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魔法少年だるま☆マギカ セカンドシーズン
番外編 考古学者が邪神を封印した時の事
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1980年代初頭の事。
普段は某国のそこそこの有名大学で考古学教授として教鞭を取る俺だが、時折自主的だったり依頼を受けて世界各地へ調査に赴く事があった。
今回は依頼を受け、俺の祖国の領土である常夏の小さい島を訪れていた。
「へえ、ガキの頃に一度来た事があるが随分と現代的になったな。あの頃は本当にド辺境の田舎島って感じだったもんだが」
四半世紀程前より随分と様変わりしすっかり観光地化したその島に驚きつつ、俺は予約していた小さなホテルにチェックインした。
そこも昔の印象があったのであまり期待してはいなかったが小綺麗で設備もしっかりしており、良い意味で裏切られた。
「ここ、昔から飯は美味かったからな。こいつは期待出来そうだ」
食い意地の張っている俺は嬉しくなり、どこで食事をとろうかうきうきと考えながらフロントからタクシーを呼んでもらい、依頼者の元へ向かった。
「お初にお目にかかります。あなたがこの辺りの地区を取り仕切っている方ですね」
「遠路はるばるお越しいただきありがとうございます。ええ、市長は別ですが実質的な権限は私にありますな」
少し後、俺は島の中心街にあるビルの一室で依頼者に挨拶していた。
「そうですか。かなり小さい頃ですが私もこの島には訪れた事があるのですが、その時より随分と発展していて驚きました」
「ははは、そうでしょうな。貴方が小さい頃ですとまだ戦火の傷もようやく癒えたくらいの頃の事でしょうしな」
「ええ、あの大戦で激戦地だったここでは相当の血が流れたそうですしね。…では、依頼の件についてくわしくお聞かせ頂けますか」
「分かりました。…古くから様々な国に統治されて来たこの地はやはり多くの非業の死を遂げた無辜の民がいるのですが、いつしかそうした救われない魂が一点に集まり、かつての人々とはかけ離れた恐ろしい悪霊と化してしまったのです」
「ああ、例の大戦前からこの島は様々な国の手を渡ってきましたからな」
「…元々は悲惨な死を遂げた気の毒な霊たちですので、我々も神殿を作り、その悪霊を神として丁重に祀り慰めておりました。ですが年々その霊も凶悪になり、罪無き人々を呪い殺すようになってしまいました」
「ふむ、それは厄介ですな」
「元は我々の同胞と思うと気は進みませんがこれ以上犠牲者を出す訳にもいきません。…本業と異なるのは承知の上ですが、貴方は様々な怪奇事件やトラブルを解決して来たトレジャーハンターとしても優秀とお聞きします。どうかその邪神を討伐して頂けないでしょうか。お礼は可能な限り致しますので」
「…分かりました。確かに私は教鞭を取るよりも外で謎を解き明かす方が性に合っていますな。幼少期から色々あってそれなりに荒事慣れしていますし。では、ひとまずその神殿の場所を教えて頂けますか」
「ええ、こちらの地図をどうぞ。神殿や怪奇現象が頻発する地点に印をしております。後は随分久しぶりとの事ですので、こちらの公式ガイドブックもどうぞ」
「ああ、助かります。では失礼します」
「どうかよろしくお願いします。期待しておりますよ」
そうして俺はビルを後にし、腹が減って来たのでどこかで食事をとろうと市街地を歩いていた。
「ふーむ、すっかり観光地化したお陰でかなり色々な国の料理屋があるな。こういう場合は中華が外れないだろうが、せっかくだし民族料理も食いたいな。どうするかな」
「おっとぶつかっちまった。おっちゃんごめんよー」
小汚い身なりの少年が俺にぶつかって来て、謝ってさっさと通り過ぎようとしたので腕をつかんで捻り上げた。
「いてててて、おっさん何すんだよ、謝ったろ」
「のんきな観光客ならともかく俺の目は騙されねえぞ、さっさと返しやがれこのコソ泥坊主。あと俺はまだ34だ、おっさんって歳じゃねえよ」
財布をスリ取った少年の腕を更に強く捩じ上げ俺は凄む。
「ご、ごめんごめん勘弁してお兄さん。いやカウボーイ気取りか知らないけどこの暑いのに中折れ帽とレザージャケットなんて着てるから浮かれポンチかと思ってさあ」
「これは俺の仕事着みたいなもんだ、こう見えてそれなりに修羅場も潜ってるから浮かれちゃいねえよ。ほらさっさと返さねえと警察突き出すぞ」
「痛い痛い、返すからやめてって。まあ見ての通り俺ろくな身分じゃねえから勘弁してよ。前科ついたらこの暢気な島とはいえ暮らし辛くなるしさあ」
スリの少年は財布を返しぺこぺこと謝った。
「ったく、俺もナメられたもんだ。だがこの衣装は変えたくねえしどうするかな。次やったら本気でぶん殴るからな。ほらさっさと帰れ、家くらいはあるだろ」
「うー、まああるにはあるけどスラム街の相当ボロ家で母ちゃんは毎晩男漁りに行ってるし、父ちゃんは数年前病気で死んじまったしろくな食い物無くていっつも腹減ってひもじいんだよ。なーお兄さん、良い店教えるから何かの縁と思って奢ってくれよ」
