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序章:ダンジョン
第0話:ダンジョン系配信者
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桜木ミノル――現役の高校生にして、有名な配信者の一人だ。
配信と言ってもそのジャンルは実に多種多様である。
雑談をメインにするものもあれば、料理などを紹介するものなどなど。
ジャンルは配信者の数の分だけ存在する。
では彼女――ミノルが取り扱うジャンルとは何か?
それはダンジョン配信――危険地帯へと赴き、華麗に闘うことを生業とする今もっとも熱いジャンルだった。
数百年も昔、地球に突如巨大な隕石が衝突した。
その規模は世界の理を大きく歪めるほどの大損害を与え、数多くの生態系が大きく狂った。
あくまでもこれらは、真の地獄へのきっかけにすぎない。
地獄門――各国でそう総称されるようになった穴から、突如として異形の者達が出現するようになった。
禍鬼――凄まじい怒りや恨みなど、人間が持つ負の感情より生じた荒魂が形を成したモノ。
彼らは破壊と殺戮を好み、手当たり次第に残虐の限りを尽くす。
正しく悪鬼のごときこの所業に人々は成す術もなかった。
時が経ち、ついに人類は反攻に転じる。
人類の中から突如として、不可思議な力を宿す者が現れるようになったのである。
そう言った者達を人々はアラヒトガミと崇めた。
桜木ミノルが今回、旧日ノ本國――改め、アシハラノクニの南東に浮かぶ無人島に訪れたのは、ある噂によるものだった。
曰く、かつてそこには数多くの罪人が流刑に処されたという。
非業の死を遂げたことで生じた荒魂が今も彷徨っている。
そこにあるダンジョンの最奥には、かつてないほどの強力な禍鬼がいる、と。
当初、ミノルはこの話をまったく信じていなかった。
大方、誰かがでっちあげたホラ話だろう。
それぐらいにしか思わなかったが、彼女の考えはある動画の存在によって大きく変わる。
――あの動画は、今見返しても最悪だったわね……。
――でも、あのダンジョンにる禍鬼は間違いなくどのダンジョンのよりも強かった。
――動画投稿をしてた配信者だって、決して弱くはなかったのに……。
――……試してみたい。私が、どこまでいけるのかを!
「えっと……あーあー……マイクテステス。こんみの~! どうも桜木ミノルです! 音声とか画像は大丈夫かな?」
胸部に搭載した小型高性能カメラに向かって、ミノルはリスナーに問いかける。
程なくして彼女の腕に装着された携帯機の画面には、さながら大瀑布のごとくコメントが殺到する。
『音声も画質も良好ですよー!』
『ミノルちゃん今日もかわいい(⋈◍>◡<◍)。✧♡』
『応援してます! だから、どうか無事に戻ってきて(;'∀')』
『ミノルちゃんなら楽勝っしょ!www』
「皆ありがとうねー! さてと、今回は以前予告していたとおり、例の無人島に来てます。あの動画が投稿されてから早数か月、ちょこちょこ似たような動画はあったけど誰一人帰ってこなかった。今からその場所に突入したいと思います! それじゃあみんな、いくよ――」
一万人を超えるリスナーの声援を胸に、ミノルはついに件のダンジョンへと赴いた。
まず、彼女が訪れた無人島だが、一見するとなんの変哲もない単なる島でしかない。
かつてここが流刑地――要するに、島流しに処された罪人の住処であることは、彼女がここへ来る前に発見した生活の名残がすべてを物語っている。
「島流しって聞くと、大抵は絶海の孤島で絶望的だっていうけど、実際は畑とか作ったりして割かし自由だったみたいだよ。時代によっては、一年間真面目に働いたら無罪放免になった事例もあるんだって」
雑談を交えつつ、深淵の闇を炎で切り裂きながらミノルは奥へと進んでいく。
すでにここは死地だ。いつ何時危険が迫るかわからない。
故に大抵の配信者はダンジョンに入った瞬間から、口数が極端に少なくなる。
これについては、もはや語るまでもなかろう。
ダンジョンとはアミューズメントパークのアトラクションではない。
いつ何時、どこから危険が迫るかまったくわからない状況下にいるのだ。
ピクニック気分で訪れればどうなるかは、今時幼子でさえも容易に想像が付く。
もっとも、ミノルという少女は他の配信者とは大きく異なる。
それこそ、彼女が人気である理由でもあった。
「……あ、クロマティーさん赤スパチャありがとうございます! えっと、”応援してるからがんばって!”、はい、ミノル頑張っちゃいますよ!」
死地にいながらもしっかりと配信者としてリスナーの声に応える。
その在り方は配信者としてあるべき姿であると同時に、死地においては愚行極まりなかろう。
それがわからないほど、桜木ミノルも愚かではない。
「――、それにしても……」
赤々とした輝きが照らすミノルの表情は、とても訝し気だった。
「どういうこと……? さっきからずっと進んでるけど、禍鬼にまったく遭遇しないんだけど……」
彼女がダンジョンへと踏み入ってから、かれこれ一時間が経過する。
これまでに禍鬼とは一匹も遭遇しておらず、動画的にはただ単に暗い洞窟の中を雑談しながら進むだけという、なんとも寂しい仕上がりになってしまっていた。
――ちょっとどうなってんの!?
