はーとふるクインテット

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番外編集 アレな世界のいろいろな話

金目が咲夜に仕え始めた頃の事

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僕は13になる少し前くらいまで、親の都合で祖国ほどでは無いものの相当に治安と情勢がアレな国で過ごすのを余儀なくされていた。

両親から愛情はきちんと受けており、親の仕事もアレな類の物では無くしっかりとした職だったので仕方無いと思っていたし、アレ過ぎる祖国に比べればまだましな方だろうと幼心にも納得して過ごしていた。

そういう訳で当然危険な地帯には極力近寄らないようにし、夜間はもちろん日中でもなるべく子供一人での行動は避けるよう気を付けて暮らしていた。


だがある日、比較的安全とされる首都部の真っ只中で逃走中のクレイジーな殺人鬼に運悪く出くわしてしまい、逃げる間もなく捕らえられギリ死なない程度に全身バラバラのズダズダにされてしまった。

僕を救助した通行者や殺人鬼を捕らえた警官等は大半が吐いたそうだ。

その国の医師も匙を放り投げ両親に安楽死を勧めたそうだが、ちょうどその時病院に居合わせた学園長様が僕を憐れみ、その国にあった黒葛原家の関連研究機関に運び込まれ、1月程かかったが全身サイボーグとして蘇る事が出来た。


意識が戻りそれを聞かされた僕は学園長様に深く感謝し、その義体の戦闘力を活かし咲夜様の付き人兼ボディガードとして生きる事を誓った。

僕の両親も若干引きつつも承諾してくれ、アレ過ぎる祖国でもそれだけの戦闘力があれば大丈夫だろうと最後は笑って送り出してくれた。


そして一人祖国に戻り咲夜様に御目通りし、金目という通り名を頂き立派な邸宅で暮らし始めて間もない頃の事。

「…あー、お前が新しくボディーガードとして来た、金目だっけ。僕は咲夜様の護衛役の振子。つまりお前の先輩って訳だから、まあこれからよろしくね」
「はい、よろしくお願いします。まだ僕と同じくらいのお年でしょうが護衛をされていて凄いですね」

「あーうん、僕名前の通りフラスコとか試験管で生まれたような感じでさ。要するに人造人間ってやつ。知識や精神年齢は外見相応くらいだけど、まだ造られて1年そこそこって所かな」
「へえ、そうなのですか。だけどこの国そういった技術とても発達していますし、倫理的にはアレですがそういう方もいらっしゃるでしょうね。では至らぬ所もあるかと思いますが、これからどうかご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」

「うん、そんな堅苦しくしなくて良いよ。色々アレな国で職場だけど、まあ基本的にここの人良識はあるから仲良くやろうね。…あー、正直咲夜様だけはかなり怪しい所あるけど」

振子君は声を潜めて憂鬱そうに言った。

「…咲夜様が、ですか。御目通りした際は、とても温厚でお優しそうな方に見えましたが」
「…うん、それも間違いでは無いんだけどね。まあ付き人やってれば速攻で分かると思うしこの屋敷では暗黙の了解だけどさ。…あの方、慈愛と無慈悲の二つの面を持ってるんだよね」

「…そう、なのですか」
「うん、ってか咲夜様本人もそう言ってるし。二重人格とも少し違うみたいだけどね。普段はとても温厚で気の毒な人達にはすごく優しいけど、たまにめちゃくちゃ残酷な事やらかしたりするんだよね。もちろん聡明な方だから法に触れない手段でだけどさ」

「…そ、そうですか。それは怖いですね」
「まあ、そういう方だからめちゃくちゃアレな目に遭って殺されかけたお前には基本優しいと思うけどさ。あの人に逆らったり怒らせたりなんかしたら、即座に廃棄処分されかねないし気を付けなよ。僕も似たような物だろうし、某アニメみたく死んでもいくらでも代わりは造れるだろうしさ」
「…畏まりました。元々命を救われた身ですので、そのような事は無いとは思いますが肝に銘じておきます」

「あー、それで僕これからメンテあるから行って来るね。じゃあまたねー」

そう言ってひらひらと手を振り、振子君は去って行った。


僕は長く立派な廊下を医務室へと歩きながら、金目の姿が全く見えなくなったのを確認してから呟く。

「…いや、咲夜様。よりにもよってそのネーミングはアレ過ぎでしょ。あいつかわいそー」

「…本当あの方、朗らかにえげつない事するよな~。自分の存在意義否定したくは無いけど、正直かなり引く」


それから数日後。

僕は護衛は振子君が務めるので使用人達と会話して親睦を深めると良いと咲夜様から言われたので、ひとまずこの屋敷でも特に古くから勤める老齢の執事長様とお話をする事にした。