「全く図々しいガキだな。ぼったくり店とか紹介したらただじゃおかねえぞ。郷土料理が食いてえんだが近場にあるか」
少し後、少年に案内された現地住民が愛好する穴場的な店で俺達は食事をとっていた。
「ふむ、外装は少し汚いが確かに美味いな。会計時にとんでもない金額要求したりしねえだろうな」
「そんな事しないって。最近取り締まり厳しくなってそういう所ほとんど潰されたし。んでお兄さん考古学者兼トレジャーハンターなんだってね。すげえなあ」
「ああ、会社員とかは絶対性に合わなかったろうし天職と思ってるよ。かなりの異端児という事で学会のお偉方からは白い目で見られているがな」
「まあでもちゃんとした職あって、副業でもしっかり名声あるんだし良いじゃん。底辺で身のこなし以外何も無い俺からしたら尊敬するよ」
「お前も底辺とはいえ読み書きくらいは出来るだろう。確かに貧富の差はまだまだあるだろうがこの島も義務教育はあるし学校ちゃんと行けばもっとまともな生き方もあるはずだぞ。今からでも心を入れ替えるんだな」
「えー、でも俺勉強好きじゃねえしなあ。かなり昔だけど先祖が別の国の人で、たまにそういうのでイジメられる事もあったし」
「それは気の毒だが生まれは選べないし仕方ねえだろ。俺も家柄はそれなりで愛情はあったが親父が昔やらかしたせいで幼少期命狙われた事もあったしな。だがそれで世界を呪ったって何にもならねえよ」
「うっわー、学者さんも色々あったんだな。気の毒に」
「あー食った食った、ごちそうさん。じゃあほらさっさと帰ってこれからは真面目にやりな」
「えー、今帰っても母ちゃんウザいし面白そうだからついてって良い?この島は大体知ってるしさ」
「ったく、本当調子のいいガキだな」
そうして調子のいい少年に案内され、俺はひとまず近場の怪奇現象が多発する地点をいくつか巡り最後に島の少し外れにある邪神を祀った神殿に向かった。
「ふうん、ここが件の神殿か。独特の様式だな」
「あー、例の大戦中に統治してた国の神殿を模してるんだけど、大昔からの土着信仰も混じってこういう多国籍な感じになったみたい」
「なるほどな。ストーンヘンジと鳥居をミックスしたような門構えで興味深いな」
「うーん、俺こういう生まれだから神様とかあんまり信じてねえけど実際被害者結構出てるって話だし、殺されるのはやだなー。学者さん早く別の所行こうよ」
「悪いが仕事な以上そうもいかないな。少し写真撮ったりするから待っててくれ」
そしてポラロイドカメラで写真を撮影していた時、10名弱程の集団が現れた。
「えー、こちらがかの恐ろしい土着の邪神、ニャホニャホタマクロ―様を祀った神殿になります。先ほどバス内でお伝えした通り悲しい戦争や占領下で命を落としてしまった人々の霊が集まり変質したと言われており、丁重に祀り定期的にお供えや祈祷を行う事で呪いを鎮めております。決して神殿や周辺施設を傷つけたり、不敬な行いはしないようお気を付け下さい。…って貴方、ここは写真撮影禁止ですよ」
ツアーガイドと思しき女性がこちらに気付き、俺を咎めて来た。
「ああ、済まないな。俺はこの島の有力者から依頼され邪神を鎮めるためにやって来た学者だ。これがその人のサイン付きの依頼書だ。こいつで信じてくれるかい」
「…ああ、私も現地住民では無いですがそういう依頼を近日中にする予定とは上司から伺っています。そういう事でしたら仕方ありませんね。ツアーの皆様は軽い気持ちで写真撮影などはしないようお願いいたします」
「はーい」
「えー、折角妙なデザインの神殿なのに残念だなあ」
「邪神なら心霊写真写るかもしれないしね~」
「ですからそこの方々、そういう軽率な発言はお控えください。呪い殺されても知りませんよ」
「はいはーい」
「反省してまーす」
「うわー、こういう奴ホラー映画とかだと真っ先に死ぬよなー」
「ああ、典型的なフラグだな」
そうして撮影を終え、気になった事のメモなども済ませ少年が怖がっているので俺達はその場を後にした。
さっさと帰れと言い聞かせるも少年は何だかんだと付きまとい、結局そのまま夜になってしまった。
俺達は再び町の中心部に戻り、様々な屋台が立ち並ぶ広場で適当に美味そうな物を物色していた。
「あー、このケバブくれるかい。2つな」
「ハイハイ、30ダラねー」
「いや、観光地とはいえこの島の物価的にぼったくり過ぎだろ。せいぜい5ダラが限度だ」
「あー学者さん、こいつ現地民には1つ1,5ダラで売ってるからもっと強気で良いよ」
「ちょっとお前、折角のカモなんだからネタバレやめろ。残飯しょっちゅう漁ってくクソガキのくせに」
とか和やかなやりとりをしていると、また昼に出くわしたツアーの一行がやって来た。
「はーい、こちらが屋台広場になりまーす。観光客にえげつないぼったくりしてくる悪質な屋台もあるので気をつけて下さいねー。怖いならホテル内のお店を使うのが無難でーす」
「はーい」
