上 下
358 / 360
最終章 3 ミライへ

それぞれの思惑と

しおりを挟む
 今回のフェニックスハイランドでの一件は、なかなか告白してこない俺にしびれを切らしたミライが、俺が絶対に告白しなければいけないように仕向けただけだった。

 世界が窮地に陥って、自分が告白することでしか世界を救えないなら、さすがの誠道さんでも告白できるだろう。

 そう考えて、今回の作戦を決行したらしい。

 ゲンシドラゴンもアテウ・マークも、実は創流御九条さんが作ったロボットで、聖ちゃんたちも紫色のカラコン(これも創流御九条さんの発明品)を装着して、操られたふりをしているだけだった。

 つまり、俺はミライが書いた脚本上で踊らされていただけだったのだ。

「でもすごいですね。アテウ・マークもゲンシドラゴンもロボットとは思えない動きの滑らかさでしたし」

「当然なのだが」

 魔法使いっぽい衣装なのに実は発明家である創流御九条さんは、マントをばさりと翻しながらうなずいた。

 あれ、もしかしてこいつも普通にナルシストか?

 すごいって褒めたら当然のように肯定しやがったし。

「しかし、あんな巨大なドラゴン、この長いマントが邪魔で本当に作りにくかったよ」

「え? 脱げばいいだけじゃないですか。発明家にマントなんて必要ないんだし」

「誠道くん」

 俺が当たり前のことを指摘すると、創流御九条さんはあからさまな溜息をついた。

「君はなにもわかっていない。そういうことじゃないんだよ」

 いや、わかってるしそういうことだと思うんですけど。

「そんなことよりも、ミライさん」

 創流御九条さんがミライに目を向けて、その長髪をさらりと靡かせる。

「どうだったかい? 僕の作ったドラゴンは。びっくりしただろう。ピュアな二人の力になりたくて、僕のサービス精神が大爆発しちゃったんだよ」

「ありがとう。九条お兄ちゃん」

 ミライがなにか言う前に、創流御九条さんのもとにてくてくと歩いていったジツハフくんが、なぜかお礼を言っている。

「僕の願いも叶えてくれたんだよね。ドラゴン型ロボットに乗ってみたいっていう願いを」

「まあ、そういうことにもなるかな。君の願いは叶えておかないと、君のお姉さんからなにをされるかわからないからね」

「僕もそう思って、わがままは隠さないことにしているんだ」

 にぱっと満面の笑みを浮かべたジツハフくん。

 あれ?

 今ジツハフくん、さらっと爆弾発言しなかった?

 ジツハフくんってお姉ちゃんを愛しているんじゃなくて、お姉ちゃんをいいように利用してるだけ?

 そんなことないよね。

 だってジツハフくんはまだ、純真無垢で幼気な子供なんだから。

「なるほど。それで二人はいなくて代わりにドラゴンが……そういうことだったんですね」

 ミライは深くうなずいている。

「あのドラゴンには驚きました。私の書いた脚本には存在しなかったので、出てきたときは焦りました。失言しかけましたよ」

 その言葉を聞きつつ……俺はとあることにようやく気がついた。

「本当に『原作者のミライが知らないドラゴン』だったのかよ!」

 適当な名前つけやがって、とか思ってたけど事実だったのね。

 ごめんなさい。

「謙遜はよしてください、ミライさん」

 創流御九条さんがミライを褒めはじめる。

「ドラゴン登場からのあなたのアドリブは、本当に素晴らしかったです」

「褒めないでください。あれくらい当然ですよ。私は超優秀なメイドですからね」

「いや、本当に優秀なメイドは『原作者の知らないドラゴン』とかいうバレそうな名前つけないと思うぞ。なんなら失言しまくってたぞ」

 だってミライは、ゲンシドラゴンにジツハフくんと同乗していたイツモフさんに対して、

『早く敵として現れてくださーい。みんなだって操られているんですよー。ここは敵になる場面ですよねー。そういう展開ですよねー。自分の役割を遂行してくださーい』

 って叫んでたんだから。

 めちゃくちゃ脚本に執着していて、全然アドリブに対応できてなかったんだから。

「なぁなぁ」

 そのとき、禿げ散らかしたおじさん――リト・ディアさんが俺の肩をツンツンしてきた。

「ちなみに、アテウ・マークが発生させた魔法陣とか、ゲンシドラゴンの黒いブレスとか、全部わしが遠隔で出してたま・ほ・う。すごくない? ねぇ、あんな強い魔法を放てるわしすごくない? イケメンじゃない?」

「はいはい、イケメンかどうかは置いといて確かにすごいですね」

 褒めてくれオーラが半端なかったので、仕方なく褒めてやると。

「そうだろうそうだろう。あの時間を止める魔法もすごくない? あれ使えるの、この世界でわしだけだぞ」

 もっと褒めてぇ、みたいな目をして更なる自慢をしてきた。

「あれ? その魔法ってマーズが使ったんじゃ、ってかマーズは魔力をすべて……いや、ミライの脚本でみんなが演技してたってことは」

「ええ。私は魔力を失ってなどいないわよ」

 鞭に縛られたままのマーズが平然とそう答える。

 なんだ、それならよかった。

「いや普通によくなかったわ! 俺たち普通にゲンシドラゴンにやられかけてたんだけど! 普通にかなりのダメージ受けてるんだけど!」

 あの痛みが本物だったからこそ、あそこまでの絶望を覚えたのだ。

「なにを言っておるのじゃ、この男は」

 禿げ散らかしたおじさんであるリト・ディアが、俺を冷めた目で見ながらつづける。

「むしろわしたちはご褒美を与えていたんじゃが。そこのミライさんから、『二人はドMだから遠慮なく攻撃を仕掛けてくれ、それがご褒美になる』と言われていたから、その通りにしたまでじゃが」

「僕もそうだよ」

 ゲンシドラゴンを操っていたジツハフくんもつづく。

「誠道お兄ちゃんたちを傷つけるのは心苦しかったけど、僕は心を鬼にしてストレス発散……じゃなくてピンチを作って誠道お兄ちゃんが告白できるよう、ミライお姉ちゃんから言われたことを忠実に守っただけなんだ」

 ジツハフくんが弁明し終えると、操られていたふりをしていた聖ちゃんたちが、うんうんとうなずきはじめる。

 コハクちゃんにいたっては『これが誰かに必要とされることなんですねぇ』とつぶやいていた……後でその誤解は解いておかないと。

 そういえば、なんかやけにコハクちゃんの攻撃をマーズが受けていた気がするけど、そこに対する考察はもういいや。

「なるほど。だから俺と同じドMのマーズは操られてなかったのか。罪悪感なく攻撃をする対象として……って俺はドMじゃねぇから! ってかそもそも、こんな回りくどいことする必要あったのかよ!」

「緊迫感のためです! 誠道さんが告白してこないせいで、現実味を持たせるために私まで攻撃を何度も受けたんですよ! 大切な彼女を傷つけさせるなんて彼氏としてどうなんですか! 逆に誠道さんが謝るべきです! このままだとDV彼氏まっしぐらです!」

「そんな暴論許されるかぁ!」

「みんな! 私にはこれからもどんどん攻撃してきていいのよ! 特にコハクちゃん! あなたの攻撃はとてもよかったわ!」

「ありがとうございますマーズさん! でも恩人であるマーズさんにはもう攻撃はできません」

「そんなぁ」

「マーズもコハクちゃんもいいかげんにしろよ!」

 暴走している二人にツッコんでから、俺は誤魔化すように前髪をいじりつつ。

「ってかさミライ、そもそも前提が間違ってんだけど」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

処理中です...