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相方が戦死してしまったパイロットの子

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「あー、そろそろ敵の本拠地だね。気を引き締めて行こうね」
「うん、ここまで遠征するの久々だね。結構広大な土地だね」

「だね、半年くらいぶりかな。あの時も結構大変だったけど俺達は無傷で良かったよね」
「うん、相手400機くらいいたけど友軍も大半無事だったし。僕達もうかなり強いよね」
「ねー。数年前お前がここ来た時は本当大変で気の毒だったけど、もうすっかり元気で良かったよ」


「そうだね。僕の暮らしてた島、平和だったけど知らないうちに某国の実験場にされてたみたいで。ある日突然超強力な爆弾が落とされて島中ほとんど壊滅しちゃったんだよね」
「…うん、ここに運び込まれて来た時のお前、手足吹っ飛ぶだけじゃなくて全身大火傷で本当に可哀想だったから。火傷は数週間で完治して良かったけどさ」
「…うん、目が覚めて手足無くて、家族や友達もみんな死んじゃったって知った時は本当に辛かった。…助けてくれた人達には悪いけど、しばらく後追いしようかと思ってたし」

「…突然そんなになったらそうも思っちゃうよね。俺も昔似たような感じだったからカウンセリングとかして、倫理的には微妙な所だけど接続された装置とか色々応用してなるべく楽になれるよう頑張って支えたけどさ」
「お前も昔大変だったのに、ずっと支えてくれてありがとね。おかげで数か月したらだいぶ元気出て、前向きになれたよ」

「良かった。まあ俺は徴兵されて、相当強引なものの一応合意の上で激戦地へ特攻覚悟で向かわされて、爆撃受けて全身めちゃくちゃになった訳で覚悟はしてたけどさ。一家から一人兵に出せば良かったんだけど病弱な父さん行かせたく無かったから、ほんとは年齢満たしてなかったけど歳ごまかして俺が代わりに行ったんだよね」
「うん、家族の為に偉いね。大怪我したからご家族にはずっと年金入ったらしいしね」

「だね、お陰で父さんもちゃんと病院にかかれて結構長生きできたみたいで良かった。手紙昔の相方に代筆してもらってやりとりはしてたけど、こんなになってるって知ったら悲しませちゃうからもう会えなかったけどさ。…お前は天涯孤独になっちゃったから本当辛かったよね」
「…そうだね。でもお前がずっと一緒にいてくれたから、僕すごく救われたんだ。本当にありがとね」
「うん、どういたしまして」

「で、だいぶ元気になった頃に恋人になって欲しいって僕から告白したんだよね」
「そうだったねー。驚いたけど嬉しかった。お前可愛いしね」
「うん、ありがと。昔はどっちかというと僕女性の方が好きだったんだけどね。まあこんな事あったら価値観も変わるよね」


「うんうん、人生長いしそんな事もあるって。あ、レーダーに敵機反応出た。ここいわゆる大昔の実験施設跡や不法投棄場で、そこに打ち棄てられた機械達が自己増殖して国みたいなのを作り上げちゃったんだよね」
「そうだってね。それで長い間暮らしてるうちにそいつら自分達を普通の人間だと思い込んで生活するようになって、僕達人間を異形の敵と認識して容赦なく襲い出したから討伐令が出されたんだよね」

「人間だと思ってる奴等には悪いし向こうも向こうの事情があるのは分かるけど、俺達も殺される訳にはいかないもんね。やっぱり自己改造を繰り返してる機械だからかなり手ごわいらしいけど頑張ろうね」
「うん、友軍かなりいるし、装備も強力なのたくさん積んで来たからきっといけるよ。僕達最高のコンビだしね!」