「へえ、仕事とはいえこんな夜まで感心だな」
「ああ、昼間の方ですか。まあこの島もガイドも好きですので苦ではありませんよ。やっぱり時折アレなお客様はおりますが、それは仕事ですし割り切っています。昼間のアレな発言していた人達はホテルで休むと仰られて今不参加ですし」
「そうかい、それならまだ良かったな」
だがその時、広場に灯されていた明かりや松明が全て消え、禍々しい気配に包まれた。
「え、何事でしょうか。停電は結構起きますが火も消えるのはおかしいですね」
「…こいつは、まずい雰囲気がするな」
「ちょ、学者さんあれ見て、なにアレ」
黒い靄のような物が空から舞い降りどんどんと形を作り、巨大なトロピカルな悪魔のような禍々しい怪物になった。
「…こいつ、例の邪神か。しかし昼間見た時は気配はしなかったのに、何でまたいきなり」
「ひ、ひえええ。邪神とかマジでいたんだ」
「え、えええ。皆様危険だからお逃げくださーい」
その邪神はもぐもぐと口を動かしていたが、ガムのようにペッと何かを2つ吐き出した。
「…こいつは」
「ぎ、ぎゃああああ」
「…れ、例の昼間アレな発言をしていたお客様」
それは昼間のフラグ全開な言動をしていた観光客の、恐怖に満ちた表情の生首だった。
「…コノ不遜ナ馬鹿共ハ許センガ、コイツラガ酒ニ酔ッテ神殿を破壊シタオ陰デ外ニ出ル事ガ出来タ。血肉ヲ喰ラッテ更ニ強ク実体ヲ得ル事ガ出来タシナ。折角顕現出来タノダ、コノ血生臭イ島丸ゴト破壊シテクレル」
「…ったくこの馬鹿共、余計な事してくれやがって」
「うっわー、予想通りフラグ回収したな」
「えーどうしよ、ツアー客で死人出ちゃった。まあこんなアレなお客様ならいいか」
「スリの俺が言えた事じゃねえが倫理観やべえな」
「まあ、この世界全体的に倫理観アレだし仕方無いだろう」
「…しかし、この巨体じゃ俺にも手が余るかもな。どうしたもんか」
「う、うーん。現地民のシャーマンとかもいるにはいるけど、結構離れた村に住んでるしすぐ連れて来るのは難しいかも」
「うーん、私もそういう特殊能力とか何もない普通のツアーガイドですし済みませんがお役に立てません。やたら男運だけはありませんが」
「大丈夫です。僕に任せて下さい」
その時突然、背後から声がした。
「…君は?」
「偶然活動でこちらの島を訪れていた者です。こういった事態には慣れておりますのでご安心を。皆様は一般の方の避難誘導をお願いします」
声の主は東洋人と思しき、10代後半くらいに見える少年だった。
「…分かった。しかし見た所武器など持っていないようだがどうするんだい」
「大丈夫ですよ。信じがたいかもしれませんが僕にはこういう力がありますので」
彼は懐から綺麗な宝石を取り出し天高く掲げた。
「リリカル・マジカル・メタモルフォーゼ」
呪文に呼応するように、宝石から美しい光が溢れ出し彼を包み、少年は魔法使いのような帽子とローブを着て手足の無い姿になっていた。
「…こいつは驚いたな」
「え、えええ。魔法使いとか本当にいたんだ。ってか何で手足ないの」
「…ええまあ、色々な事情とあと製作者の意向によりまして。魔法で手足出せるので大丈夫ですよ」
「いやどういう意向なのそれ」
「う、うっわー。み、皆様超展開ですがポカーンとしてないで早くお逃げくださーい」
プロ根性と適応力のあるガイドにより呆気に取られたツアー客や周辺にいた人々はすぐに避難させられ、周囲には俺達だけになった。
「…貴方も元は気の毒な人々ですが、罪も無い人を殺めるのは見逃せません。申し訳ありませんが封印させて頂きます」
「…貴様、邪神ネットワークデ聞イタ事ガアルゾ。《始まりの魔法少年》カ」
「ええ、いかにもそうです」
彼は魔法で美しい手足を出し、同じく異空間から取り出したステッキを振るった。
たちまちステッキから激しい光が溢れ出し、シリアスだが名前がアレな邪神を直撃した。
「…グウウ、コノママ封ジラレテタマルカ。…小汚クテ不味ソウダガ仕方無イ。貴様モ我ガ力トナレ」
「ひ、ひええええ」
苦しそうな邪神が巨大な黒い手を伸ばし、スリの少年を掴み大きな口を開けた。
「ご、ごめんなさいいい。もう盗みとか悪さしないで真面目に学校行きますううう。だから殺さないでええええ」
「その言葉信じますよ。これからは心を入れ替えて真面目に生きて下さいね」
魔法使いの少年が羽を生やし飛び上がり、再びステッキを邪神に振るう。
ステッキから今度は光の刃が飛び出し、邪神の手を一刀両断した。
「お、落ちるううう」
「大丈夫ですよ。それっ」
彼はスリの少年が落下した地点に素早く雲のようなクッションを生成し、少年を受け止めた。
「…あ、ありがとうございます。助かりました」
「いえいえ。盗みはアレですが事情があるのは察せますし、君はまだ十分更生出来るでしょうから。先ほど言った事忘れないで下さいね」
「は、はい。絶対守ります」
「…オノレ、コンナ性癖ガアレナ奴ニ生ミ出サレタ小童ニ負ケラレルカ。折角数十年前ニアノオ方ニ力ヲ授カッタノニ」
「…ああ、やはり貴方も例の彼が関わっているのですね」
