上 下
13 / 19

相方と一緒に映画を観るパイロットの子

しおりを挟む
「おーし、今日も無事ミッション完了!」
「200機くらいいたけどこっちほぼ無傷だし、友軍も皆無事で良かったね」

「うん、自己修復機能でこの程度余裕だし。んじゃ帰還っと。今回かなり早く終わったけど今日これからどうする、またそういう事する?」
「んー、今回楽勝すぎてそんなにそういう気分にならないかな。…その、先週やったばっかだし」
「あーうん、そうだったね。最近お前結構ムラムラしやすいもんね。まあお年頃だし仕方ないって」


「…う、うんそうだね。なんか自分でも恥ずかしいけど。あーじゃあ眠くもないし、なんか適当に映画でも再生してもらえる?」
「うん、良いよ。ジャンルどうする?ここの奴大概みんなそうだけど、お前過去がアレだしあまりに陰惨なのは好きじゃないよね」
「んー、そうだね。最近幸せだし多少は平気だけど、あまりにえぐいのや救いが無いのは嫌かなー。頭からっぽにして観れるような奴でお願い」

「うん、分かった。じゃあもう何世紀も前の作品だけど、この名作アクション映画にしようか。当時にしてもツッコミ所満載だけどそれもそれで良いよね」
「ふーん、僕その作品観た事ないや。アレな事されてる時はクソ悪趣味な物しか観れなかったし、売り飛ばされる前もド貧民で映画とかテレビほとんど観れなかったからさ」

「あー、そうだよね。俺もアレ実験される前はそんな感じだったし。一応テレビはあったけど俺の国相当アレだから超偏った思想のプロパガンダ放送ばっかだったし」
「あー、お前の祖国そういう超社会主義国家だって言ってたもんね。それもそれで気の毒だよね」

「うん、俺が救助された時もアレ実験指揮した最高指導者の立場強すぎて公表出来なくて、そいつそのまま数十年間統治してたっていうし。最後は天罰下ったのか、全身病魔に侵されてどうしようもなく死んでいって良かったけどね」
「そうだってね。アレ実験の成果も何も活かせなくて、最後は全身切り刻まれて生きてるだけの肉塊状態だったらしいね。いい気味だよね」
「やっぱ悪い事は出来ないよね。それで他国に亡命してた良識あるご家族が戻って来て指導者になって、社会主義も止めてかなり平和になったみたいで良かったよ。その頃には俺の家族みんな死んじゃってて、俺は連れてかれてそのまま死んだって思われてたらしくて家族には悪い事しちゃったけどね」

「それは気の毒だったよね。僕も売り飛ばされた後親がどうなったか知らないし似たような感じだけどね。一応保護された後研究員さん達が調査してくれたらしいけど、やっぱり最低な身分で治安もかなりアレな国だったし特定は出来なかったみたい。まあクソまでは行かないけどあんまり良い親じゃなかったし、そんなに未練も無いけどさ」


「そっかー、まあ今が良ければいいんじゃない?じゃあ再生するね。あ、俺邪魔だし引っ込むね」
「んー、でもお前と一緒に観たいしなー。あ、じゃあサブモニタで僕の横で観ててくれない?」
「うん、良いよ。じゃあはい、再生するよー」

そうして相方が小さめのサブモニタを起動し僕の横に並び、そのB級名作アクション映画は始まった。


「うわー、本当に頭悪いね。単純明快で良いけどさ」
「まあ頭からっぽにするのもたまには悪く無いよね。あーごめん、そういや手足ぶった斬られるシーンあるんだった。これトラウマ抉られない?」
「んー、まあ作り物だしこのくらいは平気。やられてるの悪い奴だしさ」
「そっか、なら良かった。この作品勧善懲悪で良い人は基本皆無事だから大丈夫だよ。あーショッピングモールの警備員とか夜中に品物強奪される武器屋の店主は気の毒だけど」
「あはは、そうだね」


そうしてツッコミつつ楽しく二人で視聴し、その頭の悪い退役軍人無双映画は終わった。

「あー面白かった!確かにツッコミ所満載だけど後味良いし楽しかったね」
「うん、俺もこれ好き。大昔だけど俺の故郷の前身国の敵国が作った映画だから、ここ来るまで観れなかったしさ。情報統制されまくっててここ来るまで本とかもろくな物読めなかったし」
「あー、超社会主義国家ならそうなっちゃうよね。気の毒に。僕もここ来るまで最低限の読み書きしか習えなかったし、拾った本とか新聞くらいしか読めなかったけどね」

「底辺育ちだとそうなっちゃうよねー。ここ来てからは色々教養も与えられて、好きなだけ本も読めるし良かったね。…この映画、俺が昔乗り込んで間もない頃あいつと何となく観て、バカバカしいけど凄く楽しかったから思い出深いんだよね。その頃まだアレ実験のトラウマとか残っててかなり鬱だったんだけど、この映画観たら初めて心の底から笑えてさ。それから俺元気になれたんだよね」
「…そっか、それは良かった」

「うん、笑ってる俺見てあいつも嬉しそうだった。あいつ本当に優しい良い奴だから、この映画の悪役がやられてるの見てもちょっと気の毒そうにしてたんだけどね」
「そうなんだ、お前の元相方本当に優しいもんね。今度また会いに行こうね」
「うん、ありがとねー。あいつも本当大変だったけど、今は元相棒の子と幸せそうにやってて良かった。あ、もうそれなりの時間だし夕飯来たから食べよ。ふーん、今日はお前の国の郷土料理かー」

「あー、羊肉焼いたやつか。懐かしいなー。クソ奴隷時代は結構食べたけどやっぱ美味しく感じられなかったなー。もう平気だけどさ」
「そっか、なら良かったよ。じゃーほら口開けて」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...