そして地上や地中から次々に兵器や戦闘機達が飛び立ち、僕達は無数の敵機に囲まれた。

「…うわ、予想以上の規模だな。800機は確実にいるな」
「…うん、気を引き締めて行こう。メカニックさんや補給部隊も後方で控えてくれてるし」

そうして敵軍が一清掃射を始め、僕達も全力で回避し応戦した。


それから数時間後。

「…良かった。損傷率かなりまずいけど、もう敵反応無いよ」
「…そっか、良かった。もうほぼ弾切れだし燃料も危ないし、これ以上来たらやばかったね」

「うん、間違いなく今までで一番難度高かったね。俺達本体は無傷で良かったけどさ。…え」
「…え、どうしたの」

「…待って、すごいエネルギー反応がある。何、これ」

瓦礫の中から半壊した小型のロボットが現れ、そいつは全身からアームを伸ばし周囲の兵器や戦闘機の残骸を次々に取り込んで行った。

「…うわ、これが自己増殖と改造機能か。まずいな。早く止めなきゃ」
「…でも、弾ほとんど残ってないし、補給に戻ってる暇ないかも。…友軍もかなり撃墜されちゃったし」

どうしようか戸惑っているうちにそいつは壊れたパーツで作ったので歪ではあるが、かなりの大きさの人型兵器になった。


《…オ前達に、僕達ノ大切ナ町ヲ壊サセハシナイ。醜イ化物共、ココデ皆死ンデモラウ》

そいつは少年のような声色の合成音声でこちらに通信をして来た。

「…お前もお前の正義があるんだろうけど、可哀想だけど人を襲うお前達を放置してはおけない」
「うん、僕もまだまだ生きられるし、ここで死ぬわけにはいかない」

《化物ト和解出来ルナド毛頭思ッテイナイ。話ハ終ワリダ、コノ全エネルギーヲ賭シタ主砲デ消エ失セロ》

「…まずいな。今の損傷度であの主砲喰らったら間違いなく俺達消し飛ぶ。弾もほとんど残ってないし破壊は難しいな」
「…うん、でもウイングもかなり損傷してるし逃げ切れるか怪しいよね。…どうしよう」


「大丈夫、お前は絶対に守る。脱出ポッドすぐ起動するから、お前はそれに乗って離脱して」
「…え、でもそしたらお前どうなるの。もうほとんど攻撃手段無いのに」

「…爆発出来る程度の燃料はまだ残ってるから、エネルギー炉を暴走させてそのままあいつの心臓部に突っ込む。あいつも急場凌ぎの寄せ集めボディだし、たぶん吹っ飛ばせると思う」
「…でも、そんな事したらお前も」

「うん、でも俺の本体格納してあるブラックボックスの外装は相当堅いから、たぶんどうにか耐えられると思う。落ち着いたらピックアップしてもらうから平気だよ。機体吹っ飛ばしちゃってメカニックさん達には申し訳無いけどね」
「…でも、万が一の事があったらどうするの。やっぱり僕一人で逃げるなんて出来ないよ」

「…気持ちは嬉しいけど、お前に死なれるのが俺一番辛いから。…お願い。お前は何があっても生き延びて、しっかり幸せになって」

「…嫌だ、お前を置いて行けない」


その時、強力なエネルギー砲が発射されてしまった。

「…まずい、全エネルギーを使用しバリア展開」
「え、嘘、そんな」


「…お願い、生きて。ずっと、お前の事大好きだよ」

意識を失う前最後に見えたのは、全てのアームを僕の方に伸ばし、ひび割れたモニタの中で微笑むあいつの姿だった。



それから。

意識を取り戻した僕は、研究所の集中治療室にいた。

「…良かった。非常に危険な状態だったがもう峠は越したよ」
「…あの、あいつはどうなったんですか。敵はどうしたんですか」

「……」

研究員さんは沈痛な面持ちで、静かに語り始めた。

「…君達を襲った敵機は、主砲の反動に耐え切れず間もなく自壊した。もう再生も不可能な状態だから問題無い。本当に良くやってくれた」

「…はい、あの、それであいつは」

「…彼は君をあらゆる装置を使用し庇い、わざと装甲の堅いブラックボックス格納部を敵に向けた。…それですぐにブラックボックスも回収したが。…残念だが」


「…外装部は激しく損傷し、…内部の彼も、もうどうしようもない状態だった」

「…っ」


「…僕のせいだ。あいつの言った通り、すぐ離脱してればこんな事にはならなかったかもしれないのに」
「…いや、君のせいでは無いよ。彼の判断は的確だったがそれでもリスクが大きいし、大事な相棒を置いて離脱出来ないのも理解は出来る」

「…でも、僕が。僕がいなければあいつも自分のためにバリアを使えたのに」
「…自分を責めるのはやめなさい。彼も君を守れて本望だろう。…すぐには難しいかもしれないが、パイロット時代のデータは十分残っているから疑似人格データを作成し、アンドロイド化を試みるから」
「…はい、お願いします」

「…辛いだろうが、今は療養に努めなさい。君はとても良くやってくれたし、処罰などは一切無いからね。…当然喜べる心境では無いだろうが、脅威を排除した事で平和勲章も貰えるだろう」
「…はい。…あの、こういう場合次のAIはどうなるんでしょうか」

「ああ、君達の件を知った後先代のAIをやっていたアンドロイドの子が名乗り出てくれてね。特例でAIをまた勤めてくれるから大丈夫だよ。彼も気さくで良い子だから安心すると良い」
「…そうですか。…あの、その人には申し訳ないのですが」

