はーとふるクインテット

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第四章 驚天動地のアレ事件

みなの昔の話と何かを思いついたシロ

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「…なあ、お前」

「何よ、そんな顔をして。あなたの顔なんて見たくないと何億回言わせるの」


「…また、あれ程に呪われた子を産み出してしまったのか」

「ええ、そうよ」

「…例の彼の事件で、お前の気も少しは紛れたと思っていたのだが。…昔の彼の時も言ったろう。あれ程に酷い呪いでは、あまりに気の毒だ」

「だから、それもこれも全部貴方がアレなせいよ。…それに、私も出来る範囲であの子に制裁を与えたかったし」

「…そういう事か」

「ええ、出来る事なら即刻私自身の手であの子を地獄へ落としてやりたかったけれど。残念ながら今の私には呪う事しか出来ないから。…ならばあの子を上回る力を持つ、呪われた子を産み出せば良いと思った」

「…それにしたって、あれではあの子があまりにも気の毒だ」

「確かにそれはそうだけど、あの頃に比べれば人の子の知恵も随分進んだわ。そう遠くないうちに普通の身になれるでしょう。…そういう貴方も、少し前に相当アレな子を産み出したじゃない」


「…ああ、そうだな。…私も直接あの子に天罰は与えられないが、せめて人の子があの子を討てるように膳立てしようと思ってな」

「やろうとしている事は分かるけれど、それにしてもあの子もあの子でアレ過ぎるでしょう。この国の中でもあんなに一際狂った子では、何をやらかすか分かったものじゃないわよ」

「…そうだろうな。…だが、昔の彼は優しすぎた。…優しさだけでは、あの子は変わらないと悟った」

「まあ、言いたい事は分かるけれど。貴方の気持ちなんて一片たりとも理解したくはないけれどね」

「…だから、正と邪の両面を持つ子を産み、尊い身分に生まれるように取り計らった」

「確かに神に刃を向けるには狂気も必要でしょうけど。あんなにアレな子がそんな身分になったら、それこそどうなると思っているのよ」

「…そうだな」


「もう大昔から言っているけれど。私、貴方のそういう浅薄な所が大嫌いよ」

「…済まないな」



俺は脳髄以外の身体を持たない状態でこの世に生を受けた。

俺を身ごもったのはまだ20にも満たない、おそらく相当に訳のある少女だったそうだ。

産院で診断を受け俺の状態を聞かされた彼女は、すぐに堕胎して欲しいと希望したそうだ。

そもそも、ほとんどそのつもりで産院を訪れたらしい。

戦前に俺とほぼ同じ状態で生まれた男性がいるそうで、貴重な症例サンプルという事で表向きは堕胎した事にし摘出された俺は、すぐに政府と密接に関わりのあるアレ気味だが基本は善良な研究機関へ送られ、培養液に浸されそこでずっと過ごす事となった。


先例の男性もほぼ同じような名を付けられたそうだが、身体が無いという事で俺は身無と呼ばれる事となった。

命を救って世話をしてくれる人達にこういう事を言いたくも無いのだが、物心ついてその名を聞かされた時ネーミングセンスは正直最悪だと思った。
間違いなく先例の男性もそう思っただろう。

そして俺のような状態で生まれた者は人の精神を狂わせる力を持つと言われ、能力の開発を薦められたがこのアレな国とはいえそんな残酷な力を振るいたくは無かったので断った。

脳波を介して様々な知識や教養を与えられ、実際の肉体では無いものの仮想空間で大半の事は出来たのでさほど苦では無かった。

とはいえやはり早くに実際の肉体を得たかったし、研究所員も俺を憐れんで丁重に扱ってくれたが外の世界と交流もしてみたかった。


そして実年齢にして10歳を少し越えた頃、素性を明かさないとの条件でSNSを使用する事を許可され、早速いくつかのSNSに投稿を始めた。

ハンドルネームは他に良い物も思いつかなかったので、かなり複雑だがそのままローマ字読みでminaにした。

素性を隠さねばならないので当たり障りの無い内容しか書けなかったが、外の世界の人々と交流できるのは嬉しかった。

もちろん画像や音声も投稿できず無難な内容ばかりのためフレンドやフォロワーはさほど多く無かったが、ある時俺と同い年か少し下くらいの少年がフレンド申請して来て、会話を交わすうちに親しくなった。

ある程度交流を経た後打ち明けられたが、彼は普段はとても明るいが時折強烈な破滅衝動に襲われ、すぐに服薬しても最悪の場合自傷したり自死を考えてしまう事があるとの事だった。

