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失踪8

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 ベッドに横になって大きく息を吐く。疲れたな。目を閉じると樹くんの顔が浮かぶ。大学生の頃出会って、卒業して間もなく結婚して三年。長くいれたと思う。出会ったときはベータで、自分がベータであることが申し訳なかった。そして欲が出て、一緒にいたくてオメガになって、これでずっと一緒にいられると思った。結婚したころは幸せだった。でも、三年経っても妊娠できなかった自分。それじゃあベータと変わらなくて。加賀美のオメガとして役立たずだと思った。
 樹くんが如月の人間でなければ。普通の家庭の人なら、僕はずっと一緒にいられただろう。でも、樹くんは如月の大事な跡取りだ。しかも一人っ子。つまり、樹くんの後の後継者は樹くんの子供にしか無理なんだ。だから、僕は樹くんの子供を産まなきゃいけないのに、妊娠できなかった。だから身を引くしかないんだ。
 ぐるぐると同じことを考えているうちに、僕はそのまま寝てしまった。

 目を覚ましたのはスマホの着信音でだった。時間を見ると二十三時だった。着信は誰からかと見ると樹くんからだった。きっとこんな時間になっても僕が帰らないので、電話をくれたんだろう。
 樹くんからの着信は想定内だ。だから、夜になったらスマホの電源は落とそうと思っていた。なのに、樹くんのことを考えていたら寝てしまったから、電源は入ったままだった。電話が早く切れないか、とスマホを眺める。コールはなかなかやまず、十五回を超えてやっと切れた。
 心配かけてごめん。朝別れたばかりなのに、もう樹くんに会いたい。でも、もう会えない。こんなに好きなのに。こんなに好きだから。会えないことが寂しい。
 部屋の中が暗いと余計に気持ちも暗くなりそうで電気をつける。その途端にお腹がなる。そう言えば、最後にきちんと食事をしたのはいつだろう。昨日の朝だっただろうか。空腹を意識したら吐き気がしてきた。多分、低血糖だろう。ゼリー飲料でも買いに行こうか、と考えて昼間買ったサンドイッチを思い出す。持ち帰りにしたからバッグの中に入っている。一口食べようか。
 サンドイッチを出して、もそもそと食べる。味が全然わからない。頑張って半分食べるものの、それ以上は食べられなくて、そのまま捨ててしまう。でも、半分でも食べただけましだ。でも、こんな状況でもお腹ってすくし、低血糖も起こすんだな、と思う。食べる気持ちなんておきてもいないのに。でも、少しでも食べないと明日、動けなくなってしまう。そういうわけにはいかないから、頑張って食べた。
 でも、食べたことで疲れたのか、僕はシャワーも浴びずに、そのまままた寝てしまった。
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