――なんで一匹も禍鬼がいないわけ!?
――おかしいでしょ! これだけ歩いてるのになんで遭遇しないの!?
――これじゃあ、ダンジョンとはまったく関係ない場所に来たみたいになってるじゃん!
ミノルの胸中でどんどん焦りの感情が激しく渦巻いていく。
リスナーの多くは、彼女が華麗に闘うところを期待しているのだ。
むろんそれ以外にもミノルは歌ってみた系や、雑談なども幅広く手掛けているので、それでも十分な人気だ。
しかしながら、配信をはじめる切っ掛けとなったのはあくまでもダンジョン配信である。
それを売りにしている彼女にとって、現状は配信者として大変よろしくない。
どうにかして新たな展開を、とあれこれ物色してはみるものの特に何か進展が訪れるわけもなく。
時間だけがどんどんいたずらにすぎていった。
そうした中でようやく相対した新展開に、ミノルは酷く動揺してしまう。
「え……? う、嘘でしょ? どうしてここに人がいるの!?」
それは一人の女だった。
朱殷色の髪に緋色の瞳と非常に稀有な容姿に加え、端正な顔立ちは美しいの一言に尽きよう。
ただし、胸は同性としてミノルが憐れむほどのぺったんこであった。
余談ではあるが、ミノルのバストサイズはEである。
出で立ちについても、葵色の着物に朱色の羽織、黒の袴。そして左腰に一振りの大刀を帯びれば、立派な女侍の完成だ。
そしてコメント欄の方も、かつてないほどの盛り上がりっぷりなのは、その質と量を見やれば一目瞭然だ。
『やばっ! めっちゃ好みなんだけど!』
『こんなにきれいなお姉さんがいたなんて知らなかった……』
『この人も配信者なのかな? それにしては器具とか見当たらないけど』
『どっちでもいいけど、これは神展開の予感しかしない……!(゚Д゚;)』
「…………」
自分よりも先に、この最深部に到達した者がいた。
その事実に軽いショックを受けるミノルだったが、すぐに彼女の中で女侍に対する警戒心が芽生える。
この人は明らかに普通ではない、とミノルは表情を強張らせると身構えた。
配信と言ってもそのジャンルは実に多種多様である。
雑談をメインにするものもあれば、料理などを紹介するものなどなど。
ジャンルは配信者の数の分だけ存在する。
では彼女――ミノルが取り扱うジャンルとは何か?
それはダンジョン配信――危険地帯へと赴き、華麗に闘うことを生業とする今もっとも熱いジャンルだった。
数百年も昔、地球に突如巨大な隕石が衝突した。
その規模は世界の理を大きく歪めるほどの大損害を与え、数多くの生態系が大きく狂った。
あくまでもこれらは、真の地獄へのきっかけにすぎない。
地獄門――各国でそう総称されるようになった穴から、突如として異形の者達が出現するようになった。
禍鬼――凄まじい怒りや恨みなど、人間が持つ負の感情より生じた荒魂が形を成したモノ。
彼らは破壊と殺戮を好み、手当たり次第に残虐の限りを尽くす。
正しく悪鬼のごときこの所業に人々は成す術もなかった。
時が経ち、ついに人類は反攻に転じる。
人類の中から突如として、不可思議な力を宿す者が現れるようになったのである。
そう言った者達を人々はアラヒトガミと崇めた。
桜木ミノルが今回、旧日ノ本國――改め、アシハラノクニの南東に浮かぶ無人島に訪れたのは、ある噂によるものだった。
曰く、かつてそこには数多くの罪人が流刑に処されたという。
非業の死を遂げたことで生じた荒魂が今も彷徨っている。
そこにあるダンジョンの最奥には、かつてないほどの強力な禍鬼がいる、と。
当初、ミノルはこの話をまったく信じていなかった。
大方、誰かがでっちあげたホラ話だろう。
それぐらいにしか思わなかったが、彼女の考えはある動画の存在によって大きく変わる。
――あの動画は、今見返しても最悪だったわね……。
――でも、あのダンジョンにる禍鬼は間違いなくどのダンジョンのよりも強かった。
――動画投稿をしてた配信者だって、決して弱くはなかったのに……。
――……試してみたい。私が、どこまでいけるのかを!
