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最終章 2 フェニックスハイランドはきっと貸し切り

結果、お得に

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 割引を受けられなかったので、イツモフさんの店でタピオカミルクティーを一つだけ購入した。

 出店から少し離れたところにあったベンチに座り、まず俺が一口飲む。

 普通においしかった。

 少し大きめのストローを通って口にちゅるっと入ってくるタピオカは、不思議な弾力があって意外と癖になる。

 なるほどね、これは流行るわけだ。

「誠道さん。私も飲みたいです」

「そっか。ほら」

「ありがとうございます」

 流れるような動作でミライにタピオカミルクティーを手渡す。

 なにかおかしなところなかったよね?

 間接キッスで動揺していいのは中学生までだからね。

 自然に振る舞えていたか自信はないけど、イツモフさんたちのせいで一つしか買えなかったんだからしょうがない。

 こうして間接キッスによるドキドキを味わう羽目になったのも、わけのわからないキャンペーンをしていたイツモフさんのおかげ――せいだからね!

「それじゃあ、いただきます」

 うつむき加減のミライが髪を耳にかけ、ストローを口に咥える。

 ストローの中をミルクティーとタピオカが昇っていく。

「おしいですね、これ」

 ストローを口から離したミライが、少し赤い頬に手を添えつつ、満足げにつぶやく。

「私、タピオカって初めて飲んだんですけど、流行った理由がわかりました」

 ミライがタピオカを返してきたので受け取って……まじまじとストローを見つめてしまう。

 か、間接キッスなんて意識するのは中学生までなのに、さっきミライが咥えたこのストローに口を近づけられない。

 緊張してしまう。

 でも、このまま固まっているのは逆におかしいんじゃないか?

 別になにも気にせず、普通ですよって感じで咥えればいいだけ。

 飲めばいいだけなのに、タピオカが入っている容器を握りつぶしてしまいそうなほど、手に力が入っている。

「まあ、二つ買うと二億リスズってよく考えなくてもおかしいですけど、これはこれで私にとっては得だったので、許してあげますか」

「え? なんか言った?」

 目の前のストローに集中し過ぎていたため、ミライがなにを言ったのか聞き逃してしまった。

「ああ、声に出ていたんですね。独り言のつもりでした」

 口を押えたミライは、こてりと首を傾げてはにかみ笑いを浮かべる。

「聞こえなかったなら、内緒です。タピオカがおいしいと言ったんですよ」

「そ、そっか」

「誠道さん、それ、もう飲まないんですか?」

「え、あ、ああ飲むよ。普通に」

 ミライに指摘され、退路がなくなる。

 覚悟を決めてストローを口に咥えて、思い切りすする。

 ミルクティーの甘さも、タピオカの不思議な弾力も、今回はまったく感じることができなかった。
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