「…例の彼とは?」
「…詳しく話すと長くなりますが、ある事情によりこの世界を憎み跡形も無く破壊しようと目論んでいた恐ろしい存在です。死闘の末どうにか一時撤退させる事には成功しましたが、いつかはまた確実に現れるでしょう」
「…俺もこういう邪神や世界転覆を目論む組織と数度ぶつかった事はあるが、そんなに恐ろしい奴がいるのかい」
「…ええ、彼もある意味気の毒な存在なのですがね。しかしアレとはいえ僕もこの愛する世界を滅ぼされる訳にはいきません。ですので今もこうして影響の残る地を巡り、残党を始末しているのです。…では、すみませんがとどめです」
彼はステッキを力強く振るい、美しく光り輝くペガサスのような聖獣を呼び出した。
聖獣はいななき邪神に突撃し、蹲る邪神にぶつかり周囲は激しい光に包まれた。
「…覚エテオケ。アノオ方がオラレル限リ、我モ不滅ダ」
「そうですね。…ですがいつかはきっと、未来を引き継ぐ者達が彼を完全に滅ぼしてくれると信じています」
そうして光が晴れると、広場の中心部には見慣れないトーテムポールが出来ていた。
「これで大丈夫でしょう。このトーテムポールの下に封印しましたので、絶対に動かしたり壊さないようお願いします」
「ああ、分かったよ。依頼者にすぐ伝えて、島中に周知してもらおう」
「は、はーい。私も上司やお客様に可能な限り伝えておきますね」
「お、俺も大した事出来ねえけど仲間とかに伝えとくよ」
「皆様、怪我は無いようで良かったです。…アレな人とはいえ、2人亡くなってしまったのは残念ですが」
心優しそうな少年は、自業自得なアレな奴らの生首を見つめ悲しそうに俯いた。
「…まあ、フラグ全開だったしこいつらは仕方無いだろう。邪神とはいえ神を軽視した報いだ。君が心を痛める必要はないさ」
「…ありがとうございます。しかし僕は長い戦いの中で辛い物もそれなりに見て来ましたので、もう可能な限り目の前で犠牲は出したく無いんです。…直接は関係ありませんが、大切な人を永遠に失ってしまった事もありますし」
「…そうかい。君も見た所まだ高校生くらいだろうに、苦労してるんだな」
「いえ、僕は魔法の力でかなり年を取りにくい体質なので見た目よりは長く生きていますよ。おそらく実年齢は貴方とさほど変わらないと思います。妻子もいますし」
「へえ、そうなのかい。魔法使いってのはすごいんだな」
「うわー、私も魔法使いとか初めて見ましたので記念写真撮っても良いでしょうか。あとお礼したいのでお名前やご住所教えて頂けますか」
「ああ、申し訳ありませんがあまり存在を知られたり素性を明かす訳にはいかないので、それはご遠慮いただけますか。家族に迷惑がかかるといけませんし。日本から来たとだけ言っておきます」
「あー、ですよねすみません。アメコミヒーローとかも大概素性隠しますもんね」
「ご理解頂きありがとうございます。まあ無理矢理写真撮ったりしたら速攻カメラ破壊して写真焼き捨てますが」
「こ、怖い」
「では、僕はこれで。色々と理不尽だったり悲しい事も多い世界ですが、皆様が幸せになれる事を祈っています」
そう言って彼は何処かへ飛び去って行った。
「…ふう、驚いたがアレな奴以外は全員無事で良かったよ。さて、夜で悪いが急いで依頼者に電話するかな」
「…ま、マジで死ぬかと思ったし完全漏らした。立ちションはするけど漏らすとか初めてなんだけど」
「うわー、仕方ないとはいえ汚いですね。早く帰ってお風呂入って下さい。では私もこれで」
そうして俺達は別れ広場を後にし、アレな奴等の生首は駆け付けた警察に回収された。
その後依頼者に顛末を包み隠さず伝えたが、存在や素性をあまり知られたくないという魔法少年の意思を尊重し、表向きは俺が邪神を封印したという事になった。
謝礼を受け取り俺はそれから間もなく島を後にしたが、その伝説は長い間語り継がれ、広場のトーテムポールは今も観光名所となっているらしい。
スリの少年は宣言通り非行を止め真面目に勉学に励むようになり、苦学しながら大学まで出て数十年後には立派な町長になった。
ツアーガイドの女性はやはり男運が相当無かったようで、数名の恋人と付き合うもことごとくアレで別れたり離婚もして男性不信になりかかったが、最終的には良い夫と出会い子宝にも恵まれ幸せな家庭を築いた。
それから更に長い年月が過ぎ、俺もすっかり老人と呼ばれる歳になり残念ながら頭頂部もかなりアレになったが好奇心は未だに衰えていない。
島の事件から数十年後のいわゆるインターネットが普及した頃、ハイテク系は苦手なので悪戦苦闘しつつもどうにか情報を閲覧できるようになった俺はあの時出会った少年について調べてみた。
やはり都市伝説のような物だったが、日本のある相当にアレな町の周辺で1960年代辺りに活躍し多くの人々を救っていたそうだ。
彼がかつて戦ったという恐ろしい存在については明確な情報が全く無かったが、邪神を圧倒した彼がそれ程に言うからには本当に強大な存在なのだろう。