「…ああ、どうしたんだい?」


「…お願いします。僕を、すぐにAIにして下さい」

「…君の気持ちも分かるが、先ほども言ったが君のせいでは無いし自分を責めるのはやめなさい。君は手足が無く大火傷を負ったとはいえ、健康状態は問題無いしまだ当分生きられるのだから」

「…でも、僕自分が許せません。あいつの言う通りにしなかったせいで、あいつに最悪な事をしてしまったから」

「…まだ君の傷が癒えるまで当分かかるし、機体もほぼ全壊したから修復まで相当かかる。…それまではゆっくりして、落ち着いて考え直しなさい」

「…はい」


それから数か月経ち、僕の傷は癒え機体も修復が完了した。

だが、僕の気持ちは一切変わらなかった。

「…ずっと考えましたが、やはり僕はAIになりたいです。…どうかお願いします」

「…相棒の彼は、それを望んではいないと思うが。本当に後悔しないかい?」
「はい、大丈夫です。お願いします」

研究員さん達はその後何度も説得して来たが、最後には折れて了承してくれた。

「…分かった。そこまで決意が固いなら我々も止められない。―では、手術室に行こう」


そうして僕は脳髄を摘出され機体に組み込まれ、AIとなった。

「無事に移植は終わったよ。動作は問題なく出来るかい?」
「…はい、大丈夫です。ありがとうございます」

「それは良かったよ。…当然すぐには役目を果たせる精神状態では無いだろうし、慣れるまでしばらくゆっくりしていなさい。まだ次期操縦者となる子も見つかっていないしね」
「…はい、そうします」


研究員さんが去り保管庫に安置された僕は、ずっとあいつとの会話データを再生したり一緒に観た映画や番組をぼんやりと見ていた。

「…本当に、ごめんね」


それから少しして、可哀想な状態となっていた子が保護され次のパイロットとなった。

その子が乗り込んでから数か月後。

「…君、乗り込んだ直後は本当に気の毒な状態だったけど、最近かなり元気になってくれて良かった」
「うん、ずっと励ましてくれてありがとう。カウンセリングや接続された装置応用して色々処置してくれたし。何でも出来て君すごいよね」

「…うん、昔の経験があったから」
「…そうなんだ。君も色々あるんだね。…あのさ」

「うん、どうしたの?」

「…君、優しいけど時々すごく辛そうだよね。何か悩みとかあったら言ってくれないかな。僕はカウンセリングとか出来ないし、体がこれだから大した事は出来ないけど、話だけなら聞けるから」

「…ありがとう。でも大丈夫だよ。君にこれ以上辛い思いさせたくないし。何度もひどい事されて死にかけただけじゃなく、一緒に暮らしてた子があんな酷い状態にされてさ。…最近ようやくサイボーグ化完了しそうって聞いて良かったけど」
「…うん、そうだね。あの子本当に可哀想だった。…でも僕は最近結構余裕出て来たし、何かあったらいつでも言ってね」
「…うん、ありがとう」



それから更に少し後。

「ただいま」
「あ、お帰り。お散歩楽しかった?」

「うん、庭のお花綺麗だしね。…あの、それでさ」
「…どうしたの?」

「…ごめん、研究員さんにお願いして聞かせてもらったんだけどさ。君も少し前までパイロットやってたんだってね」

「…ああ、うん。そうだよ」

「…手足無くしてここに来るくらいだから当然辛いだろうけど、君見てるとそれだけじゃ無い感じがするんだよね。…君にはずっと助けてもらってすごく感謝してるしさ、昔何があったのか教えてくれないかな。流石に研究員さんもそれ以上は教えてくれなかったから」


「…」

「…そうしたら、君にも重い物を背負わせちゃうよ」

「…いいよ。そういうのとも違うけど君の事好きだし、君の事ちゃんと知って、手足無いなりに支えになりたいんだ」

「…分かった。ありがとね。…少し前にさ」



「…ああ、そうだったんだ。大変だったね」

「…うん、言われた通りに逃げなかったの、ずっと後悔してる」

「…仕方ないよ。僕も同じ状況だったら、素直に逃げられなかったと思う」

「…うん、研究員さん達もそう言ってくれた。でも、あいつを死なせちゃった自分がずっと許せないんだ」
「…大事な戦友で恋人だし、そうなっちゃうよね。…でもその子も、きっと君を守れて本望だったと思うよ」