「えっと……あーあー……マイクテステス。こんみの~! どうも桜木ミノルです! 音声とか画像は大丈夫かな?」
胸部に搭載した小型高性能カメラに向かって、ミノルはリスナーに問いかける。
程なくして彼女の腕に装着された携帯機の画面には、さながら大瀑布のごとくコメントが殺到する。
『音声も画質も良好ですよー!』
『ミノルちゃん今日もかわいい(⋈◍>◡<◍)。✧♡』
『応援してます! だから、どうか無事に戻ってきて(;'∀')』
『ミノルちゃんなら楽勝っしょ!www』
「皆ありがとうねー! さてと、今回は以前予告していたとおり、例の無人島に来てます。あの動画が投稿されてから早数か月、ちょこちょこ似たような動画はあったけど誰一人帰ってこなかった。今からその場所に突入したいと思います! それじゃあみんな、いくよ――」
一万人を超えるリスナーの声援を胸に、ミノルはついに件のダンジョンへと赴いた。
まず、彼女が訪れた無人島だが、一見するとなんの変哲もない単なる島でしかない。
かつてここが流刑地――要するに、島流しに処された罪人の住処であることは、彼女がここへ来る前に発見した生活の名残がすべてを物語っている。
「島流しって聞くと、大抵は絶海の孤島で絶望的だっていうけど、実際は畑とか作ったりして割かし自由だったみたいだよ。時代によっては、一年間真面目に働いたら無罪放免になった事例もあるんだって」
雑談を交えつつ、深淵の闇を炎で切り裂きながらミノルは奥へと進んでいく。
すでにここは死地だ。いつ何時危険が迫るかわからない。
故に大抵の配信者はダンジョンに入った瞬間から、口数が極端に少なくなる。
これについては、もはや語るまでもなかろう。
ダンジョンとはアミューズメントパークのアトラクションではない。
いつ何時、どこから危険が迫るかまったくわからない状況下にいるのだ。
ピクニック気分で訪れればどうなるかは、今時幼子でさえも容易に想像が付く。
もっとも、ミノルという少女は他の配信者とは大きく異なる。
それこそ、彼女が人気である理由でもあった。
「……あ、クロマティーさん赤スパチャありがとうございます! えっと、”応援してるからがんばって!”、はい、ミノル頑張っちゃいますよ!」
死地にいながらもしっかりと配信者としてリスナーの声に応える。
その在り方は配信者としてあるべき姿であると同時に、死地においては愚行極まりなかろう。
それがわからないほど、桜木ミノルも愚かではない。
「――、それにしても……」
赤々とした輝きが照らすミノルの表情は、とても訝し気だった。
「どういうこと……? さっきからずっと進んでるけど、禍鬼にまったく遭遇しないんだけど……」
彼女がダンジョンへと踏み入ってから、かれこれ一時間が経過する。
これまでに禍鬼とは一匹も遭遇しておらず、動画的にはただ単に暗い洞窟の中を雑談しながら進むだけという、なんとも寂しい仕上がりになってしまっていた。
――ちょっとどうなってんの!?
――なんで一匹も禍鬼がいないわけ!?
――おかしいでしょ! これだけ歩いてるのになんで遭遇しないの!?
――これじゃあ、ダンジョンとはまったく関係ない場所に来たみたいになってるじゃん!
ミノルの胸中でどんどん焦りの感情が激しく渦巻いていく。
リスナーの多くは、彼女が華麗に闘うところを期待しているのだ。
むろんそれ以外にもミノルは歌ってみた系や、雑談なども幅広く手掛けているので、それでも十分な人気だ。
しかしながら、配信をはじめる切っ掛けとなったのはあくまでもダンジョン配信である。
それを売りにしている彼女にとって、現状は配信者として大変よろしくない。
どうにかして新たな展開を、とあれこれ物色してはみるものの特に何か進展が訪れるわけもなく。
時間だけがどんどんいたずらにすぎていった。
そうした中でようやく相対した新展開に、ミノルは酷く動揺してしまう。
「え……? う、嘘でしょ? どうしてここに人がいるの!?」
それは一人の女だった。
朱殷色の髪に緋色の瞳と非常に稀有な容姿に加え、端正な顔立ちは美しいの一言に尽きよう。
ただし、胸は同性としてミノルが憐れむほどのぺったんこであった。
余談ではあるが、ミノルのバストサイズはEである。
出で立ちについても、葵色の着物に朱色の羽織、黒の袴。そして左腰に一振りの大刀を帯びれば、立派な女侍の完成だ。
そしてコメント欄の方も、かつてないほどの盛り上がりっぷりなのは、その質と量を見やれば一目瞭然だ。
『やばっ! めっちゃ好みなんだけど!』
『こんなにきれいなお姉さんがいたなんて知らなかった……』
『この人も配信者なのかな? それにしては器具とか見当たらないけど』
『どっちでもいいけど、これは神展開の予感しかしない……!(゚Д゚;)』
「…………」
自分よりも先に、この最深部に到達した者がいた。
その事実に軽いショックを受けるミノルだったが、すぐに彼女の中で女侍に対する警戒心が芽生える。
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