この国でもかなり珍しい症例との事で今の所有効な対処法は無く、発作が起きるたび頓服薬を飲んで凌いでいるとの事だった。

俺は彼を励まし、それから更に親しくなった。


それから更に数年が経ち、彼が中学生になり少し経ったくらいの頃。

俺達はその日もSNS上で会話を交わしていた。

「ねえ、minaって画像とか全く上げないよね。あとminaと通話してみたいな」

俺は素性を明かせないのは理解しつつも、彼にだけは本当の事を言っても良いかと考え、少し後にこう返した。

「…あまり言いたくは無かったが、俺は前も言ったが身体に相当の障害があり、一切身動きが出来ない。発声する事も出来ない」

「…え、そうなんだ。大変だね」

「まあ、物心ついてそういう状態だというのを知った時は辛かったが。脳波を介し交流したり、仮想空間のような所で大概の事は出来るのでさほど苦ではない」

「…そっか、それなら良かったけど。でもこういうアレな国だし、いつかは普通に過ごせるようになると良いのにね」

「ああ、十分なデータが集まり俺を研究している機関の上層部から認可が出れば正常な肉体を得られるとの事なので、楽しみにしている」

「うん、早く普通の体にしてもらえると良いね。…じゃあさ、俺minaのお見舞いに行きたいんだけど」

「…済まないが、ひどい姿を見られたくない。間違いなく、俺の姿を見たらお前は傷付くと思う」

「…そっか、うん。分かった。無理言ってごめんね」


だがその後も彼は俺を心配し、時折やっぱり会いに行きたいと願う事があったが、俺はその度済まないがと断った。

それからさらに数か月が経った、ある日の事。

「…あのさmina。俺、やっぱりminaにちゃんと会ってみたいんだ。…俺がダメになっちゃった時、ずっとここで励ましてくれてるしさ。…お見舞いに行って、少しだけでもお礼したいんだ」

俺は悩み、かなりの時間の後にこう返した。

「…では、一つだけ約束して欲しい。実際の俺がどんな姿でも、友人でいてくれるか」

「うん、約束する。minaがどんな姿をしてたって、俺達ずっと親友だよ」

「…分かった。では、俺のいる場所を教える」


それからすぐに研究員に約束を破ってしまった事を詫び、事情を説明し審議されたが絶対に俺の存在やこの施設を口外しないよう彼に伝えるのを条件に、彼の来訪を許可された。

その数日後、俺を管理している部屋に彼はやって来た。

「…そんな、ひどい」

「…これが、俺だ」

初めて会う彼は俺を内蔵している小さいカプセルを抱きしめ、静かに涙を流した。

「…泣かせてしまって、済まない」
「…謝らなくて良いよ。minaがこんなになってたら、俺泣いちゃうよ」


それからしばらく経ち、どうにか彼が落ち着いた後俺は本名を名乗った。やはり彼は相当引いた。
身無はあんまりすぎるとの事で、彼は俺をみーなと呼ぶようになった。

彼の名はカズサといった。将来はまだはっきりと決めてはいないが、歌って踊るのが好きなのでアイドルや芸能人になろうかと考えているらしい。

俺やこの施設の事を一切口外しないのを約束させ彼は帰って行ったが、その後も折を見て彼は俺に会いに来てくれた。

やはり俺を見て悲しそうにする事は時折あるものの、基本彼はとても明るく前向きだったが話していた通りに時折突然暗く沈んでしまう事もあった。

接続されたスピーカーから発声される合成音声で励ましてやる事しか出来ないのが悔しかった。


そんなある時の事。

「みーなが普通の体になれたら、どんな姿になるんだろうね。なんとなく俺より背の高いイメージがあるなー」
「そうだな。俺も長身の方が憧れるな」

「で、合成音声も可愛いけど本当の声もどんな感じになるのかな。俺よりは低くて落ち着いてるような気がするな」
「ああ、俺もそんな印象がある」

「…この国アレだからそういう技術もすごく発展してるし、みーなも早く体もらえれば良いのにね」
「…そうだな。だが俺ほどの症例はこの国でも他に1人しかいないとの事だったので、研究も必要だし完全に適合する肉体を造るのはかなり難航しているようだ」
「…そうなんだ。その人も可哀想だね」
「ああ、戦前の生まれだったそうでまだ当時はアレな技術もさほど発展していなかったから、相当な年月その姿での生活を余儀なくされたそうだ。個人情報なので詳しくは聞かされていないが、今は正常な肉体を得られ幸せになれているそうで良かったが」


「うん、それなら良かった。…あのさみーな。俺色々考えたけど、やっぱり皆に希望を与えるアイドルになろうと思うんだ」
「そうか、明るく優しいお前ならきっと成功できると思う。応援するよ」