俺とさほど変わらない歳で相当に老けにくいのであれば今もきっと元気でやっているだろうが、彼の憂いが晴れて本当に幸せになってくれるのをいつも心の片隅で願っている。
普段は某国のそこそこの有名大学で考古学教授として教鞭を取る俺だが、時折自主的だったり依頼を受けて世界各地へ調査に赴く事があった。
今回は依頼を受け、俺の祖国の領土である常夏の小さい島を訪れていた。
「へえ、ガキの頃に一度来た事があるが随分と現代的になったな。あの頃は本当にド辺境の田舎島って感じだったもんだが」
四半世紀程前より随分と様変わりしすっかり観光地化したその島に驚きつつ、俺は予約していた小さなホテルにチェックインした。
そこも昔の印象があったのであまり期待してはいなかったが小綺麗で設備もしっかりしており、良い意味で裏切られた。
「ここ、昔から飯は美味かったからな。こいつは期待出来そうだ」
食い意地の張っている俺は嬉しくなり、どこで食事をとろうかうきうきと考えながらフロントからタクシーを呼んでもらい、依頼者の元へ向かった。
「お初にお目にかかります。あなたがこの辺りの地区を取り仕切っている方ですね」
「遠路はるばるお越しいただきありがとうございます。ええ、市長は別ですが実質的な権限は私にありますな」
少し後、俺は島の中心街にあるビルの一室で依頼者に挨拶していた。
「そうですか。かなり小さい頃ですが私もこの島には訪れた事があるのですが、その時より随分と発展していて驚きました」
「ははは、そうでしょうな。貴方が小さい頃ですとまだ戦火の傷もようやく癒えたくらいの頃の事でしょうしな」
「ええ、あの大戦で激戦地だったここでは相当の血が流れたそうですしね。…では、依頼の件についてくわしくお聞かせ頂けますか」
「分かりました。…古くから様々な国に統治されて来たこの地はやはり多くの非業の死を遂げた無辜の民がいるのですが、いつしかそうした救われない魂が一点に集まり、かつての人々とはかけ離れた恐ろしい悪霊と化してしまったのです」
「ああ、例の大戦前からこの島は様々な国の手を渡ってきましたからな」
「…元々は悲惨な死を遂げた気の毒な霊たちですので、我々も神殿を作り、その悪霊を神として丁重に祀り慰めておりました。ですが年々その霊も凶悪になり、罪無き人々を呪い殺すようになってしまいました」
「ふむ、それは厄介ですな」
「元は我々の同胞と思うと気は進みませんがこれ以上犠牲者を出す訳にもいきません。…本業と異なるのは承知の上ですが、貴方は様々な怪奇事件やトラブルを解決して来たトレジャーハンターとしても優秀とお聞きします。どうかその邪神を討伐して頂けないでしょうか。お礼は可能な限り致しますので」
「…分かりました。確かに私は教鞭を取るよりも外で謎を解き明かす方が性に合っていますな。幼少期から色々あってそれなりに荒事慣れしていますし。では、ひとまずその神殿の場所を教えて頂けますか」
「ええ、こちらの地図をどうぞ。神殿や怪奇現象が頻発する地点に印をしております。後は随分久しぶりとの事ですので、こちらの公式ガイドブックもどうぞ」
「ああ、助かります。では失礼します」
「どうかよろしくお願いします。期待しておりますよ」
そうして俺はビルを後にし、腹が減って来たのでどこかで食事をとろうと市街地を歩いていた。
「ふーむ、すっかり観光地化したお陰でかなり色々な国の料理屋があるな。こういう場合は中華が外れないだろうが、せっかくだし民族料理も食いたいな。どうするかな」
「おっとぶつかっちまった。おっちゃんごめんよー」
小汚い身なりの少年が俺にぶつかって来て、謝ってさっさと通り過ぎようとしたので腕をつかんで捻り上げた。
「いてててて、おっさん何すんだよ、謝ったろ」
「のんきな観光客ならともかく俺の目は騙されねえぞ、さっさと返しやがれこのコソ泥坊主。あと俺はまだ34だ、おっさんって歳じゃねえよ」
財布をスリ取った少年の腕を更に強く捩じ上げ俺は凄む。
「ご、ごめんごめん勘弁してお兄さん。いやカウボーイ気取りか知らないけどこの暑いのに中折れ帽とレザージャケットなんて着てるから浮かれポンチかと思ってさあ」
「これは俺の仕事着みたいなもんだ、こう見えてそれなりに修羅場も潜ってるから浮かれちゃいねえよ。ほらさっさと返さねえと警察突き出すぞ」
「痛い痛い、返すからやめてって。まあ見ての通り俺ろくな身分じゃねえから勘弁してよ。前科ついたらこの暢気な島とはいえ暮らし辛くなるしさあ」
スリの少年は財布を返しぺこぺこと謝った。
「ったく、俺もナメられたもんだ。だがこの衣装は変えたくねえしどうするかな。次やったら本気でぶん殴るからな。ほらさっさと帰れ、家くらいはあるだろ」
「うー、まああるにはあるけどスラム街の相当ボロ家で母ちゃんは毎晩男漁りに行ってるし、父ちゃんは数年前病気で死んじまったしろくな食い物無くていっつも腹減ってひもじいんだよ。なーお兄さん、良い店教えるから何かの縁と思って奢ってくれよ」
「全く図々しいガキだな。ぼったくり店とか紹介したらただじゃおかねえぞ。郷土料理が食いてえんだが近場にあるか」
