町のアレっぷりを考慮しそういった方達を派遣して下さってますからね」
「ふーん、そうなんですか」
「うん、そういう理由でこの町結構そういう神様いるんだよ。君とほぼ同じくらいの外見や、下手をするともっと下の子もいるしね」
「へー、そういう子達会って見たいな」
「まあ、結構彼らも社交的だしいつかは会えるよ」
「それで、先生はどうお考えでしょうか」
「ううむ、なかなかの難事件ですね。他に被害者女性に身体的特徴等はありましたか?」
「ええ、女性の遺体ですが下半身は全く見つかりませんでした。他、何故か口の中から金魚の死骸が見つかりました」
「う、うわあ」
「金魚ですか。相当な異常性癖の猟奇的な犯人でしょうな。まあ私が言うなですが」
「…そ、そうですね」
「それから、女性の死因は何でしょうか?」
「おそらく、頭部を強く殴打しての撲殺と思われます」
「ふうむ、なるほど。ちょっと私もその現場周辺に行って見ます」
「はい、よろしくお願いします」
そう言ってベテラン刑事さんは帰って行った。
「じゃあ、早速行ってくるよ」
「あ、僕も気になるんで行っても良いですか?怖いけど」
「ああ、良いよ。じゃあ行こう」
「車椅子押してもらってしまい、すみません」
そうしてカラカラと車椅子を押してもらい、僕と先生はその現場に向かった。
「ふむ、ここがそのゴミ捨て場か」
「流石に掃除されたのか、もう普通のゴミ捨て場ですね」
「おや、少しだけお魚のような匂いがするね」
「あーほんとだ、生魚みたいな匂いがする」
「野良猫もいたって事だから、周囲の生ごみに生魚でもあったのかもしれないね」
「ああ、ここ海辺だしお魚食べる人多そうですもんね」
「うん、釣り人も多いしね」
「では、怪しい人達にそれとなく聞き込みをしてみようか。まあ万が一の事があったら私がすぐ斬るから大丈夫だよ」
「よ、よろしくお願いします」
そしていかにもなマッドサイエンティストの老人やアレなブリーダー(明らかにヤバい目付きの猫に噛まれていた)、もう見るからに頭のおかしいピエロ風メイクをした男(厳重な監視付きだったのでギリ危険行動はしなかった)などに聞き込みをし、最後に陰のあるプログラマー風の青年を訪ねた。
「…そういう訳で、申し訳ございませんが少々お話を伺わせて下さい」
「…ええ、先生の事は存じ上げていますし、そういう事でしたら」
「おや、ずいぶん大きな水槽がありますね。何か飼育されていたのですか」
「…ああ、つい最近まで珍しい大型魚を飼っていましたが、残念な事に死なせてしまいまして。気の毒な事をしました」
「ああ、それはお気の毒に」
「それ以外は僕の身辺ではこれといった事はありません。自分で言うのも何ですが、プログラマーとしての才以外は特に取り立てた物も無く、あまり人付き合いの良い方では無いので恨みを買うような覚えもありませんし」
「そうですか。ずいぶんご立派なお屋敷に住んでいますし、お金に困ったご様子もありませんね」
「ええ、家族が立派な家と財産を遺してくれましたので。プログラマーとしての仕事も順調ですし」
「なるほど、疑ってしまい申し訳ありません。ではこれにて失礼いたします」
「はい、僕も失礼しました」
「ふむ、まあこんなものかな」
「うーん。まあ最初の3人が怪しすぎましたし、あいつらの内の誰かですかね」
「そうだね。でもミステリの定石だと怪しい人ほど真犯人では無い物だよ」
「あー、確かに」
「ううむ。まあ帰ってゆっくり考えるとしようか。ああ、あそこにいる子達が例の神様だよ」
「あー、確かに高校生くらいに見えますね。可愛くて綺麗だけどやっぱ普通じゃない雰囲気ありますね」
「うん、まあ今は私達も取り込み中だし、たぶん彼等も仕事中だろうし声はかけないでおこう」
「ええ、そうですね」
「ああ、そういえば熱帯魚の餌が切れそうなんだった。すまないがちょっと熱帯魚屋に寄ってもいいかい?」
「いいですよ。先生アクアリウムもお好きですもんね」
そうして先生の馴染みの熱帯魚店に入った。
「ああ、いらっしゃい先生。だるま君も」