「ありがと!でさ。何年先か分からないけど、みーなが普通の体になれたら俺と一緒にアイドルやらない?」

「…」

「みーな、どしたの?」

「…いや。体を得たいとは常に願っていたが、その先の事は考えた事が無かったな」

「あー、そうかもね。大変過ぎてそれどころじゃ無いもんね」

「…俺に夢を与えてくれて、ありがとう。…カズサ、俺も体を得られたら、お前と一緒にアイドルになりたい」

「うん、一緒にやろうよ!」

その日から、俺の世界は確かに変わった。


それから数年後、カズサが中学3年生になって少しした頃の事。

「…カズサ、待たせたな」

「…うん、みーなだよね?」

「ああ。…ようやく、人の姿になれたよ」

そうして俺は、初めてカズサと抱き合う事が出来た。

それから間もなくここからの眺めが良いと案内された小さい山の頂上に建つ社の前で、俺達は流れ星学園に共に入学し、ユニットを組もうと誓った。

俺はカズサより実年齢は少し年上だったが、カズサと同級生になりたいと研究員に伝え、戸籍上は彼と同い年という事にされた。

苗字はアレなネーミングセンスなので若干心配だが研究員達に任せる事にし、名前は相当複雑だがカズサに呼ばれる仇名は好きだったのでそのままみなと名乗る事にした。


そして俺は、研究機関や政府からの支援を受け普通の人間の御業みなとして暮らすようになった。

体を得る前も研究員から教養はかなり与えられており、肉体を得てからは受験勉強にも日夜励んでいたので入学試験は問題なく通り、カズサも同様に合格し俺達は無事に流れ星学園に入学できた。

その後間もなく愛と出会い意気投合し、ユニット名をlikelihoodとし本格的に活動を開始した。

それから数日後てうてうの人達からシロの所業を聞かされ、俺は生まれて初めての殺意を覚えた。


「―そして、今に至るというわけだ」

「…そうだったんだ。みな君、本当に大変だったね」

「…うん。僕も隊長と初めて会った時、本当に悲しかったから」

「そうだよね。僕もみな君の事教えてもらった時すごく辛かった」

「…うん。本当にみーな今の姿になれたの、1年ちょっとくらい前だから」

「まあ、実際はカズサと再会するもう少し前に肉体は得られたのだが。やはりリハビリや外に出るための準備期間などがありすぐに外出は叶わなかった」
「あー、だよね。そういう境遇じゃそう簡単に外出出来ないかもね」
「…うん。僕や隊長たちも体急いで造ってはくれたけど、やっぱり慣れるまで少しかかったから」

「…そういう訳だ。済まないな。やはり食事時にはきつい話だったろう」
「あーうん、ちょっとしんどかったけど大丈夫。まあネーミングセンスには相当引いたけど」
「うん、俺も初めて名前聞いた時相当引いた」
「うん、僕も」
「…うん、僕も隊長の名前聞いた時引いた」

「…だよね。その研究所相当ネーミングセンスアレだね…」
「うん、佐紀さんやシロも引いたらしいし」
「…うん。当時研究所の人達も正直相当引いたらしいけど、研究所で一番立場が上の人のセンスでそうなったらしくて。ネーミングセンスと倫理観はアレだけどすごく優秀な人だったから、結局却下できなかったみたい」

「ああ、それで血筋ゆえか子孫も優秀な科学者が多く、後続の研究所で働いておりやはり相当な立場ゆえネーミングセンスは未だにアレという事らしい」
「な、なるほど…」
「戦前から続くネーミングセンスのアレっぷりってすごいよね」


「まあ、これで俺ももう何もお前に隠し事は無い。改めて、よろしく頼む」
「うん、こちらこそ!改めてよろしく、みな君」

「あー、そういえばさ。最近代行がシロに更に死体蹴りかまそうかってあいつのユニット名強制的に変えてやろうと計画してるらしいんだよね。んで出来る限りあいつがブチ切れそうなユニット名募集中だってさ」
「おー、良いじゃん良いじゃん。シロ君に強制お返ししてやりたいよね」

「…うん、そうだね」
「…あ、クロごめんね。思い出したとはいえ強制って聞いたらちょっとしんどいよね」

「…ううん、大丈夫。強制って良く使う言葉だし仕方ないよ」
「そっか、クロ君メンタル強いもんね。えらいね」

「…うん。やっぱり時々辛いけど、皆が励ましてくれるから大丈夫だよ。ありがとう」


一方その頃、壁や床にかなりの手抜き修復がされたシロの自室にて。

「…あーもうほんと今日も明日もマジでクソ。もう最近あのクソババア輪をかけてクソな料理出して来るからあのクソ食堂行きたく無いし、クソ一般生徒も最近察したのか白い目で見て来るし。僕もう引きこもるしか無いじゃん。でも授業サボるとあのクソ教師共容赦無く評価下げるし。もうこの学園滅びろよクソが」

「…って、あ。そっか」

「あー。そうしちゃえば良いじゃん」
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