少し後、少年に案内された現地住民が愛好する穴場的な店で俺達は食事をとっていた。
「ふむ、外装は少し汚いが確かに美味いな。会計時にとんでもない金額要求したりしねえだろうな」
「そんな事しないって。最近取り締まり厳しくなってそういう所ほとんど潰されたし。んでお兄さん考古学者兼トレジャーハンターなんだってね。すげえなあ」
「ああ、会社員とかは絶対性に合わなかったろうし天職と思ってるよ。かなりの異端児という事で学会のお偉方からは白い目で見られているがな」
「まあでもちゃんとした職あって、副業でもしっかり名声あるんだし良いじゃん。底辺で身のこなし以外何も無い俺からしたら尊敬するよ」
「お前も底辺とはいえ読み書きくらいは出来るだろう。確かに貧富の差はまだまだあるだろうがこの島も義務教育はあるし学校ちゃんと行けばもっとまともな生き方もあるはずだぞ。今からでも心を入れ替えるんだな」
「えー、でも俺勉強好きじゃねえしなあ。かなり昔だけど先祖が別の国の人で、たまにそういうのでイジメられる事もあったし」
「それは気の毒だが生まれは選べないし仕方ねえだろ。俺も家柄はそれなりで愛情はあったが親父が昔やらかしたせいで幼少期命狙われた事もあったしな。だがそれで世界を呪ったって何にもならねえよ」
「うっわー、学者さんも色々あったんだな。気の毒に」
「あー食った食った、ごちそうさん。じゃあほらさっさと帰ってこれからは真面目にやりな」
「えー、今帰っても母ちゃんウザいし面白そうだからついてって良い?この島は大体知ってるしさ」
「ったく、本当調子のいいガキだな」
そうして調子のいい少年に案内され、俺はひとまず近場の怪奇現象が多発する地点をいくつか巡り最後に島の少し外れにある邪神を祀った神殿に向かった。
「ふうん、ここが件の神殿か。独特の様式だな」
「あー、例の大戦中に統治してた国の神殿を模してるんだけど、大昔からの土着信仰も混じってこういう多国籍な感じになったみたい」
「なるほどな。ストーンヘンジと鳥居をミックスしたような門構えで興味深いな」
「うーん、俺こういう生まれだから神様とかあんまり信じてねえけど実際被害者結構出てるって話だし、殺されるのはやだなー。学者さん早く別の所行こうよ」
「悪いが仕事な以上そうもいかないな。少し写真撮ったりするから待っててくれ」
そしてポラロイドカメラで写真を撮影していた時、10名弱程の集団が現れた。
「えー、こちらがかの恐ろしい土着の邪神、ニャホニャホタマクロ―様を祀った神殿になります。先ほどバス内でお伝えした通り悲しい戦争や占領下で命を落としてしまった人々の霊が集まり変質したと言われており、丁重に祀り定期的にお供えや祈祷を行う事で呪いを鎮めております。決して神殿や周辺施設を傷つけたり、不敬な行いはしないようお気を付け下さい。…って貴方、ここは写真撮影禁止ですよ」
ツアーガイドと思しき女性がこちらに気付き、俺を咎めて来た。
「ああ、済まないな。俺はこの島の有力者から依頼され邪神を鎮めるためにやって来た学者だ。これがその人のサイン付きの依頼書だ。こいつで信じてくれるかい」
「…ああ、私も現地住民では無いですがそういう依頼を近日中にする予定とは上司から伺っています。そういう事でしたら仕方ありませんね。ツアーの皆様は軽い気持ちで写真撮影などはしないようお願いいたします」
「はーい」
「えー、折角妙なデザインの神殿なのに残念だなあ」
「邪神なら心霊写真写るかもしれないしね~」
「ですからそこの方々、そういう軽率な発言はお控えください。呪い殺されても知りませんよ」
「はいはーい」
「反省してまーす」
「うわー、こういう奴ホラー映画とかだと真っ先に死ぬよなー」
「ああ、典型的なフラグだな」
そうして撮影を終え、気になった事のメモなども済ませ少年が怖がっているので俺達はその場を後にした。
さっさと帰れと言い聞かせるも少年は何だかんだと付きまとい、結局そのまま夜になってしまった。
俺達は再び町の中心部に戻り、様々な屋台が立ち並ぶ広場で適当に美味そうな物を物色していた。
「あー、このケバブくれるかい。2つな」
「ハイハイ、30ダラねー」
「いや、観光地とはいえこの島の物価的にぼったくり過ぎだろ。せいぜい5ダラが限度だ」
「あー学者さん、こいつ現地民には1つ1,5ダラで売ってるからもっと強気で良いよ」
「ちょっとお前、折角のカモなんだからネタバレやめろ。残飯しょっちゅう漁ってくクソガキのくせに」
とか和やかなやりとりをしていると、また昼に出くわしたツアーの一行がやって来た。
「はーい、こちらが屋台広場になりまーす。観光客にえげつないぼったくりしてくる悪質な屋台もあるので気をつけて下さいねー。怖いならホテル内のお店を使うのが無難でーす」
「はーい」
「へえ、仕事とはいえこんな夜まで感心だな」
「ああ、昼間の方ですか。まあこの島もガイドも好きですので苦ではありませんよ。やっぱり時折アレなお客様はおりますが、それは仕事ですし割り切っています。昼間のアレな発言していた人達はホテルで休むと仰られて今不参加ですし」