「こんにちは。ここ色んなお魚がいて綺麗ですよね」
「うん、全国各地から輸入しているからね。アレな改造熱帯魚もたまに取り扱うし」
「こ、怖い」
「ではこの餌をお願いします。ああ、今日はだるま君もいるし不要なんですが、金魚もまた少し増やしたいですね」
「ああ、でしたらこの金魚なんか丈夫だしおすすめですよ。少し値は張りますが」
「いいですね。おや、こちらの水槽の金魚はずいぶんお安いですが」
「ああ、こちらは大型魚の餌用の駄金ですよ」
「………!」
先生は何かを閃いたようだった。
買い物を終えた後すぐに、僕達はまた青年の家を訪ねた。
「おや、先生にだるまの子。またどうされたのですか」
「…あなたが、犯人だったのですね」
「…え、何を言うんですか」
「大型魚の餌に、金魚を与える事があります。…あなたが飼っていたのは、普通の魚ではなく人魚でしょう」
「……!」
「に、人魚!?」
「ああ、まあ神様だの妖怪だの普通にいる町だから、珍しいが当然いるよ」
「そ、そうでしょうね」
「僕も直接見た事はほとんど無いがね。この辺りの海辺にも稀にだが現れると聞いた事がある」
「へ、へえ」
「それで、あなたは理由は分かりませんが、彼女に餌を与えている時に殴打し殺害し、バラバラにし死体を隠蔽したのでしょう」
「…ええ、その通りです」
観念したように青年は静かに語り始めた。
「…僕は昔から人付き合いが苦手で、当然女性関係も恐怖心があり長年恋人のいないまま人生を送ってきました」
「そんなある日、海辺でまだ稚魚の彼女を見つけ、最初は単なる物珍しさから持ち帰り飼育し始めたのです」
「…しかし美しく成長していくうちに、僕は彼女を恋愛対象として見るようになりました。当然人魚なので性行為は出来ませんでしたが」
「…彼女も僕を慕い愛してくれ、良く魔性の歌を歌ってくれました。…しかしある時、珍しく人間の優しい女性と出会い、しばらく後に相思相愛になり、結婚も考えるようになりました」
「そして人魚の彼女に詫び、別れを告げますが彼女は聞き入れてくれませんでした。悲しいが拒絶するなら、呪いの歌を歌うとも言われ、それ以上何も言えませんでした」
「…しかし人間の彼女を捨てたくもなく、ある日とうとう思い余って、彼女が餌の金魚を食べている隙に後ろからバットで殴り殺してしまいました」
「…死の間際の、彼女の信じられないような物を見る目がずっと忘れられません」
「…結局、罪の意識からその後人間の彼女とも別れてしまい、私は空虚に過ごす事になりました」
「…なるほど。殺害は肯定できませんが、あなたの苦悩も分かります。…それで、彼女の魚の部分はどうされたのですか」
「…初めはそのまま海に捨ててしまおうかとも考えましたが、罪を一生背負って生きて行こうと思い、焼いて全て食べてしまいました」
「…ああ、そうでしたか」
「…はい、僕はもう永遠に、彼女を殺した罪を背負って生きて行きます」
僕達は静かに青年の家を後にした。
「人魚には戸籍が無いから、罪には問われないね。せいぜいペット殺しとして器物損壊程度かな」
「…でも、あの人も可哀想ですね」
「ああ、彼も根底は悪人では無いだろうからね。だからこそ自ら不死を選んだんだろう」
「…いつかは、幸せになれると良いですね」
「まあ未来永劫生きるのだから、その内は幸せになれるだろう」
「そうだと良いですね」
そうして僕達は帰宅し、刑事さんに事の顛末を伝えた。
後日。
「あ、先生。刑事さんからこの前のお礼に美味しいお魚を色々頂いたわ。早速お刺身や干物焼きにするわね」
「ああ、嬉しいね」
「わーい。人魚事件の後だとちょっと複雑だけど」
「やあ、君も猟奇なアレ事件にずいぶん慣れてきたね」
「はい、アレ事件怖いけど楽しくなってきました」
「ああ、私に甲斐性が無いばっかりにまだ義肢をあげられなくて済まないね」
「いえいえ。いつもお世話してもらってますし、何か今やもうすっかりだるまの自分にも慣れましたのでお気遣いなく」