「…ありがとう。そうだと良いな」


それから更に数か月経ち、僕がAIとなってから1年が過ぎた頃。

「…君、本当に待たせたね。あの子のアンドロイド化に成功したよ」

ある朝、研究員さんがそう伝えに来てくれた。

「…良かった。本当にありがとうございます」
「うん、良かったね」

「…当然だがパイロット時代のデータしかサルベージ出来なかったので、君との思い出は完全に飛んでしまったのが残念だがね。…彼も君に会いたいと言っていたので、間もなく来ると思うよ」

「…そうですか、分かりました」

「…じゃあ、たぶん二人きりで話したいよね。僕研究員さんに適当にどこか連れて行ってもらうから、気にせずゆっくりして」
「…うん、ありがとね」


そうしてパイロットの子は研究員さんに連れられて行き、間もなくアンドロイドとなった彼はやって来た。

「…アンドロイドとしてだけど復活出来て、本当に良かった」
「あー、久しぶりなんだよね。…全く覚えてなくてごめんね」

「…データ残って無いんだし仕方ないよ。僕、お前…いや、君に最低な事しちゃったしさ」
「んー、俺が死んだ時の事聞かせてもらったけど、その状況じゃ仕方ないと思うよ。俺がそっちの立場だったらやっぱりすぐには逃げられないと思うしさ。…で、君と俺って恋人だったんだよね」

「…うん、そうだね」

「大事な恋人守れて死んだんなら、俺本望だと思うよ。家族守るために仕方ないとは言え昔特攻させられて死にかけた時はやっぱ嫌だったし、それよりはずっと良いよ」
「…そっか、ありがとう」

「でさ。折角また会えたんだし、改めて恋人になろうよ。記憶は全く無くて悪いけど、君確かに可愛くて俺のタイプだしさ」

「…こんな僕で、いいの?」

「うん、いいよ。命懸けで庇ったって事はすごく大切な存在だったろうしさ。君の事改めて知りたいんだ」
「…うん、ありがとう。嬉しい」

「でさ、研究員さんから聞いたけど君、俺死んだ後からずっと自分を責めて自らAIに志願したって事だったけどさ。俺アンドロイドとしてだけど生き返れたし、もうそんなに自分を追い込まなくて良いよ。すぐにって言っても難しいかもしれないけどさ、これから少しずつ楽になりなよ」
「…うん、ありがとね」

「あー、手足無い操縦者想定の設計だから仕方ないけど、普通の体だとこのコックピットちょっと狭いなー。でさ、たぶん恋人って事は何度かしてると思うし、再会記念にキスしようよ。そっちモニタで悪いけどさ」
「…うん、良いよ。ありがとう」


そして僕と彼はキスをし、通信するしまた来るから、と言って手を振って帰って行った。

「ただいま。…君、泣いてるの?」
「…ちょっと、気持ちがぐちゃぐちゃになっちゃって。…でも、また会えて本当に良かった」

「…うん、本当に良かったね」



それから数十年後。

「久しぶり。通信はよくしてたけどね」
「うん、直接会うのは結構久々だよね。長い間お疲れ様」

「ありがと、頑張ったよ。…担当してた子保護されるまで相当ひどい目に遭ってたから、40歳そこそこで死んじゃったのが気の毒だったけどね。もっと長生きさせてあげたかった」
「そうだね。でも研究員さんやその子から直接聞いたけど、助かっただけで幸運だって言ってたし、救出されてからはずっと幸せそうで満足してたし良いんじゃないかな」

「…うん、あの子もそう言ってくれた。早くお前と過ごさせてあげたいってよく言ってたし。AIになってから、相方の子とずっと楽しそうにやってて良かった」
「うん、俺達ここに来る時は散々だけど、皆それからは上手くやってるし、最終的には不老不死のアンドロイドになれるんだから大丈夫だよ。でさ。これからお前どうしたい?」

「うーん。僕過去がアレだしもう散々戦闘したし、折角の戦闘力活かさなくて申し訳ないんだけど、当分は静かな所でお前とゆっくり暮らしたいかな」

「あー分かる、俺も同じ。戦闘も楽しかったけどお互い過去がアレだもんね。じゃあどっか適当な安全な国で、小さい家でも建ててのんびり過ごそうよ。俺パイロット時代は結構長く働いてたし、あの機械集団倒した功績でかなり高額の報奨金もらったし家くらいは十分買えるよ」
「そうだね。僕も退役した時それなりの金額貰えたし少しは出すよ。あーでもトラウマ抉られるから南の小島とかはちょっと止めて欲しいかなー。もうかなり前の話だけどさ」


「あーうん、だよね。んじゃどっか落ち着いた森の中にでも可愛い家建てて暮らそうか」
「ふふ、そうだね」
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