「やあ、…金目くん。ここの暮らしにはもう慣れたかね」
「はい、皆様とても良くして下さいますので。アレな国とはいえ長らく離れていた母国に戻って来れて、少し嬉しくもありますし」

「それは良かったよ。この屋敷周辺は非常に厳重な警備と防衛装置で護られているし、万一アレな悪漢に出くわしたとて君の身体能力ならどうとでもなるだろう」
「ええ、そうですね。この義体とても調子が良いですし。…あの、執事長様。少しよろしいでしょうか」

「ああ、どうしたんだい?」


「…その、咲夜様の事なのですが。振子君や他の使用人の方々からも伺いましたが、あのお方は慈愛と無慈悲の二面を持つとの事でしたが。…あの方の無慈悲の面とは、具体的にどのような事をされるのでしょうか」

執事長様は顔を少し顰め言いよどんだが、しばらく考えた様子の後にぽつりと話し出した。

「…ここで働いていればいずれは耳に入るだろうが、私が話したという事は口外しないでくれるかい」
「…はい、分かりました」

「…ずっと昔、咲夜坊ちゃまが5歳くらいの頃の事だ。当時からあの方は大人でも手こずるような難しい本を読破し高校生レベルの問題も解くような、当時から神童と呼ばれる聡明な方だった」
「聞いてはおりましたが、凄いですね」

「そして旦那様も奥方様の大切な忘れ形見という事で、躾はしっかりとしたがとても深く愛情を注ぎ、大切にあの方を育てていらっしゃった」

「…だが、時折坊ちゃまはぼんやりと立ちすくみ、何か物足りなそうにしている事があった。どうしたのか私達が聞いても、あの方自身何が不満なのか分からない様子だった」

「幼くして聡明な方なので、情緒と知能がかみ合わずお辛いのかと高名な心理学者等を呼び診てもらった事もあったが。一向に坊ちゃまのその症状は治まらず、旦那様含め我々は皆心配していた」
「…そうだったのですか。それはお気の毒に」

「そんなある日の事だった。坊ちゃまが厳重な警護を付けた上で国立公園に散歩に出られた時、薄汚れやせ細った一匹の犬が坊ちゃまの傍に寄って来た」

「当然護衛はそんな汚らわしい犬を近づけまいと追い払おうとしたが、坊ちゃまはそれを制止し、おそらく捨てられた犬だろうから引きとってうちで飼うと言い出した」

「血統書も無い、どこの誰が飼っていたかも分からない野良犬などこの方に似つかわしく無いと我々は難色を示したが。旦那様は坊ちゃまの心優しさに感じ入ったのか、最終的には飼育するのを承諾した」

「それからその犬はすぐに綺麗にされ、しっかりとワクチン等も接種し栄養をしっかり与えられ、少し後には見違えるように美しい立派な犬となった。犬も拾ってくれた坊ちゃまに恩義を感じていたのか、あの方にとても懐いていた」
「そうですか。それは良かったですね」


「…そのまま美談で終わっていれば良かったのだがね。その1年くらい後、屋敷から少し離れたドッグランにその愛犬を連れ一緒に遊んでいた時、運悪くアレな殺人鬼が恐ろしい速さで駆け寄り坊ちゃまに襲い掛かったのだ」

「すぐにアレ殺人鬼は護衛に組み伏せられたが、坊ちゃまを庇おうとしたのかそいつに飛びかかった愛犬はナイフで軽く身を斬られてしまった」

「…そうしてパニックになったのか、狂ったように吠えて暴れた愛犬は宥めようとした坊ちゃまに噛みつき、走り回りそのまま居合わせた一般人も襲い、数名に傷を負わせてしまったんだ」
「…そうだったのですか。それで、その愛犬はどうなったのでしょうか」

「護衛はアレ殺人鬼対策に麻酔銃なども携帯しているので、程なくして愛犬は眠らされ取り押さえられ、傷を負った坊ちゃまや民間人はすぐに病院に搬送された。ワクチンはきちんと接種していたので感染症などにはならなかったが、坊ちゃまとさほど年の変わらない小さな子や老人もそれなりの傷を負ってしまった。すぐに我々が責任を持って治療費は全額負担し、皆それほどしないうちに完治したがね」
「…それでしたら、まだ良かったです」

「…だが、事情が事情とはいえ坊ちゃまのみならず第三者も襲ってしまった愛犬は、審議されたものの最終的には殺処分される事が決定した」
「…やはり、そうでしょうね。咲夜様、お気の毒に」