「それなら良かったよ。今の連載が終わったら本になるし、結構人気のシリーズだからある程度印税は入ると思うし、たぶんその内義肢も買えると思うよ」
「それは楽しみです」
「ところでいくら毎日アレな物を食べてるとはいえ、先生たち老けなさすぎじゃないですか?僕が来た頃から全くお二人とも変わってませんよ」
「ああ、ここ所謂サザエさん時空だから」
「そ、そうなんですか」
「うん、とはいえ日々価値観はアップデートされていくし、携帯がスマホになったりPCとか電化製品が進化してはいくがね」
「あー、そういうタイプのサザエさん時空ですか」
「ああ、そういう系だね」
「それと、サザエさん時空でも可哀想だからいずれは義肢は付くから安心してね」
「あー、そうなんですか。良かった」
「うん、嬉しい系のイベントはちゃんと起きるから」
「それは安心しました」
「もうかれこれ80年代からずっとサザエさん時空だね」
「うわー、そんなに前からなんですか」
「まあタイムスリップとか未来から飛んで来る神様がいたりとか平気で起きる町だからね」
「な、なるほど」
「昔一度その未来から来た神様と手合わせさせて貰ったことがあるが、やっぱり一瞬で武装解除させられたね」
「へー、流石に神様ですね」
「ああ、神様としてはさほど高位の方では無いようだが、やっぱり神様だけあって相当強かったね」
「ふーん、色々いるんですね」
「まあ割と気さくな神様だから、君もその内会えると思うよ」
「そうですか。それは楽しみです」
「先生。お客様ですよ。いつもの刑事さんです」
「ああ、通してくれたまえ」
「あー、例の捜査協力してる刑事さんですか」
「うん、もうサザエさん時空始まって以来の付き合いだね」
「どうもご無沙汰してます。とは言っても2か月程度ですが」
「ああ、お変わり無いようで何よりです」
「まあ、サザエさん時空ですからな」
「おー、いかにもなベテラン刑事さんですね」
「ああ、だるま君だね。君も手足アレな以外は元気そうで良かったよ」
「はい、おかげ様で手足アレな以外は健康体です」
「はい、お茶とお菓子をお持ちしました」
「ああ、どうもすみません」
「だるま君もどうぞ。美味しいわよ」
「わーい、ありがとうございます。見たこと無い和菓子ですね」
「ええ、老舗の魔界の和菓子屋さんでね。アレな植物を使ってるから魔力無い人が食べると死ぬけど、もうだるま君なら食べまくってるから平気よ」
「こ、怖い」
「だるま君、もうマンドラゴラも食べれるし絶対平気よ。はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます。…怖いけど。あー、でも確かに美味しい」
「うむ、やはりこのしかばね堂のお菓子は絶品ですなあ」
「な、名前怖い」
「ああ、私もここのお菓子は大好きだよ」
「ええ、私も」
「さて、今回ご相談したい事件なのですが。若い女性のバラバラ死体が先日ゴミ捨て場から見つかりまして。もちろん隠蔽されていたのですが、野犬や野良猫が漁って発覚しましてな」
「ひ、ひええ」
「ふむ。身元は分かったのでしょうか?」
「それが裸で所持品や身体的特徴も無く、過去何年かに渡って不明者情報も探しましたが該当する人がいないのです。おそらく20歳前後かと思われます。少し緑がかった黒髪の綺麗な女性でした」
「ああ、それはお気の毒に」
「それで、ゴミがどこから出たのかも調査中ですが彼女の遺体しか入っておらず難航しています。当然そのゴミ回収の地域には聞き込みを続けていますが」
「ふーむ。遠方から捨てられた可能性もありますが、周辺の住民で怪しい人はいないのでしょうか?」
「ええ、怪しい物が数名居まして。まずは色々とアレな物を発明して何度か爆発とか暴走して騒ぎになっている自称天才発明家、次に魔界のアレな生物をさらに魔改造してアレなペットとして売りつけている闇ブリーダー、後は過去に相当な事件をやらかして仮釈放中の危ない男、後は一見大人しそうですが何やら闇の深そうなプログラマーの男性ですな」
「し、周辺住民怖すぎ」
「あと他に例の未来から来た神様もお住まいですが、彼は基本善良なので無関係でしょう。悪人には容赦しませんが」