「そうかい、それならまだ良かったな」
だがその時、広場に灯されていた明かりや松明が全て消え、禍々しい気配に包まれた。
「え、何事でしょうか。停電は結構起きますが火も消えるのはおかしいですね」
「…こいつは、まずい雰囲気がするな」
「ちょ、学者さんあれ見て、なにアレ」
黒い靄のような物が空から舞い降りどんどんと形を作り、巨大なトロピカルな悪魔のような禍々しい怪物になった。
「…こいつ、例の邪神か。しかし昼間見た時は気配はしなかったのに、何でまたいきなり」
「ひ、ひえええ。邪神とかマジでいたんだ」
「え、えええ。皆様危険だからお逃げくださーい」
その邪神はもぐもぐと口を動かしていたが、ガムのようにペッと何かを2つ吐き出した。
「…こいつは」
「ぎ、ぎゃああああ」
「…れ、例の昼間アレな発言をしていたお客様」
それは昼間のフラグ全開な言動をしていた観光客の、恐怖に満ちた表情の生首だった。
「…コノ不遜ナ馬鹿共ハ許センガ、コイツラガ酒ニ酔ッテ神殿を破壊シタオ陰デ外ニ出ル事ガ出来タ。血肉ヲ喰ラッテ更ニ強ク実体ヲ得ル事ガ出来タシナ。折角顕現出来タノダ、コノ血生臭イ島丸ゴト破壊シテクレル」
「…ったくこの馬鹿共、余計な事してくれやがって」
「うっわー、予想通りフラグ回収したな」
「えーどうしよ、ツアー客で死人出ちゃった。まあこんなアレなお客様ならいいか」
「スリの俺が言えた事じゃねえが倫理観やべえな」
「まあ、この世界全体的に倫理観アレだし仕方無いだろう」
「…しかし、この巨体じゃ俺にも手が余るかもな。どうしたもんか」
「う、うーん。現地民のシャーマンとかもいるにはいるけど、結構離れた村に住んでるしすぐ連れて来るのは難しいかも」
「うーん、私もそういう特殊能力とか何もない普通のツアーガイドですし済みませんがお役に立てません。やたら男運だけはありませんが」
「大丈夫です。僕に任せて下さい」
その時突然、背後から声がした。
「…君は?」
「偶然活動でこちらの島を訪れていた者です。こういった事態には慣れておりますのでご安心を。皆様は一般の方の避難誘導をお願いします」
声の主は東洋人と思しき、10代後半くらいに見える少年だった。
「…分かった。しかし見た所武器など持っていないようだがどうするんだい」
「大丈夫ですよ。信じがたいかもしれませんが僕にはこういう力がありますので」
彼は懐から綺麗な宝石を取り出し天高く掲げた。
「リリカル・マジカル・メタモルフォーゼ」
呪文に呼応するように、宝石から美しい光が溢れ出し彼を包み、少年は魔法使いのような帽子とローブを着て手足の無い姿になっていた。
「…こいつは驚いたな」
「え、えええ。魔法使いとか本当にいたんだ。ってか何で手足ないの」
「…ええまあ、色々な事情とあと製作者の意向によりまして。魔法で手足出せるので大丈夫ですよ」
「いやどういう意向なのそれ」
「う、うっわー。み、皆様超展開ですがポカーンとしてないで早くお逃げくださーい」
プロ根性と適応力のあるガイドにより呆気に取られたツアー客や周辺にいた人々はすぐに避難させられ、周囲には俺達だけになった。
「…貴方も元は気の毒な人々ですが、罪も無い人を殺めるのは見逃せません。申し訳ありませんが封印させて頂きます」
「…貴様、邪神ネットワークデ聞イタ事ガアルゾ。《始まりの魔法少年》カ」
「ええ、いかにもそうです」
彼は魔法で美しい手足を出し、同じく異空間から取り出したステッキを振るった。
たちまちステッキから激しい光が溢れ出し、シリアスだが名前がアレな邪神を直撃した。
「…グウウ、コノママ封ジラレテタマルカ。…小汚クテ不味ソウダガ仕方無イ。貴様モ我ガ力トナレ」
「ひ、ひええええ」
苦しそうな邪神が巨大な黒い手を伸ばし、スリの少年を掴み大きな口を開けた。
「ご、ごめんなさいいい。もう盗みとか悪さしないで真面目に学校行きますううう。だから殺さないでええええ」
「その言葉信じますよ。これからは心を入れ替えて真面目に生きて下さいね」
魔法使いの少年が羽を生やし飛び上がり、再びステッキを邪神に振るう。
ステッキから今度は光の刃が飛び出し、邪神の手を一刀両断した。
「お、落ちるううう」
「大丈夫ですよ。それっ」
彼はスリの少年が落下した地点に素早く雲のようなクッションを生成し、少年を受け止めた。
「…あ、ありがとうございます。助かりました」
「いえいえ。盗みはアレですが事情があるのは察せますし、君はまだ十分更生出来るでしょうから。先ほど言った事忘れないで下さいね」
「は、はい。絶対守ります」
「…オノレ、コンナ性癖ガアレナ奴ニ生ミ出サレタ小童ニ負ケラレルカ。折角数十年前ニアノオ方ニ力ヲ授カッタノニ」
「…ああ、やはり貴方も例の彼が関わっているのですね」
「…例の彼とは?」
「…詳しく話すと長くなりますが、ある事情によりこの世界を憎み跡形も無く破壊しようと目論んでいた恐ろしい存在です。死闘の末どうにか一時撤退させる事には成功しましたが、いつかはまた確実に現れるでしょう」
