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第6章 6 絶世の美女と真実の愛

他になにもいらない

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 あれ?

 俺はいままでなにをしていたんだっけ。

 いまなにをしているんだっけ。

 なにをしたかったんだっけ。

 なにがほしかったんだっけ。

 なにを思っていたんだっけ。

 わからない。

 なにもわからないけど。

 なんだ、この感覚は。

 火山の噴火口に落ちたみたいだ。

 体が熱くてとろけてマグマに混ざってしまいそうな、そんな感覚。

 甘ったるくて、優しくて、懐かしい匂いに包まれている。

 やすらいでいく。

 どくん、どくん、とその存在を声高に主張するかのように、心臓が収縮を繰り返している。

 胸の奥深くから湧き上がってくる衝撃が、俺を従わせようとしているなにかを弾き飛ばそうとしている。

 唇がなにかに触れている。

 柔らかいけれど、しっかりとした弾力も兼ね備えているなにか。

 ずっと求めていた、懐かしいなにか。

 受け入れつづけたいと願って祈って、気がつけば俺もその柔らかさを求め返していた。

 俺じゃない別の誰かの体温が唇を通して流れ込んできて、俺の体温と混じり合って、俺たちはひとつになっていく。

 ものすごく幸せな感覚だった。

 これ以上はもうないと、そう確信していた気がする。

 さっきまで重いと感じていた体が、急に軽くなった。

 それまでも目を開けていたのに、見えない瞼をもう一回開いたような感覚だ。

 ……え。

 そのつぶやきは、口が塞がれているせいで言葉にはならなかった。

 誰かが、俺の前にいる。

 長いまつげがまず目に入った。

 とにかく近い。

 ミライだ。

 ミライ背伸びをして、少しだけ顔を上に向けて……というより、あれ、俺、これ……。

 ミライと、キスしてない? 

 それに気がついた瞬間、俺は咄嗟に離れようとした。

 しかし、離れることができない。

 ミライが俺をきつく抱きしめていたから。

 顔だけでも、唇だけでも離そうとしたのだが、俺が顔を動かすのがわかっているかのようにミライもその後についてくる。

 キスをやめることができない。

 どくん、どくん、どくん、どくん。

 というより、なんで俺はミライとキスしてるんだ?

 たしか……俺が女奴隷化されるのを防ぐために、オリョウを気絶させないといけなくて……それで、それで…………。

 ああ、ダメだ。

 なにも考えられない。

 ミライとのキスが気持ちよすぎて、脳がとろけてしまっていて、思考どころじゃない。

 記憶どころじゃない。

 現実どころじゃない。

 満たされていく。

 なにがとかではなく、体のすべてが満たされていく。

 俺も、ミライを抱きしめ返していた。

 俺のその行動にミライはびっくりしたのか一瞬か体が硬くなったが、すぐに受け入れてくれた。

 さらに強く唇を押しつけてきた。

 どくんどくんどくんどくん。

 俺は頭の中でミライの名前を何度も叫ぶ。

 この幸せがあれば、この時間があれば、この瞬間があれば他になにもいらないと、心からそう思っていた。
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