「ええ、彼等のお陰でこの町の治安が保たれている部分もありますからね」
「はい、上の立場の人達もこの町のアレっぷりを考慮しそういった方達を派遣して下さってますからね」
「ふーん、そうなんですか」
「うん、そういう理由でこの町結構そういう神様いるんだよ。君とほぼ同じくらいの外見や、下手をするともっと下の子もいるしね」
「へー、そういう子達会って見たいな」
「まあ、結構彼らも社交的だしいつかは会えるよ」
「それで、先生はどうお考えでしょうか」
「ううむ、なかなかの難事件ですね。他に被害者女性に身体的特徴等はありましたか?」
「ええ、女性の遺体ですが下半身は全く見つかりませんでした。他、何故か口の中から金魚の死骸が見つかりました」
「う、うわあ」
「金魚ですか。相当な異常性癖の猟奇的な犯人でしょうな。まあ私が言うなですが」
「…そ、そうですね」
「それから、女性の死因は何でしょうか?」
「おそらく、頭部を強く殴打しての撲殺と思われます」
「ふうむ、なるほど。ちょっと私もその現場周辺に行って見ます」
「はい、よろしくお願いします」
そう言ってベテラン刑事さんは帰って行った。
「じゃあ、早速行ってくるよ」
「あ、僕も気になるんで行っても良いですか?怖いけど」
「ああ、良いよ。じゃあ行こう」
「車椅子押してもらってしまい、すみません」
そうしてカラカラと車椅子を押してもらい、僕と先生はその現場に向かった。
「ふむ、ここがそのゴミ捨て場か」
「流石に掃除されたのか、もう普通のゴミ捨て場ですね」
「おや、少しだけお魚のような匂いがするね」
「あーほんとだ、生魚みたいな匂いがする」
「野良猫もいたって事だから、周囲の生ごみに生魚でもあったのかもしれないね」
「ああ、ここ海辺だしお魚食べる人多そうですもんね」
「うん、釣り人も多いしね」
「では、怪しい人達にそれとなく聞き込みをしてみようか。まあ万が一の事があったら私がすぐ斬るから大丈夫だよ」
「よ、よろしくお願いします」
そしていかにもなマッドサイエンティストの老人やアレなブリーダー(明らかにヤバい目付きの猫に噛まれていた)、もう見るからに頭のおかしいピエロ風メイクをした男(厳重な監視付きだったのでギリ危険行動はしなかった)などに聞き込みをし、最後に陰のあるプログラマー風の青年を訪ねた。
「…そういう訳で、申し訳ございませんが少々お話を伺わせて下さい」
「…ええ、先生の事は存じ上げていますし、そういう事でしたら」
「おや、ずいぶん大きな水槽がありますね。何か飼育されていたのですか」
「…ああ、つい最近まで珍しい大型魚を飼っていましたが、残念な事に死なせてしまいまして。気の毒な事をしました」
「ああ、それはお気の毒に」
「それ以外は僕の身辺ではこれといった事はありません。自分で言うのも何ですが、プログラマーとしての才以外は特に取り立てた物も無く、あまり人付き合いの良い方では無いので恨みを買うような覚えもありませんし」
「そうですか。ずいぶんご立派なお屋敷に住んでいますし、お金に困ったご様子もありませんね」
「ええ、家族が立派な家と財産を遺してくれましたので。プログラマーとしての仕事も順調ですし」
「なるほど、疑ってしまい申し訳ありません。ではこれにて失礼いたします」
「はい、僕も失礼しました」
「ふむ、まあこんなものかな」
「うーん。まあ最初の3人が怪しすぎましたし、あいつらの内の誰かですかね」
「そうだね。でもミステリの定石だと怪しい人ほど真犯人では無い物だよ」
「あー、確かに」
「ううむ。まあ帰ってゆっくり考えるとしようか。ああ、あそこにいる子達が例の神様だよ」
「あー、確かに高校生くらいに見えますね。可愛くて綺麗だけどやっぱ普通じゃない雰囲気ありますね」
「うん、まあ今は私達も取り込み中だし、たぶん彼等も仕事中だろうし声はかけないでおこう」
「ええ、そうですね」
「ああ、そういえば熱帯魚の餌が切れそうなんだった。すまないがちょっと熱帯魚屋に寄ってもいいかい?」