「…俺もこういう邪神や世界転覆を目論む組織と数度ぶつかった事はあるが、そんなに恐ろしい奴がいるのかい」
「…ええ、彼もある意味気の毒な存在なのですがね。しかしアレとはいえ僕もこの愛する世界を滅ぼされる訳にはいきません。ですので今もこうして影響の残る地を巡り、残党を始末しているのです。…では、すみませんがとどめです」
彼はステッキを力強く振るい、美しく光り輝くペガサスのような聖獣を呼び出した。
聖獣はいななき邪神に突撃し、蹲る邪神にぶつかり周囲は激しい光に包まれた。
「…覚エテオケ。アノオ方がオラレル限リ、我モ不滅ダ」
「そうですね。…ですがいつかはきっと、未来を引き継ぐ者達が彼を完全に滅ぼしてくれると信じています」
そうして光が晴れると、広場の中心部には見慣れないトーテムポールが出来ていた。
「これで大丈夫でしょう。このトーテムポールの下に封印しましたので、絶対に動かしたり壊さないようお願いします」
「ああ、分かったよ。依頼者にすぐ伝えて、島中に周知してもらおう」
「は、はーい。私も上司やお客様に可能な限り伝えておきますね」
「お、俺も大した事出来ねえけど仲間とかに伝えとくよ」
「皆様、怪我は無いようで良かったです。…アレな人とはいえ、2人亡くなってしまったのは残念ですが」
心優しそうな少年は、自業自得なアレな奴らの生首を見つめ悲しそうに俯いた。
「…まあ、フラグ全開だったしこいつらは仕方無いだろう。邪神とはいえ神を軽視した報いだ。君が心を痛める必要はないさ」
「…ありがとうございます。しかし僕は長い戦いの中で辛い物もそれなりに見て来ましたので、もう可能な限り目の前で犠牲は出したく無いんです。…直接は関係ありませんが、大切な人を永遠に失ってしまった事もありますし」
「…そうかい。君も見た所まだ高校生くらいだろうに、苦労してるんだな」
「いえ、僕は魔法の力でかなり年を取りにくい体質なので見た目よりは長く生きていますよ。おそらく実年齢は貴方とさほど変わらないと思います。妻子もいますし」
「へえ、そうなのかい。魔法使いってのはすごいんだな」
「うわー、私も魔法使いとか初めて見ましたので記念写真撮っても良いでしょうか。あとお礼したいのでお名前やご住所教えて頂けますか」
「ああ、申し訳ありませんがあまり存在を知られたり素性を明かす訳にはいかないので、それはご遠慮いただけますか。家族に迷惑がかかるといけませんし。日本から来たとだけ言っておきます」
「あー、ですよねすみません。アメコミヒーローとかも大概素性隠しますもんね」
「ご理解頂きありがとうございます。まあ無理矢理写真撮ったりしたら速攻カメラ破壊して写真焼き捨てますが」
「こ、怖い」
「では、僕はこれで。色々と理不尽だったり悲しい事も多い世界ですが、皆様が幸せになれる事を祈っています」
そう言って彼は何処かへ飛び去って行った。
「…ふう、驚いたがアレな奴以外は全員無事で良かったよ。さて、夜で悪いが急いで依頼者に電話するかな」
「…ま、マジで死ぬかと思ったし完全漏らした。立ちションはするけど漏らすとか初めてなんだけど」
「うわー、仕方ないとはいえ汚いですね。早く帰ってお風呂入って下さい。では私もこれで」
そうして俺達は別れ広場を後にし、アレな奴等の生首は駆け付けた警察に回収された。
その後依頼者に顛末を包み隠さず伝えたが、存在や素性をあまり知られたくないという魔法少年の意思を尊重し、表向きは俺が邪神を封印したという事になった。
謝礼を受け取り俺はそれから間もなく島を後にしたが、その伝説は長い間語り継がれ、広場のトーテムポールは今も観光名所となっているらしい。
スリの少年は宣言通り非行を止め真面目に勉学に励むようになり、苦学しながら大学まで出て数十年後には立派な町長になった。
ツアーガイドの女性はやはり男運が相当無かったようで、数名の恋人と付き合うもことごとくアレで別れたり離婚もして男性不信になりかかったが、最終的には良い夫と出会い子宝にも恵まれ幸せな家庭を築いた。
それから更に長い年月が過ぎ、俺もすっかり老人と呼ばれる歳になり残念ながら頭頂部もかなりアレになったが好奇心は未だに衰えていない。
島の事件から数十年後のいわゆるインターネットが普及した頃、ハイテク系は苦手なので悪戦苦闘しつつもどうにか情報を閲覧できるようになった俺はあの時出会った少年について調べてみた。
やはり都市伝説のような物だったが、日本のある相当にアレな町の周辺で1960年代辺りに活躍し多くの人々を救っていたそうだ。
彼がかつて戦ったという恐ろしい存在については明確な情報が全く無かったが、邪神を圧倒した彼がそれ程に言うからには本当に強大な存在なのだろう。
俺とさほど変わらない歳で相当に老けにくいのであれば今もきっと元気でやっているだろうが、彼の憂いが晴れて本当に幸せになってくれるのをいつも心の片隅で願っている。
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