「…そう思うだろうね。…ここからの話は、本当に内密にお願いするよ」

「…はい、分かりました」


「…殺処分が決定した後、当然愛犬は保健所に送られ処分される手筈だったが。坊ちゃまは見ず知らずの職員に殺されるくらいなら、せめて自分の手で送ってやりたいと仰ったのだ」

「…そのお気持ちも理解できたので、旦那様が手を回し坊ちゃまの望み通り、屋敷の庭でそれは執り行われる事となった。我々は当然苦しまない様薬殺するだろうと考え、屋敷に常駐する医師が安楽死用の毒薬を用意した。…だが、坊ちゃまはその時初めて無慈悲の面を見せた」

「…何を、なさったのですか」

「…坊ちゃまは愛犬を噛みついたり逃げられないよう、厳重に拘束した上で自分で用意したアレな液体燃料を愛犬に浴びせかけ、そのまま火を放った」

「……どうして、そんな残酷な事を」

「…それは、私も未だに理解できないね。燃え盛り口を閉じられ悲鳴も上げられずにのたうち回る愛犬を見て、坊ちゃまは初めて見るような朗らかな顔でけらけらと笑っていた」

「…絶対に外で言える事では無いが。私はその時、この方は人間の皮を被った悪魔なのではないかと思ったよ。…おそらく、その現場を見ていた使用人の大半がそう思った事だろう」

「……」

「…嫌な話を聞かせてしまって済まなかったね。そうして間もなく見る影も無く消し炭となった愛犬は丁重に葬られ、しっかりと墓も庭の片隅に建てられた。燃やした時が嘘のように、坊ちゃまはその墓に花を供え悲しそうにしていた」

「…そういう事だったのですね。教えて頂き、ありがとうございました」

「…古くからここに居る使用人や、年若いが職務上坊ちゃまの事をしっかりと学んでいる振子等は大半が知っている事だがね。アレは我々も忌まわしい記憶としてなるべく話さない様にしているから、君もそうしてくれると助かるよ」
「…ええ、口外しませんのでご安心ください。…執事長様。その愛犬の墓参りをしたいのですが、お墓の場所を教えて頂けませんか」

「ああ、構わないよ。この庭の東の端にある、桜の木の傍に建てられている。…定期的に手入れや供え物はしているが、手を合わせてやればあの子も喜ぶだろう」

「分かりました、早速行ってみようと思います。どうもありがとうございました。では、失礼いたします」


そう言って頭を下げ、金目君は去って行った。

「…坊ちゃま。確かに彼は境遇など似た物がありますが、何故あのような名を彼に与えたのですか。言いたくはありませんが、あまりにも悪趣味だと思いますよ」

「…墓碑に名が刻まれていなくて幸いだったね。…いつかは知られてしまうだろうが、当分彼には黙っていてあげないとね」


その少し後、咲夜の自室にて。

「ああ振子。少しだけ一人で風に当たりたいから、バルコニーに出てくるね。すぐ戻るから大丈夫だよ」
「…はーい。今ちょっと肌寒いから風邪引かないで下さいね。まあこの国のアレ技術で引いても速攻治りますけど」

そうして僕は一人バルコニーに出て、ぽつりと呟く。

「…ふふ。年齢的にあり得ないけど、あの子の資料を見た時になんとなく彼の生まれ変わりなんじゃないかって思って。あの子には悪いけどそう名付けさせてもらったんだよね。そのままじゃ気の毒過ぎるから当て字で漢字にしたけれど」

「…僕は物心付いてから、ずっと何か空虚さを感じて生きていた。だけど自分でも、その理由が分からなかった。僕はこのアレな国とはいえ、何不自由なく身分や生活を保障され、才にも恵まれ愛情も受け生きているというのに」

「…でも彼をこの上なく無惨に焼き殺した時、僕は初めての感情を覚えた。僕の求めていた物はこれだったんだと」

「愛おしく尊く、美しい物を取り返しも付かないくらいにめちゃくちゃに壊した時のえもいわれぬ恍惚感。僕はその時、自分には慈愛と無慈悲の両面を持ち、制御できない事があると悟った」

「…その時、こんな僕は生まれて来ても良かったのかと苦しんだけどね。でもそうしたら、お母様の意思を踏みにじってしまうから出来なかったけれど」

「…ねえ、仕方ないとはいえ僕があんなアレな殺し方した事、君はやっぱり恨んでるかな。あの世で呪い殺してやりたいと思っているのかな」

「…ひょっとしたらその罪滅ぼしに、あの子に彼の名を与えたのかもね。自分でも、よく分からないけどさ」

「ねえ、今度は僕の事噛んだりしないでね。カナメ♪」
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