「いいですよ。先生アクアリウムもお好きですもんね」
そうして先生の馴染みの熱帯魚店に入った。
「ああ、いらっしゃい先生。だるま君も」
「こんにちは。ここ色んなお魚がいて綺麗ですよね」
「うん、全国各地から輸入しているからね。アレな改造熱帯魚もたまに取り扱うし」
「こ、怖い」
「ではこの餌をお願いします。ああ、今日はだるま君もいるし不要なんですが、金魚もまた少し増やしたいですね」
「ああ、でしたらこの金魚なんか丈夫だしおすすめですよ。少し値は張りますが」
「いいですね。おや、こちらの水槽の金魚はずいぶんお安いですが」
「ああ、こちらは大型魚の餌用の駄金ですよ」
「………!」
先生は何かを閃いたようだった。
買い物を終えた後すぐに、僕達はまた青年の家を訪ねた。
「おや、先生にだるまの子。またどうされたのですか」
「…あなたが、犯人だったのですね」
「…え、何を言うんですか」
「大型魚の餌に、金魚を与える事があります。…あなたが飼っていたのは、普通の魚ではなく人魚でしょう」
「……!」
「に、人魚!?」
「ああ、まあ神様だの妖怪だの普通にいる町だから、珍しいが当然いるよ」
「そ、そうでしょうね」
「僕も直接見た事はほとんど無いがね。この辺りの海辺にも稀にだが現れると聞いた事がある」
「へ、へえ」
「それで、あなたは理由は分かりませんが、彼女に餌を与えている時に殴打し殺害し、バラバラにし死体を隠蔽したのでしょう」
「…ええ、その通りです」
観念したように青年は静かに語り始めた。
「…僕は昔から人付き合いが苦手で、当然女性関係も恐怖心があり長年恋人のいないまま人生を送ってきました」
「そんなある日、海辺でまだ稚魚の彼女を見つけ、最初は単なる物珍しさから持ち帰り飼育し始めたのです」
「…しかし美しく成長していくうちに、僕は彼女を恋愛対象として見るようになりました。当然人魚なので性行為は出来ませんでしたが」
「…彼女も僕を慕い愛してくれ、良く魔性の歌を歌ってくれました。…しかしある時、珍しく人間の優しい女性と出会い、しばらく後に相思相愛になり、結婚も考えるようになりました」
「そして人魚の彼女に詫び、別れを告げますが彼女は聞き入れてくれませんでした。悲しいが拒絶するなら、呪いの歌を歌うとも言われ、それ以上何も言えませんでした」
「…しかし人間の彼女を捨てたくもなく、ある日とうとう思い余って、彼女が餌の金魚を食べている隙に後ろからバットで殴り殺してしまいました」
「…死の間際の、彼女の信じられないような物を見る目がずっと忘れられません」
「…結局、罪の意識からその後人間の彼女とも別れてしまい、私は空虚に過ごす事になりました」
「…なるほど。殺害は肯定できませんが、あなたの苦悩も分かります。…それで、彼女の魚の部分はどうされたのですか」
「…初めはそのまま海に捨ててしまおうかとも考えましたが、罪を一生背負って生きて行こうと思い、焼いて全て食べてしまいました」
「…ああ、そうでしたか」
「…はい、僕はもう永遠に、彼女を殺した罪を背負って生きて行きます」
僕達は静かに青年の家を後にした。
「人魚には戸籍が無いから、罪には問われないね。せいぜいペット殺しとして器物損壊程度かな」
「…でも、あの人も可哀想ですね」
「ああ、彼も根底は悪人では無いだろうからね。だからこそ自ら不死を選んだんだろう」
「…いつかは、幸せになれると良いですね」
「まあ未来永劫生きるのだから、その内は幸せになれるだろう」
「そうだと良いですね」
そうして僕達は帰宅し、刑事さんに事の顛末を伝えた。
後日。
「あ、先生。刑事さんからこの前のお礼に美味しいお魚を色々頂いたわ。早速お刺身や干物焼きにするわね」
「ああ、嬉しいね」
「わーい。人魚事件の後だとちょっと複雑だけど」
「やあ、君も猟奇なアレ事件にずいぶん慣れてきたね」
「はい、アレ事件怖いけど楽しくなってきました」
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