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届かない想い5
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そうやって呑んだ翌日。仕事はオフだから、と夕方1人で颯矢さんの入院している病院へお見舞いに来た。
だけど、昨日病室にいた香織さんの姿がチラついて、ドアを開けることができないでいた。
どれくらいドアの前に立っていたんだろう。看護師さんにチラチラと見られている。
こんなことをしているのなら今日は帰った方がいいのかもしれない。そう思って顔を上げたところで社長がいた。
「お見舞いに来たんじゃないの?」
社長に訊かれる。そう、お見舞いに来た。でも、また香織さんがいるんじゃないかと思うと怖くてドアを開けられないでいた、なんて言えない。
俺はなにも言えずに唇を噛んで俯く。
「今日は仕事はオフ? もし用事がないようなら少し話をしようか」
社長からの提案に、引退のことを話すのにいいタイミングだと思い頷いた。
「じゃあ、カフェに行こうか」
「はい」
そう言って社長と俺は病院の1階にあるカフェに移動した。平日のせいか、店内はそれほど混んでいなくて、店の奥の隅に座った。
「あの。何にしますか? 買ってきます」
飲み物を買ってこようと社長に声をかけると、財布から千円札を出される。
「僕はホットコーヒーね。柊真は好きなのを買っておいで」
「わかりました。でも、お金はいらないです。俺が出すんで」
「なに言ってるの。社長に奢らせてよ」
社長はそう言っておどけたように笑う。
「でも……」
「社長なんだしさ、格好つけさせてよ」
「わかりました。じゃあ、買ってきます」
確かに社長が所属タレントに奢って貰うというわけにはいかないのかもしれないと思い、ありがたくお金を預かり、社長にホットコーヒー、自分用にアイスコーヒーを買ってきた。
「ありがとうね」
「いえ、こちらこそごちそうさまです」
社長はいつものように飄々としている。でも、カフェに誘ったったことはなにか俺に話したいことがあるんじゃないだろうか。颯矢さんがいないところで。
もし、颯矢さんがいても構わないのなら病室で話をしたっていいはずだ。
そう思うと少し体に力が入る。なにを言われるんだろう。引退のことだろうか。それであらたまって話しがしたい、そういうことだろうか。
でも、と思い直す。俺だって社長に話があったんだからちょうどいい。
「あの、」
「柊真はなにが辛い?」
「え?」
引退のことを言い出そうとしたところで社長に切り出される。急に言われて、何を言われているのか戸惑う。
俺が辛いって?
「なにか辛いことがあるんじゃないの? 前に病室で会ったときにも思ったんだけど、なにか辛いんじゃないかと思ってね。それって壱岐くんの記憶のこともそうだけど、もしかしてもっと前からなのかな、と思ってね。芸能界を引退したいっていうのと関係してるんじゃない?」
「……」
「なんでも話していいよ」
と言われても、まさか颯矢さんが結婚するのが辛い、だなんて言えるはずがない。
そう思って俯いて黙っていると、社長はびっくりすることを言った。
「壱岐くんのことじゃない?」
え?
颯矢さんの名前が出てきて、驚いて顔をあげる。なんで颯矢さんのことだって思うの? 俺の颯矢さんへの気持ちを社長が知っているわけないのに。
そう。俺の颯矢さんへの想いを知っているのは母さんだけだ。その母さんだって相手が颯矢さんだということは知らない。
つまり、この想いは誰も知らないんだ。だから颯矢さんへの気持ちのことなんかじゃない。
そう自分の心を落ち着けた。
「当たりみたいだね。壱岐くんのことを好きなのが辛い?」
だけど、昨日病室にいた香織さんの姿がチラついて、ドアを開けることができないでいた。
どれくらいドアの前に立っていたんだろう。看護師さんにチラチラと見られている。
こんなことをしているのなら今日は帰った方がいいのかもしれない。そう思って顔を上げたところで社長がいた。
「お見舞いに来たんじゃないの?」
社長に訊かれる。そう、お見舞いに来た。でも、また香織さんがいるんじゃないかと思うと怖くてドアを開けられないでいた、なんて言えない。
俺はなにも言えずに唇を噛んで俯く。
「今日は仕事はオフ? もし用事がないようなら少し話をしようか」
社長からの提案に、引退のことを話すのにいいタイミングだと思い頷いた。
「じゃあ、カフェに行こうか」
「はい」
そう言って社長と俺は病院の1階にあるカフェに移動した。平日のせいか、店内はそれほど混んでいなくて、店の奥の隅に座った。
「あの。何にしますか? 買ってきます」
飲み物を買ってこようと社長に声をかけると、財布から千円札を出される。
「僕はホットコーヒーね。柊真は好きなのを買っておいで」
「わかりました。でも、お金はいらないです。俺が出すんで」
「なに言ってるの。社長に奢らせてよ」
社長はそう言っておどけたように笑う。
「でも……」
「社長なんだしさ、格好つけさせてよ」
「わかりました。じゃあ、買ってきます」
確かに社長が所属タレントに奢って貰うというわけにはいかないのかもしれないと思い、ありがたくお金を預かり、社長にホットコーヒー、自分用にアイスコーヒーを買ってきた。
「ありがとうね」
「いえ、こちらこそごちそうさまです」
社長はいつものように飄々としている。でも、カフェに誘ったったことはなにか俺に話したいことがあるんじゃないだろうか。颯矢さんがいないところで。
もし、颯矢さんがいても構わないのなら病室で話をしたっていいはずだ。
そう思うと少し体に力が入る。なにを言われるんだろう。引退のことだろうか。それであらたまって話しがしたい、そういうことだろうか。
でも、と思い直す。俺だって社長に話があったんだからちょうどいい。
「あの、」
「柊真はなにが辛い?」
「え?」
引退のことを言い出そうとしたところで社長に切り出される。急に言われて、何を言われているのか戸惑う。
俺が辛いって?
「なにか辛いことがあるんじゃないの? 前に病室で会ったときにも思ったんだけど、なにか辛いんじゃないかと思ってね。それって壱岐くんの記憶のこともそうだけど、もしかしてもっと前からなのかな、と思ってね。芸能界を引退したいっていうのと関係してるんじゃない?」
「……」
「なんでも話していいよ」
と言われても、まさか颯矢さんが結婚するのが辛い、だなんて言えるはずがない。
そう思って俯いて黙っていると、社長はびっくりすることを言った。
「壱岐くんのことじゃない?」
え?
颯矢さんの名前が出てきて、驚いて顔をあげる。なんで颯矢さんのことだって思うの? 俺の颯矢さんへの気持ちを社長が知っているわけないのに。
そう。俺の颯矢さんへの想いを知っているのは母さんだけだ。その母さんだって相手が颯矢さんだということは知らない。
つまり、この想いは誰も知らないんだ。だから颯矢さんへの気持ちのことなんかじゃない。
そう自分の心を落ち着けた。
「当たりみたいだね。壱岐くんのことを好きなのが辛い?」
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